コロナ禍を経てオンラインショッピングの利用件数が急増した。その便利さの裏側で、アパレル企業は返品件数の増加に頭を悩ませている。英国ファッション協会の調査レポートから返品問題の解決策を探る。
2023年3月、英国ファッション協会(British Fashion Council:BFC)内の、ファッションにおける持続可能性と倫理性を促進する組織Institute of Positive Fashion Forum(IPF)は、返品に伴うコストをビジネスと環境保護の両面から評価する調査レポート「Solving Fashion’s Products Returns」を公開した。同レポートの元となる調査には、郵便・物流企業Deutsche Post(DHL)とコンサルティング企業Roland Bergerが協力した。アパレル企業の課題である返品問題を取り上げる本連載の第2回は、BFCの調査レポートからアパレル企業が着手すべきアクションを考察する。
Solving Fashion’s Products Returnsは、アパレル業界が抱える返品という課題に対して、アパレルメーカーやアパレルリサイクルの最前線で活動する組織と共に解決策を提示している。調査レポートは2022年7〜8月、英国のオンラインショッピングの消費者1503人に実施したアンケート調査と、2022年6〜10月に以下を含む企業や団体20組織に実施したインタビューに基づく。
調査レポートによると、2022年に英国で発生した返品作業に掛かった費用は70億ポンド以上で、輸送や倉庫での管理、再梱包(こんぽう)や廃棄を通じて推定約75万トンの二酸化炭素(CO2)を排出した。約75万トンのうち半分は、消費者から販売元に商品を戻す「リバースロジスティクス」において生じたとレポートは指摘する。
消費者に返品の理由を尋ねたところ、「サイズやフィット感が違う」(93%)、「期待通りの品質ではない」(81%)が上位に挙がった。返品を防ぐ効果が最も高い手段として「手数料の請求」を回答者の56%が選択した。調査レポートは、返品を減らすチャンスはアパレル企業が提供できると指摘する。アパレル企業には、消費者が「商品を手に取ったときに適切な選択を実施できるように支援する責任」があるという。その責任を行動に移すため、同レポートは「返品の原因を把握し、可能な限り効果的な方法で返品を減らすことができる」ようにするためのデジタル技術の活用をアパレル業者に提起している。
例えば分析技術を用いて生成したデータは、アパレル業界全体のビジネスの透明性向上に寄与する可能性がある。返品プロセスを含め、商品が流通する全工程で排出される二酸化炭素量を関係事業者が把握できるようになるからだ。「この取り組みを実施して初めて、小売業者は自社の業績改善に着手できるようになる」と同レポートは報告する。
調査レポートは返品を防ぐ手だてとして、デジタル採寸技術とアバター(消費者の代わりとなる仮想キャラクター)の活用を挙げる。採寸したデータに基づいてアバターを作成し、消費者が自分のサイズを視覚的に理解できるようにすることで、適切なサイズの衣料品を選ぶ支援をするためだ。Roland Bergerは、「Webサイトでの売り上げが全体の約70%を占める大手アパレル企業では、デジタル採寸とアバターを導入することで返品処理のコストを20〜40%削減できる可能性がある」と指摘する。
返品作業の作業効率やコスト効率を高め、CO2排出量を削減するには、「デジタルプロダクトパスポート」(DPP)の導入や倉庫作業の自動化への投資も重要だ。デジタルプロダクトパスポートは、商品の持続可能性を証明するために製造元や製造で使用した材料、リサイクル性や廃棄方法といったデータを搭載し、その商品を追跡できるようにする仕組みだ。
BFCのCEOキャロライン・ラッシュ氏は、調査レポートの基礎となるプロジェクトは「環境と社会に配慮しながら堅実で収益性の高い事業を実施するには、イノベーションへの投資が重要だ」という理解に基づくと説明する。
第3回は、返品問題に対してアパレル企業が実施できる取り組みと、消費者に行動を促す取り組みを専門家の意見から紹介する。
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