SAPユーザーの信頼に“暗い影”を落とした「RISE with SAP」を巡る騒動RISE with SAPがもたらした亀裂【前編】

SAPが新機能の提供に関して打ち出した方針が、ユーザー企業の間で波乱を呼んでいる。ユーザー企業団体が強い懸念を示すのはなぜなのか。

2024年02月02日 08時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

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 英国およびアイルランドにおけるSAPユーザー企業団体UKISUG(UK and Ireland SAP User Group)によれば、SAPはユーザー企業の信頼を失いつつある。

 SAPのERP(統合業務)システム「SAP ERP Central Component」(以下、ECC)は2027年に保守サポートが終了する見込みだ。ECCの次世代版「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)への移行を加速させるための選択肢として、ERPシステムのクラウドサービス移行を支援するサービス群「RISE with SAP」が注目を集めていた。しかし2023年8月に同社のCEOクリスチャン・クライン氏が発表した「新機能の提供方法」に関する方針を巡り、ユーザー企業の間に不信感が漂っているという。どういうことなのか。

RISE with SAPを取り巻く騒動

 SAPは2023年7月の第2四半期業績報告で、S/4HANAのユーザー企業が新機能を受け取る方法に関する変更を発表した。従来、このような新機能のアップデートは同社の年間ソフトウェア保守料金に含まれており、ユーザー企業はバグの修正や追加機能を享受できた。しかし今後は、テキストや画像などをAI(人工知能)技術で自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)関連機能や、「サステナビリティ管理ソリューション」のような新しい機能はRISE with SAPを利用しているユーザー企業に限定して配布されるとみられる。

 業績報告の場でクライン氏はこう説明した。「SAPの最新機能は、SAPのパブリッククラウドとプライベートクラウドのみに提供し、機能追加にはRISE with SAPを使用する。これによってわれわれは速度とアジリティー(機敏性)、品質、効率性を備えた革新的な機能を提供する」

 この発表の後、ドイツのSAPユーザー企業団体Deutschsprachige SAP-Anwendergruppe(DSAG)は「オンプレミスシステムでSAP製品を利用しているユーザー企業に、直ちに影響を及ぼす」と懸念を表明した。

信頼回復に努めるSAP

 世界各国のユーザー企業に漂う不信感を受け止め、SAPは信頼回復に努める動きを見せている。UKISUGによれば、同団体が2023年11月に開催した年次カンファレンス「UKISUG Connect 2023」で、SAPの英国およびアイルランド担当責任者に就任したライアン・ポッジ氏は、同社にとっては触れたくない話題――つまりRISE with SAPを取り巻く騒動に言及した。「同社はRISE with SAPを利用していないユーザー企業へのサポートを用意する必要がある」という意見には一理ある。

 UKISUG会長のポール・クーパー氏は、投資家の視点から見るとSAPの戦略転換は「ソフトウェアのサブスクリプションライセンスにユーザー企業を移行させる狙い」があるものだと考える。一方で同社のユーザー企業に対する影響力という視点においては、「同社製品に情熱を傾けるユーザー企業の声も重視しなければならない」とも話す。UKISUG Connect 2023の場では、ユーザー企業同士が人脈を構築し、協力し合い、システム導入の経験を共有していた。「SAPは投資家をこの場に連れてきて、われわれユーザー企業の姿を見せる必要がある」とクーパー氏は付け加える。


 後編は、SAPの戦略転換に対するユーザー企業の声を紹介する。

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