SAPが新機能の提供に関して打ち出した方針が、ユーザー企業の間で波乱を呼んでいる。ユーザー企業団体が強い懸念を示すのはなぜなのか。
英国およびアイルランドにおけるSAPユーザー企業団体UKISUG(UK and Ireland SAP User Group)によれば、SAPはユーザー企業の信頼を失いつつある。
SAPのERP(統合業務)システム「SAP ERP Central Component」(以下、ECC)は2027年に保守サポートが終了する見込みだ。ECCの次世代版「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)への移行を加速させるための選択肢として、ERPシステムのクラウドサービス移行を支援するサービス群「RISE with SAP」が注目を集めていた。しかし2023年8月に同社のCEOクリスチャン・クライン氏が発表した「新機能の提供方法」に関する方針を巡り、ユーザー企業の間に不信感が漂っているという。どういうことなのか。
SAPは2023年7月の第2四半期業績報告で、S/4HANAのユーザー企業が新機能を受け取る方法に関する変更を発表した。従来、このような新機能のアップデートは同社の年間ソフトウェア保守料金に含まれており、ユーザー企業はバグの修正や追加機能を享受できた。しかし今後は、テキストや画像などをAI(人工知能)技術で自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)関連機能や、「サステナビリティ管理ソリューション」のような新しい機能はRISE with SAPを利用しているユーザー企業に限定して配布されるとみられる。
業績報告の場でクライン氏はこう説明した。「SAPの最新機能は、SAPのパブリッククラウドとプライベートクラウドのみに提供し、機能追加にはRISE with SAPを使用する。これによってわれわれは速度とアジリティー(機敏性)、品質、効率性を備えた革新的な機能を提供する」
この発表の後、ドイツのSAPユーザー企業団体Deutschsprachige SAP-Anwendergruppe(DSAG)は「オンプレミスシステムでSAP製品を利用しているユーザー企業に、直ちに影響を及ぼす」と懸念を表明した。
世界各国のユーザー企業に漂う不信感を受け止め、SAPは信頼回復に努める動きを見せている。UKISUGによれば、同団体が2023年11月に開催した年次カンファレンス「UKISUG Connect 2023」で、SAPの英国およびアイルランド担当責任者に就任したライアン・ポッジ氏は、同社にとっては触れたくない話題――つまりRISE with SAPを取り巻く騒動に言及した。「同社はRISE with SAPを利用していないユーザー企業へのサポートを用意する必要がある」という意見には一理ある。
UKISUG会長のポール・クーパー氏は、投資家の視点から見るとSAPの戦略転換は「ソフトウェアのサブスクリプションライセンスにユーザー企業を移行させる狙い」があるものだと考える。一方で同社のユーザー企業に対する影響力という視点においては、「同社製品に情熱を傾けるユーザー企業の声も重視しなければならない」とも話す。UKISUG Connect 2023の場では、ユーザー企業同士が人脈を構築し、協力し合い、システム導入の経験を共有していた。「SAPは投資家をこの場に連れてきて、われわれユーザー企業の姿を見せる必要がある」とクーパー氏は付け加える。
後編は、SAPの戦略転換に対するユーザー企業の声を紹介する。
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
サプライチェーンリスクが多様化する中、いかにして適切なリスクマネジメントを実践し、持続可能なサプライチェーンを構築していくかが大きな課題になっている。課題を解消し、サプライチェーン変革を実現するためのヒントを紹介する。
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授と富士通の瀧澤健氏が「サステナビリティへの取り組みと持続可能な成長の両立」をテーマに対談を行った。本資料では、企業の在り方が多角的・本質的な視点で議論された本対談を抜粋して紹介する。
従業員にさまざまなサービスを提供するHR業務に、生成AIを導入する動きが加速している。生成AIは、HR業務が抱えている課題をどのように解決し、従業員エクスペリエンス(EX)の品質向上と組織全体の生産性向上に貢献するのだろうか。
優秀な人材を採用するためには面接が欠かせないが、応募者のAI活用スキルも上がり、書類選考では見極めが難しい。また面接は実施数が多いと人事担当者の負担が大きくなる。そこで取り入れたいのが、動画での応募とAIを活用する方法だ。
「働き方改革関連法」の施行に伴い、労働時間の適正把握や時間外労働の上限規制など、企業はさまざまな対応を進めてきた。しかし、適切な対応ができているか改めて点検すべき点もある。企業が取るべき実務対応について解説する。
「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...