返品したら終わりじゃない――小売業者の苦悩を軽減するテクノロジーの力とはテクノロジーで変えるネット通販の返品問題【第3回】

インターネット通販における返品は小売企業にとって頭の痛い問題だ。返品件数を減らし、消費者の顧客満足度を高めるためには、テクノロジーをどう活用すればよいのかを検討する。

2024年02月06日 08時00分 公開
[Ben SillitoeTechTarget]

 ファッションブランドH&Mを手掛けるH & M Hennes & MauritzやオンラインファッションブランドBoohooを手掛けるboohoo.com UK、ファッションブランドZaraを手掛けるスペインのInditexなどのアパレル企業が、相次いで返品時の手数料の請求を始めた。アパレル企業の課題である返品問題を取り上げる本連載の第3回は、テクノロジーで問題の解決に立ち向かう企業の取り組みや専門家の声を紹介する。

返品を減らすためのテクノロジーとは

 ファッションブランドNextを手掛けるアパレル企業Next が2022年8月に公開したレポート「Trading Statement」によると、2022年度上半期、オンラインで販売した商品の42%が返品されたという。英国のファッションブランドSosandarは、2022年7月に公開した2021年度の決算報告において、返品率を45%と想定している。

 英国の小売業向けコンサルティング企業NBK Retailの創業者兼アナリストのナタリー・バーグ氏は、小売業者は、返品時に手数料を請求することで消費者に「ムチ」を打つことになると考える。その一方で、「環境に配慮した消費行動を消費者に促すために『アメ』を与える方法も必要だ」と指摘する。

 2023年10月、サプライチェーンソフトウェアベンダーのManhattan Associatesがフランスで開催したイベント「Exchange 2023」でバーグ氏は、「アメ」を与える方法として環境に配慮した配送方法を選択した消費者が報酬を得られる仕組みを提案した。返品がEC(Eコマース:電子商取引)事業の収益性に影響を及ぼしていることは明らかだ。報奨の仕組みをどのように実現するのかは業界次第であり、あまり返品をしない消費者に報奨を与えることは一つの手だ。

 いずれにせよ、「消費者自身が購買状況を把握できる仕組み作りが必要だ」とバーグ氏は説明する。Manhattan Associatesがオンラインショッピングを使う理由を消費者に聞いた調査では、その大半が「利便性」を選び、「環境保護」を選んだ回答者は10%にも満たなかったという。同氏はこの結果が、返品に伴う問題を消費者がどれだけ理解していないのかを表すと指摘する。この調査は、12カ国の成人の消費者6000人と年商1億ドル以上の大手小売企業のマネジャー層以上1150人を対象に、2023年3〜5月に実施したものだ。同社はその結果を調査レポート「What’s Next for Shoppers and Retailers?」で公開している。

消費者が商品の流れを制御するメリット

 Manhattan AssociatesはExchange 2023で、小売業者の返品処理に寄与する技術を公開した。同社でプロダクトマネジメント担当シニアバイスプレジデントを務めるブライアン・キンセラ氏は次のように語る。「当社は消費者が注文の送信ボタンをクリックした後のプロセスをコントロールできるようにするための技術に投資した」

 キンセラ氏はこれを「消費者が『フルフィルメント』をコントロールするための技術」と呼ぶ。フルフィルメントはECサイトでの受注後、梱包(こんぽう)や在庫管理、発送、消費者への商品受け渡し、代金回収までのプロセスで発生する一連の業務を指す。Manhattan Associatesが提供する技術の一つが、オムニチャネル(さまざまな接点を通じて顧客とコミュニケーションを取る手法)を形成するために必要なツールやインフラをサービスとして適用するOmni Channel as a Service(OCaaS)の「Manhattan Active Omni」だ。

 Manhattan Active Omniは、小売業者におけるECサイトでの受注管理とフルフィルメント機能を一括管理し、オムニチャネル構築を支援する。小売業者が自社のECサイトにManhattan Active Omniを組み込むと、消費者が購入後に配送先住所や数量、発注内容を変更できる期間を設ける仕組みを導入可能だ。「消費者は気が変わったら注文をキャンセルでき、結果として不要な購入や返品を減らすこともできる」と同氏は説明する。D2C(オンラインによる直販)業者がManhattan Active Omniを導入すれば、受注後のフルフィルメントプロセスに消費者が積極的に関わることも可能になるという。

 例えば商品の店舗受け取りプロセスにおいてCX(顧客体験)を強化すれば、顧客満足度は向上し、返品率が下がる可能性がある。「返品や交換の業務で生じるコストや二酸化炭素(CO2)排出量を考えると、返品自体の件数を減らすことが重要だ」とキンセラ氏は話す。

 Manhattan Associatesの技術は、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を中心としてアプリケーションの設計を検討するアプローチ「APIファースト」に基づく。同社の技術の主な目的が持続可能性ではないことをキンセラ氏は認めている。その目的は、消費者を念頭に置いてサプライチェーンをより適切に管理することだ。一方で同氏は、「事業の効率性と持続可能性は密接に結び付いている」との考えを示す。

 「コスト削減や効率向上」と「CO2排出量削減や持続可能性の向上」は、密接な関係にあるというのがキンセラ氏の考えだ。例として輸送管理システムには、小売業者が可能な限り短い距離で商品を輸送するという目的があり、倉庫管理ツールには、コンテナへの最適な商品搬入を実施するという目的がある。

 返品も同様だ。小売業者がManhattan Active Omniを導入することで、フルフィルメントのプロセスに消費者が関与できるようになるだけではなく、効率的な返品が可能になるとキンセラ氏は考える。「返品された全商品をとにかく1カ所に集め、都度返品処理した上で配送プロセスに流すのが一般的だ。どの商品がどの店舗で必要かを特定し、最も近い店舗に配送するといったプロセスを実現できるとよい」(キンセラ氏)


 第4回は、テクノロジーを使って返品問題に立ち向かう企業の取り組みを紹介する。

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