Bentley Motorsの最高データ責任者は、データ戦略の一環としてオンプレミスDWHからクラウドDWHに移行した。製品選定の際に同社がこだわったポイントは何だったのか。
英大手自動車メーカーBentley Motorsで初の最高データ責任者(CDO)に就任したアンディ・ムーア氏。同氏は、社内のデータ活用を推進するセントラルデータオフィス(Central Data Office)を立ち上げ、データガバナンス管理やデータサイエンティストの採用・育成などの施策に注力した。
こうしたデータ戦略の一環として、同氏はどのデータウェアハウス(DWH)を選んだのか。システム選定の際に意識していたのはどのような課題だったのか。
ムーア氏は「将来の変化や新しい技術の導入に柔軟に対処できるようなデータ管理システムを探していた」と話す。新たなシステムの導入を検討する際にはさまざまな壁にぶつかる。例えば、導入を検討しているシステムからよい評判しか聞こえてこなかったり、他社での使用事例が不足していたりするために、そのシステムを本当に導入してよいのか判断できなくなるといった具合だ。新たなシステムの導入は、時間とコストを必要とする投資だといえる。「導入を検討しているシステムはどのような価値をもたらすのか」と問いかけ、投資の目的と期待するリターンを明らかにする必要がある――同氏はこう説明する。
こうして「投資に見合う価値」を意識するようになったことから、ムーア氏と同氏が率いるチームは、「事業部門が長期目標を達成させるのに役立つ技術」の導入を検討するようになった。その一環としてムーア氏は、IT調達に関わる手続きを一通り経た上で、クラウドDWHベンダーSnowflakeの同名サービスを選択した。
Snowflakeの選定に影響を及ぼした要因の一つは、Bentley Motorsが複数のクラウドサービスを使い分ける「マルチクラウド」のアプローチを望んでいたことだ。
クラウドサービスへの移行は企業文化の変革を迫るものだ。それまでオンプレミスDWHを使用してきたBentley Motorsにとっては特にその意味が強かった、とムーア氏は振り返る。クラウドDWHに移行した現在は社内のあらゆる部門が、マルチクラウド戦略の一環としてデータを最大限に活用できる方法を模索しているという。従業員が安全で効率よく社内データを活用できる標準的な方法を策定することも同氏の目標の一つだ。
データ品質は、Bentley Motorsにとって重要な要素だ。従業員全員が同じデータを使って業務報告を実施する。経営陣への報告にも使えるようなデータでなければならない。だからこそ「さまざまなデータの総和が実態と懸け離れたものになるようなことはあってはならない」とムーア氏は強調する。経営層から一般の従業員まで、誰もが同質のデータを作成し、アクセスできるようにすることが大切だ。高品質なデータは、購買部門や技術部門をはじめ、どの部門にとっても有用だからだ。
新しい技術の登場が企業の変化を後押しすることもある。例えば人工知能(AI)技術を社内のさまざまな場面で利用するには、従業員の誰もが関連の技術とデータをある程度理解しておく必要がある、とムーア氏は考えている。
AI技術はどこでも注目の話題だ。ムーア氏は、AI技術に飛びつく前に基本を理解することが大切だと主張する。基礎がなければ応用ができないからだ。まずはAI技術を使うための基盤作りが必要だ。一方で同氏は、AI技術が業務プロセスや製品開発に肯定的な変化を及ぼすことも認識している。AI技術の動向を注視し、導入する条件や時期を見極めることも「CDOとしての役割だ」と同氏は語る。
OpenAIを筆頭に、さまざまなベンダーから新しいAI技術が登場し、世間をにぎわせている。テキストや画像などを自動生成するAI技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)を検索エンジンに搭載する動きは広がり、「NLP(自然言語処理)ツールがデフォルトでソフトウェアに搭載される日も近い」とムーア氏は推測する。プログラマーが「Copilot for Microsoft 365」(旧称:Microsoft 365 Copilot)のような業務支援ツールを使う場面も出てくる、と同氏は添える。
「AI技術は、人が気づきもしない形でさまざまなシステムに導入されるはずだ。ビジネスにおいては裏方として活躍し、ひそかに自分たちを支えてくれる存在になる」。ムーア氏はAI技術の将来像についてこう語る。
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