顧客体験の向上で将来を見据える ベントレーモーターズCDOインタビュー老舗自動車メーカーのデータ活用術【前編】

Bentley Motorsのアンディ・ムーア氏は、データ活用の重要性を認識しデータオフィスを設立し、その後最高データ責任者(CDO)になった。CDO登用までの道のりは。

2024年02月09日 08時00分 公開
[Mark SamuelsTechTarget]

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 英大手自動車メーカーBentley Motorsで最高データ責任者(CDO)を務めるアンディ・ムーア氏は自動車が好きな子どもだったという。幸いなことにムーア氏は、20年以上同社に勤務する中で、その情熱をデータ部門のリーダーとして昇華することができた。「自分の次のキャリアを考える度、Bentley Motorsにはいつも魅力的な選択肢があった。だからこの会社で働き続けられた」と同氏は語る。

 ムーア氏は自動車関連企業で自身のキャリアをスタートさせ、英国と米国で1990年代を過ごし、2000年からBentley Motorsに勤務している。同社への入社に踏み切った理由を「洗練された自動車の製造に携わるチャンスであり、自動車工学の頂点に君臨する企業だったから」だと説明する。同氏は入社以来、データ活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を実施する部門の立ち上げをはじめ、幅広い役職を担ってきた。そして2022年11月、初代CDOに就任した。

ムーア氏がCDOに登用された訳

 ムーア氏によると、CDOに登用されるチャンスが訪れたのは、Bentley Motorsがデータに基づくイノベーションを重視する組織になったからだ。CDO登用前にはデータ&DX(デジタルトランスフォーメーション)部門を設立。同部門を「既存の業務ルールやフローを破壊して社内でテクノロジー利用を加速させる、いわば内なるディスラプター(創造的破壊者)だった」と評す。

 部門立ち上げにおけるミッションの一つは、あらゆる部門の従業員が利用できるセルフサービス型のデータ分析を普及させ、表計算ツール「Microsoft Excel」への依存を断ち切ることだった。そこでデータの可視化システムを導入し普及を試みたものの、新たな問題が見つかった。従業員の誰もがデータにアクセスできる環境が整っていなかったのだ。

 「データの可視化を実行するのは大切だが、まずは可視化するためのデータを整理することも重要だ」。ムーア氏はこう振り返る。1919年に創業した歴史ある企業としてBentley Motorsには膨大な量のデータソースがあった。データソースから洞察を得られるようにするために、そしてガバナンスを保持するために、データソースを集約し誰もがアクセスできる仕組みを構築する必要があると理解したのだ。そこで同氏が提案したのが、セントラルデータオフィス(Central Data Office)の創設だった。

 Bentley Motorsは2020年、長期事業戦略「Beyond 100」を発表した。その内容は、「カーボンニュートラル」(CO2排出量と吸収量の相殺)の実現に向けて2030年までに同社の商品ラインアップを電気自動車(EV)に統一することを目指すものだ。同社のデジタル技術に関わる部門はBeyond 100の達成を支援するために、どのように技術を活用するかを模索していたという。セントラルデータオフィスの事業計画を検討していたムーア氏は、「高品質な自動車製造を可能にするだけでなく、顧客サービスの最適化にデータを活用する」ことを中核に据えた。

 コネクテッドカー(自動車のネットワーク接続)が普及したことで、走行車両からはさまざまなデータを取得できるようになり、自動車の中に持ち込める体験の種類も増えた。「自動車はあくまで機械であり『ハードウェア』だが、ソフトウェアの側面もある。そして顧客とのコミュニケーションも重要だ」とムーア氏は強調する。例えばソーシャルメディアからスクレイピング(Webサイトからデータを収集して使いやすく加工すること)したデータを、CRM(顧客関係管理)システムの情報と結び付けることで、顧客体験の向上が期待できる。

 こうした取り組みの結果、カスタマージャーニー(製品やサービスに対する認知から購入までの過程)を追跡するデータ活用の能力が高まったという。Bentley MotorsのWebサイトを経由した最初の関係構築はどうだったか、ディーラーに試乗のリクエストをした際の応対はどうだったか、購入後の顧客サービスはどうだったか――購入前後のあらゆるプロセスで詳細なデータを収集可能になった。

 「私たちはカスタマージャーニーを高度にパーソナライズしたいのだ」とムーア氏は語る。「例えばあなたが製造工場の見学に来たとする。データを丁寧に把握していれば、あなたがBentley Motorsの車の購入を検討している見込み客か、あるいはすでに複数台を所有している『ロイヤルカスタマー』なのかどうかを知ることができる」(ムーア氏)


 中編は、ムーア氏が掲げたデータ戦略や、それを支える社内の仕組み作りについて紹介する。

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