SymphonyAIは、金融機関のさまざまな業務をAI技術で効率化し、金融犯罪を未然に防ぐことを目指している。同社製品ロードマップについて、金融サービス部門プレジデントに話を聞いた。
2017年設立のAI(人工知能)技術ベンダーSymphonyAIは、大手金融機関向けにマネーロンダリング(資金洗浄)の防止や調査を支援する製品を提供している。同社にとって大きな転機となったのは2022年10月、軍需企業BAE Systems傘下で金融犯罪検出サービスを提供するNetRevealを買収したことだ。SymphonyAI金融サービス部門のプレジデントを務めるマイク・フォスター氏に、同社のこれまでの歩みと、同社事業の鍵を握るAI技術の今後について話を聞いた。
―― 「SymphonyAIは2017年設立のスタートアップ(設立後間もない企業)だ」という世間的評価は、大手金融機関と関係を築く上で障害となりましたか。
フォスター氏 設立以来、好調な業績と収益の伸びを実証することができたとはいえ、大手金融機関への参入障壁は非常に高いと感じている。
2022年10月、SymphonyAIはBAE SystemsからNetRevealを買収した。この買収に伴い、世界的な地位を持つ金融機関や保険会社、金融サービス企業など、約180社の顧客を引き継ぐことになった。そうして既存の反マネーロンダリング(Anti Money Laundering:AML)関連システムを使っていた顧客を取り込み、新しく立ち上げたAML製品群「Sensa-NetReveal」の顧客基盤を迅速に強化することができた。
あらゆる金融機関はITベンダーを選定する上で、デューデリジェンス(適正評価)を実施する。買収という手段で顧客基盤を獲得したとしても、当社は顧客から適正評価を受ける必要があった。もし私が一流の金融機関に営業をかけるスタートアップなら、技術の進歩の早さにおじけづいただろう。適正評価を受けてITベンダーとして認識してもらう頃には、どんな技術も時代遅れになってしまう。
―― 大手金融機関だけでなく、AMLの法規制に準拠する必要がある新興の金融ITベンダーもターゲットにしていますか。
フォスター氏 SymphonyAIは従来、企業規模で上位4分の1に入る金融機関に焦点を当ててきた。システム導入にかかる労力や複雑さ、コストを考慮すると、そのような判断が妥当だったからだ。しかし2022年10月にNetRevealを買収し、Sensa-NetRevealを発売したことでターゲットは広がった。Sensa-NetRevealは中小から大手まで組織規模を問わず利用できるSaaS(Software as a Service)だ。大手金融機関との関係を維持するだけではなく、新たな市場の開拓が可能になった。
小規模な金融機関と取引する場合に注意すべき点がある。大規模な金融犯罪に関わった経験がない少人数の従業員がAMLを実施していることだ。そのような組織では何億件もの金融取引が発生するわけではない。そのため、データをリアルタイムで処理し、その結果に基づいて学習するAIモデルの必要性は大手金融機関ほどには高くない。それでも当社はそのような組織と密にコミュニケーションを取る。コンプライアンスを維持するための業務をスプレッドシートを使って手動で実施するのではなく、金融業界の基準に沿いながら、作業を自動化できるシステムを運用できるようになるまで支援するのだ。
―― APAC(アジア太平洋)への進出や新技術の開発などについて、今後の展望を教えてください。
フォスター氏 あまり早く手を広げないようにすることを意識している。われわれは欧州や中東、アフリカ、北米、APACで事業を展開してきた。その中で、シンガポールやマレーシア、オーストラリアで成果を挙げることができた。今後は対象地域をより拡大すると同時に、東南アジアでの協力関係を強化したいと考えている。
技術面では、「Sensa Copilot」に投資している。これはテキストや画像などを自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)のアプリケーションであり、AMLに携わる担当者の業務を支援するものだ。具体的には、疑わしい金融取引を検出した場合、Sensa Copilotがインターネットや金融機関全体のデータから関連情報を検索して収集する。その内容を基にSensa Copilotはレポートを作成する。担当者はそれを参照し、「実際に人間の調査員がその金融取引を調査する必要があるかどうか」を評価する。Sensa Copilotの効果は驚異的で、当社調べではAML調査業務の効率を約70%向上させることができた。
Sensa CopilotはAMLに特化したツールだが、今後は金融機関の本人確認手続き(Know Your Customer:KYC)業務や、支払いに関する紛争解決業務に応用できるように取り組んでいる。特定の組織や団体、個人や国と地域に対して貿易や金融取引を制限する「金融制裁」の業務や、人物や組織、商品、サービスといった情報と制裁リストを照会して詐欺や違法行為を防ぐ「スクリーニング」の業務にも拡張していきたい。
社外との取引を希望するあらゆる企業がスクリーニングの情報にアクセスできるようにしたいとも考えている。金融取引に関する政治的な圧力がすぐに緩和されるとは思えない。そのような中でスクリーニングの情報が誰にとっても開かれたものになれば、世界中のマネーロンダリングに関わる犯罪者に重大な影響を与えるだろう。
SymphonyAIが初期から注目していた課題がもう一つある。マネーロンダリングそのものの手口と隠蔽(いんぺい)の手口がますます巧妙化していることだ。金融機関は疑わしい金融取引や金融犯罪に対処するノウハウを蓄積する中で、ベストプラクティスを共有できるようになった。われわれはそのようなデータを共有するための関係構築に取り組んでいる。まだ初期の段階ではあるが、この取り組みを進めていけば、そして個人識別情報(PII)の管理とアクセスについての課題を解消できれば、事後の対処ではなく、先手を打ったAMLが実現する可能性がある。世界規模で金融犯罪が起こるよりも先にそれを特定できるようにする――これが今後の重点事項の一つだ。
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