NISTの「AI RMF」は“AIリスク管理の基本”となるか?AIガバナンスの標準とは

米国立標準技術研究所(NIST)が発表した「AIリスクマネジメントフレームワーク」(AI RMF)は、企業のAIガバナンスにどのように役立つのか。カンファレンスの内容を基に解説する。

2024年05月27日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

 人工知能(AI)技術は目覚ましい進化を遂げており、将来的にはほとんどの企業がAI技術を導入すると予測される。これから必要になるのは、AIの潜在的なリスクを抑制し、適切な利用を促進するための標準的なリスク管理手法だ。

 米国国立標準技術研究所(NIST)は、AIガバナンスのガイダンスとして「AIリスクマネジメントフレームワーク」(AI RMF)を2023年1月に発表した。国際プライバシー専門家協会(IAPP)が2024年4月にワシントンD.C.で開催したカンファレンス「IAPP Global Privacy Summit 2024」の内容を基に、AI RMFの内容や、その実用性や将来性について解説する。

企業のAI活用を支えるNISTの「AI RMF」とは?

 米国政府は、企業の安全なAI利活用を支援するための取り組みを進めている。2022年、米国政府はAI技術の倫理的な活用に関するガイドライン「AI権利章典の草案」(Blueprint for an AI Bill of Rights)を公開。2023年10月には、バイデン政権が「AIの安全性に係る大統領令」を出している。

 NISTが発表したAI RMFも、この流れの一環で開発された。「責任あるAI」(公平性や透明性、安全性の確保を考慮したAI技術)促進や効率的なAIリスク管理を目的に、AI RMFはAIライフサイクル全体にわたる詳細なガイダンスを提供する。

 AI RMFには4つの「コア」(Core)という概念が存在し、それぞれに複数のカテゴリーとサブカテゴリーが明記される。

  • 統治(Govern)
  • マップ(Map)
  • 測定(Measure)
  • 管理(Manage)

 中でも、サブカテゴリー「Govern 1.6」がAIガバナンスにおいて重要だとフエジェ氏は話す。GOVERN 1.6では、AI技術のユースケース(想定される使用例)のインベントリ(目録)作成が求められる。

 AIガバナンスの強化には、AI技術の適用先や適用方法を理解することが欠かせない。ユースケースのインベントリを作成することは、AIの利用状況を正確に把握し、リスク管理や規制順守を確実にするための第一歩となる。インベントリ作成は、欧州連合(EU)の「AI法」や米国行政管理予算局(OMB)のAI政策でも推奨されている。

NISTの「AI RMF」 その実用性とは?

 「AI RMFはあくまでフレームワーク(枠組み)であり、正式な基準や必須要件となるものではない」。IAPPのAI Governance Centerでマネージングディレクターを務めるアシュリー・カソバン氏はこう指摘すると同時に、「AI RMFはAIガバナンスの出発点として最適だ」とも話す。

 AIガバナンスツールを提供するCredo AIでグローバルポリシー担当ディレクターを務めるエビ・フエジェ氏は、「大半の企業は、AIの独自のユースケースにおいて信頼性を確保するための基準やプロセスを模索している状況だ」と話す。

 特にAIガバナンスに着手したばかりの企業は、リスクを多面的に評価するプロセスを持ち合わせていないことがある。AIガバナンス確立には、ステークホルダーの決定や、潜在的なリスクの洗い出しなど、幅広い視点から状況を理解する必要がある。

 AI RMFは、AIの透明性や説明責任、倫理性確保に役立つベストプラクティスを提供できるため、実用的なツールとなる。

 フエジェ氏は、AI RMFが以下のような幅広いユースケースに適用できる点を評価する。

  • 履歴書の審査
    • AI技術を用いて応募者の履歴書を評価し、適切な候補者を選定する。
  • 信用リスク予測
    • 個人や企業の信用リスクをAIで評価し、融資の可否を判断する。
  • 詐欺検知
    • AI技術を用いて金融取引などのデータから不正行為を検出する。
  • 無人車両
    • 自動運転車など無人車両をAI技術で制御する。
  • 顔認識システム
    • AI技術を用いて顔の認識と判別を実施する。

 AI RMFの作成過程では、草案に対するパブリックコメントの募集があるなど幅広いステークホルダーが関与している。その結果、「企業向けガイダンスとして充実した内容となっている」とフエジェ氏は言う。将来的にAI RMFは、業界標準のガイダンスに発展する可能性があると同氏はみる。特に米連邦政府と取引のある企業が順守する傾向があるためだ。

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