トランプ氏が新設を表明した「政府効率化省」は、マスク氏やラマスワミ氏といった実業家をトップに起用し、連邦職員や支出の大幅な削減を目指す。同省の取り組みに対して専門家が示す、懐疑的な意見とは。
2024年11月の米国大統領選で当選者となったドナルド・トランプ氏は、政府の支出見直しや削減を実施する組織「DOGE」(Department of Government Efficiency:政府効率化省)を新政権に新設すると発表した。DOGEを率いるのは、技術系実業家イーロン・マスク氏とバイオテクノロジー分野の実業家ビベック・ラマスワミ氏だ。
トランプ氏によると、DOGEは米国のホワイトハウス、行政管理予算局(OMB:Office of Management and Budget)と提携して「大規模な構造改革を推進する」役割を担う。政府の役割を本当に「効率化」できるのか。有識者の見解を紹介する。
ラマスワミ氏は、DOGEの活動の一つとして政権発足の初年度に連邦職員の50%を削減する計画を挙げる。他にも、ホワイトハウスが議会に予算要求を直接提出する権限を持つことで無駄な支出を削減するとも明言している。
DOGEは連邦機関の削減に加え、各機関が掲げる規制や執行権限を見直す計画だ。実際に、公的機関が作成した幾つかの規則が法的に異議を唱えられている。例えば連邦取引委員会(FTC)は、従業員が退職後に競合他社で働いたり競合するビジネスを設立したりすることを制限する「競業避止契約」の禁止を通知した。証券取引委員会(SEC)は、企業に対して気候変動に関連するリスクや影響を開示することを求める「気候関連開示規則」を公開している。
ラマスワミ氏はX(旧Twitter)で、「規制の撤廃は『法的な義務』だ」と指摘する。同氏の指摘は、過去の米最高裁判決を複数挙げつつ、「司法判断によって、連邦機関の法律解釈能力と新規則の作成・維持に関する権限が制限された」ことを主張するものだ。マスク氏はこの声明に「世界は過剰な規制によって窒息している」と共感を示し、“不要な”規制の撤廃を訴えた。
情報技術・イノベーション財団(ITIF:Information Technology and Innovation Foundation)プレジデントのロバート・アトキンソン氏 は「ラマスワミ氏とマスク氏は、連邦政府の活動に対する理解が圧倒的に不足しているように見える」と指摘し、ラマスワミ氏の提案を「非現実的だ」と評する。例えばラマスワミ氏が「50%を削減する」と話す連邦職員は、米国の労働者全体のわずか1.9%(約200万人)に過ぎない。
アトキンソン氏は、「どの政権も無駄や賄賂、不正をなくすと言って政権に就くが、すぐに外交問題が発生して、希望は実現しないのが常だ」と説明する。
コーネル大学(Cornell University)で教授を務めるサラ・クレプス氏は、連邦資源や機関の再編よりも、ビジネスの手続きを簡素化する取り組みの方で成果を上げる可能性が高いとみる。
クレプス氏は、「政府の非効率性に対して新たな外部視点を取り入れることには一定の利点がある」とDOGEを評価する。一方で、「過去の政権が解決できなかった積年の問題をDOGEならば解決できる」という主張に対しては、「根拠のない約束につながる恐れがある」と懐疑的な立場だ。
トランプ氏が見せる「政府に起業家的な視点を導入したい」という意向に対して、シンクタンクBrookings Institutionの上級研究員ダレル・ウエスト氏は、「実現は非常に困難だ」との見方を示す。その理由は、連邦政府が企業のような構造を持たないためだという。「ビジネス的な思考を政府に導入すると言うのは簡単だが、それを実行に移すのは極めて難しい」(ウエスト氏)
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