「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をAWSのインフラで実行可能な「GROW with SAP on AWS」が登場したが、その評価は専門家でも二分している。どのようなメリットと懸念があるのか。
ERP(統合基幹業務システム)ベンダーのSAPは、ERPのクラウドサービス移行を支援するサービス群「GROW with SAP on AWS」を、Amazon Web Services(AWS)の年次イベント「AWS re:Invent 2024」で発表した。クラウドサービス型ERP「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」をAWSのインフラで実行可能にするものだ。ただし、その評価は専門家でも二分している。どのようなメリットと懸念があるのか。
SAPが2023年3月に提供を開始した「GROW with SAP」は、クラウドサービスERP「S/4HANA Cloud Public Edition」への移行を支援し、運用コストを抑える中堅企業向けのサービスだ。S/4HANA Cloud Public Editionは、クラウドサービス型ERP「SAP S/4HANA Cloud」のパブリッククラウド版となる。
GROW with SAPの場合、S/4HANA Cloud Public EditionはSAPが構築するクラウドインフラで稼働する。GROW with SAP on AWSでは、ユーザー企業が既に導入しているAWSのインフラでもS/4HANA Cloud Public Editionを稼働させることが可能だと、SAPのジャン・ギルグ氏(クラウドERP部門のプレジデント兼最高製品責任者)は述べる。
GROW with SAP on AWSでは、ユーザー企業はアプリケーション開発基盤「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)の機能「SAP AI Core」を通じてAI(人工知能)モデルを利用できる。AWSの生成AIアプリケーション開発サービス「Amazon Bedrock」も利用可能だ。
GROW with SAP on AWSは、AWSユーザーがサードパーティーのサービスを購入できる「AWS Marketplace」から導入できる。AWS Marketplace経由で提供するため、AWSユーザーが入手しやすくなるだけではなく、SAPとAWSのツールの連携によるメリットを享受できるようになるとギルグ氏は述べる。
「GROW with SAP on AWSは、既にAWSを利用しているSAPユーザーにとって朗報だ」と、企業分析フォーラムDiginomicaの共同創業者ジョン・リード氏は述べる。SAPがS/4HANA Public Cloud Editionを実行させるインフラを、さまざまなクラウドサービスで運用できる共通のインフラに移行する方針を示していると、リード氏は指摘する。
リード氏は「これまでSAPは、S/4HANA Public Cloud Editionを中堅企業向けと位置付けてきた」と振り返る。「SAPは現在、大企業にもS/4HANA Public Cloud Editionを検討するよう促しているが、これは理にかなっている。AWSのインフラで実行させることで、他のAWSのサービスと同様、拡張性に優れることを示せるからだ」(同氏)
SAPはユーザー企業にS/4HANA Cloud Public Editionへの移行を促すことで、AIアシスタント「Joule」を含む生成AIツールも提供できるとリード氏は述べる。
S/4HANA Public Cloud Editionはオンプレミス版ERPのように、ユーザー企業ごとに複雑なデータモデル(データの構造や関係性の定義)のカスタマイズを必要としない。そうした状態において、ユーザー企業はERP向けのAIサービスを導入しやすいというのがリード氏の主張だ。「これがクラウドサービスのセールスポイントだ。ユーザー企業はより簡単かつ迅速にAIサービスを活用できるようになる」(同氏)
一方、「GROW with SAP on AWSは、ユーザー企業がすぐに投資するほどの競争上の差異化要因がない」と、調査会社Technology Evaluation Centersのプリンシパルアナリスト、プレドラグ・ヤコブリェビッチ氏は指摘する。
GROW with SAP on AWSはAWSのインフラでS/4HANA Cloud Public Editionを提供するものに過ぎず、ユーザー企業が「Oracle NetSuite」や「Microsoft Dynamics 365」といったクラウドサービス型ERPよりもS/4HANA Cloud Public Editionを優先する材料にはなり得ないと、ヤコブリェビッチ氏は主張する。AWSのAIモデル「Amazon Nova」を活用できる点も説得力に欠けるという。
ヤコブリェビッチ氏は「Microsoft AzureやGoogle Cloudのような他のクラウドサービスもAIモデルを提供しているので、S/4HANA Cloud Public Editionがどのような点で差異化できるのかが分からない」と疑問を呈する。
【編集履歴:2024年12月10日午後9時17分 記事タイトルを変更しました】
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。
生成AIを業務で使わないマーケターはもはや3割以下 御社はどうする?
HubSpot Japanが日本で実施した調査によると、日本のマーケターの8割以上が従来のマーケ...
新富裕層の攻略法 「インカムリッチ」の財布のひもを緩めるマーケティングとは?
パワーカップルの出現などでこれまでとは異なる富裕層が生まれつつあります。今回の無料e...
ブラックフライデーのオンラインショッピング 日本で売り上げが大幅に増加した製品カテゴリーは?
Criteoは、日本国内のブラックフライデーのオンラインショッピングに関する分析結果を発...