Broadcomが買収したVMwareの新戦略は、生成AIやデータ管理機能の追加などの強化策がある一方で、ライセンス体系の変更も盛り込まれている。この戦略転換はVMwareユーザーにどのような影響をもたらすのか。
仮想化ベンダーVMwareを買収した半導体ベンダーBroadcomは、VMwareの仮想化製品群を、企業向けプライベートクラウドサービスとして再構築しようとしている。この取り組みが継続していることは、2024年11月にスペインのバルセロナで開催されたイベント「VMware Explore」でも明らかになった。
Broadcomはプライベートクラウド構築製品群「VMware Cloud Foundation」(VCF)について、従来型のAI技術だけではなく、画像や文章を作成する「生成AI」を用いたサービスの提供を重視していると業界アナリストはみる。一方で、そうした機能強化の裏にはBroadcomの“ある思惑”があり、必ずしもニーズには合致していないと分析する見方もある。Broadcomはどのような戦略の下で、どのような機能強化を重視しているのか。
イベントでBroadcomの幹部が紹介した主な新サービスやアップデートは以下の通りだ。
調査会社NAND Researchの創設者でアナリストであるスティーブ・マクドウェル氏によると、今回の発表のほとんどは、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoftといった大手クラウドベンダーに対抗した動きだ。
だが「今後のVMware製品の研究開発に関して、Broadcomの姿勢には大きな疑問が残る」とマクドウェル氏は語る。同氏の見立てでは、BroadcomがVMware製品に今後どれだけ投資をするかは不明であり、Broadcomは「現状を維持するために必要なことをしているだけ」だという。
VMwareによるAI技術搭載機能の開発の中心に位置付けられるのがVeloRAINだ。VeloRAINはAI技術を活用して、VMware VeloCloud SD-WANのトラフィック(ネットワークを流れるデータ)の管理と優先順位付けを実施する。VMware VeloCloud SD-WANの開発元であるVeloCloudは、2017年にVMwareに買収された。
VeloRAINは暗号化されたトラフィックを解析し、エッジ(データの発生源であるデバイスの近く)でトラフィックを最適化する。高度な計算処理能力を要求する生成AIアプリケーションや業務用アプリケーションに対し、ネットワークリソースを優先的に割り当てる。Broadcomの説明によると、VeloRAINはVMware VeloCloud SD-WANのネットワークを動的に分割し、AI技術でトラフィックやアプリケーションに割り当ての優先順位を付ける。
Broadcomは、VeloRAINの導入に伴う生成AIの処理負荷増加に対処するため、2つの新しいSD-WAN用物理アプライアンス「VeloCloud Edge 4100」「VeloCloud Edge 5100」を発表した。
アナリスト企業Small World Big Dataの創設者でアナリストのマイク・マチェット氏によると、近年ネットワークを流れる暗号化データが増加しており、その内容を把握してネットワークリソースを適切に割り当てるには、AI技術による支援が必要になっている。実際、機械学習による暗号化通信の分析は確立された技術だ。
一方で、VeloRAINのエンドユーザー単位でアプリケーションの通信を分離、管理する機能については、「現場のニーズからすると優先度は高くない」とマチェット氏は推測する。「個々のユーザープロファイルに合わせてネットワークを調整するほど、ネットワークエンジニアに余裕はない」と同氏は語る。
VCFのセキュリティを強化するVMware vDefendにも、新しい生成AI機能が加わる。2025年初めの導入が計画されている「Intelligent Assist」は、脅威防御のための生成AIアシスタントだ。自然言語での質問を受け付け、十分なスキルを持たないIT担当者が攻撃の兆候を特定してアラートに対処できるよう支援する。アラートの要約、質問への回答、復旧と防御の自動化といった処理を、AI技術で実施するという。
調査会社Futurum Groupのアナリスト、クリスタ・ケース氏によると、セキュリティサービスやセキュリティツールにおいて、生成AIを活用したチャットbotによる自動化の人気が高まっている。「AI技術の理想的な用例は、アラートを精査して真の脅威を見分け、複数のアラート間の関連性を特定することだ」とケース氏は話す。これによって、煩雑な作業を簡略化できると同時に、大量のデータから新たな相関関係を見つけ出すことも可能になる。
既存のセキュリティツールに生成AI機能を追加する際の課題は、ユーザーデータの漏えいだ。「攻撃が巧妙化する中で、BroadcomがAI技術を活用したセキュリティ機能の強化に今後も投資し続けるかどうかは定かではない」とマチェット氏は語る。「今回の機能はマーケティング目的に追加されたものであり、真のニーズに即したものではない」というのが同氏の見解だ。
VMware Tanzu Platform 10では、リレーショナルデータベース管理システム(RDBS)「PostgreSQL」「MySQL」、メッセージングツール「RabbitMQ」、データストアシステム「Valkey」などのデータ処理サービスを、事前に検証された設定で導入し、効率的に管理できるようになる。更新プログラムの適用、プロビジョニング(配備)、冗長化の実施の他、Broadcomのサポートサービスも利用可能だ。主要な生成AIアプリケーションを利用するためのトークン管理や認証、ガバナンス管理といった機能追加も計画されている。
調査会社Forrester Researchのアナリストであるナビーン・チャブラ氏によると、今回発表されたVMware Tanzu Platform 10関連の新サービスは、VMware製品のエコシステムを利用し続けるかどうかを検討しているユーザー企業をとどまらせるための試みだ。「Broadcomは、『われわれはユーザー企業のメリットをいつも考えており、ニーズに応えるためにあらゆる施策を打っている』と言いたいわけだ」と、チャブラ氏は説明する。
Broadcomは、VCFに含まれるツールとサービスの非商用利用ライセンスを、VMUGの有料会員であるVMUG Advantageメンバーに独占提供することも発表した。このライセンスを得るには、認定資格「VMware Certified Professional」(VCP)もしくは「VMware Certified Advanced Professional」(VCAP)のVCFに関する試験に合格する必要がある。VMUG Advantageの会員費は年間210ドルだ。Broadcomによると、VCFの非商用利用ライセンスの有効期限は3年間で、VMUG Advantageメンバーは認定資格の受験料の50%引きを受けることができる。
「これほどのメリットを有料会員に提供するのに、VCF非商用利用ライセンスを導入したい企業に対して金銭的な負担を増やす意味が分からない」とマチェット氏は語る。同氏の発言の背景には、かつてVMware製品のライセンスは、教育や個人的な目的での用途であれば、費用を抑えて使うことができた状況がある。
VMwareが育ててきたエコシステムやコミュニティーと、Broadcomのビジネス優先の姿勢がかみ合っていないことが、最近のVCFの方向性に表れているとチャブラ氏はみる。生成AI、データサービス、その他の製品の追加によって、VCFはクラウドサービスに近い使用感、具体的にはオンデマンドでのサービス提供や運用管理の自動化などが実現しつつある。こうした戦略を通じてBroadcomはVMware製品の料金体系を変えようと試みているが、それが成功するとは限らないという。
「ほとんどのVMwareユーザーは、VCFのサブスクリプションを通じて、VMwareの仮想化製品とそのサポートを使い続けたいだけであって、新しいクラウドサービスを利用したいわけではない」(チャプラ氏)
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