Broadcomが「VMware Tanzu Platform 10」を発表するなど新たな方針を打ち出す中で、VMware製品の今後の見通しは依然として不透明だ。専門家やユーザー企業は状況をどう見ているのか。
Broadcomは「VMware Tanzu Platform 10」(以下、Tanzu Platform 10)を2024年8月に発表するなど新たな製品戦略を打ち出している。そうした中で、VMware製品の提供方針に関する同社の変更が、ユーザー企業に受け入れられるのかどうかに関して専門家の見方は割れている。ユーザー企業は今後、VMware製品の利用に関してどのような選択をする可能性があるのか。
BroadcomはTanzu Platform 10において、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」と、Cloud Foundry Foundationのアプリケーションインフラ管理ソフトウェア「Cloud Foundry」を統合して提供するという考えを具現化した。
同社がTanzu Platform 10の一つの利点として強調するのが、生成AIのアプリケーションを迅速に構築するための機能を提供する点だ。同社のTanzu部門でゼネラルマネジャーを務めるプルニマ・パドマナブハン氏は、「プログラミング言語および開発・実行環境『Java』を利用する開発者にAI技術の可能性を届けることができる」と語る。Tanzu Platform 10では、ユーザーは任意のAIモデルに安全にアクセスできる他、AIモデルの使用量やデータプライバシーなどを管理できる。
一方で、米TechTarget傘下の調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)でアナリストを務めるトーステン・ボルク氏は、データサイエンス領域ではプログラミング言語「Python」が主流である点を前提にすると、AI市場におけるTanzu Platform 10の訴求力は強くないとみている。「Java開発者がPythonを学ぶことなくデータサイエンスに取り組めるという主張をそのまま受け入れることはできない」(ボルク氏)
BroadcomがVMware買収後に実施してきた製品提供方針のさまざまな変更は、Tanzu Platform 10の信頼性にも影響を及ぼす可能性がある。例えばBroadcomは、Amazon Web Services(AWS)による「VMware Cloud on AWS」の販売を終了させた。VMware Cloud on AWSは、AWSのクラウドサービスでVMwareのプライベートクラウド構築製品群を利用できるようにするサービスだ。「サードパーティー製AIやクラウドインフラを管理するための中立的な手段としてTanzu Platform 10を信頼できるかどうか、開発者は懐疑的だ」とボルク氏は指摘する。
どのクラウドサービスでも一貫して同じように運用できるシステム環境を作り出すことは、VMware製品のユーザーにとってメリットとなる。一方で「クラウドサービスやAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を自由に利用したいと考えるユーザーにとっては、VMware製品にロックインされるのではないかという、中立性への懸念も生まれている」とボルク氏は指摘する。
調査会社Forrester Researchでアナリストを務めるナビーン・チャブラ氏は、同社が2023年10月に発表したレポート「Predictions 2024: Technology Infrastructure Addresses A Tumultuous Environment」の中で、「2024年にVMwareユーザーの20%が離脱する」と予測している。Broadcomによる一連の変更に対して強い不満を抱いているユーザー企業もある。
メディア企業SiliconANGLE Media(theCUBE Researchとして事業展開)は2024年8月に発表した報告書で、「VMwareの競合他社は、急な価格上昇に耐え切れない中小企業のユーザー企業を引き付ける可能性がある」と指摘した。同社はVMwareの競合他社として、NutanixやRed Hat、SUSEなどを挙げている。
SiliconANGLE Mediaのロブ・ストレッチー氏は、「一定以上の規模の企業は、インフラやワークフローの変更にかかる手間を考えて値上げに応じるが、投資対効果が見合わないと考えるユーザー企業は離れていくだろう」とみる。VMware製品が完全に廃れることはないにしても、今後広く使われるようになることはないとストレッチー氏は指摘する。
Futurum Group傘下のThe CTO Advisorの社長を務めるキース・タウンゼンド氏は、「Broadcomは、このような事態を予見していた可能性が高い」と話す。Broadcomの戦略は、VMware製品を利用し続けるために追加料金を支払うユーザー企業に焦点を当てている、ということだ。仮に中小企業のユーザーが離脱したとしても、大企業のユーザーがVMware製品を使い続ければ、Broadcomにとってこの買収は成功と位置付けられる。
タウンゼンド氏によれば、もし社内で1万台の仮想マシンを使用している場合、VMwareから離れるという選択肢は現実的でない。「例えば、ネットワーク仮想化ソフトウェア『VMware NSX』といった特定の製品や機能に依存している場合、それを完全に代替できるような製品はほぼ存在しない。事実上身動きが取れない状況だ」(同氏)
一方でチャブラ氏は、タウンゼンド氏の考察に同意しつつも、「身動きの取れない企業でも、クラウドアプリケーションやAIアプリケーションのインフラにVMware製品を選ぼうとは考えないだろう」と指摘する。クラウドサービスやAI関連の取り組みは、通常インフラ担当者とは別の担当者が責任を持つためだ。
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