802.11nベースのAPは、複数のアンテナを使用することにより、ネットワークの範囲を大幅に拡大するとともに、従来のAPで障害の原因となっていた問題にも柔軟に対処する。
本連載のPART1とPART2で説明したように、ワイヤレスデバイスで用いられるアンテナは、無線LANの通信距離、セキュリティおよびパフォーマンスに大きく影響する。新しい802.11nドラフト規格に準拠したアクセスポイント(AP)では、それが一層顕著になる。802.11nベースのAPは、複数のアンテナを使用することにより、ネットワークの範囲と利用可能な帯域を大幅に拡大するとともに、従来の802.11a/b/gベースのAPの障害の原因となっていた問題にも柔軟に対処する。
PART1で述べたように、すべての802.11デバイスは電波を発生させ、その電波をアンテナを使って空中に拡散させる。ベーシックなダイポールアンテナは、あらゆる方向に電波を放射する。これはプールに投げ込んだ小石が波を発生させるのと似ている。さて、この波がプールの壁に当たった様子を思い浮かべていただきたい。一部の波は壁に反射し、後から遅れて壁の方に進んできたほかの波と衝突するだろう。波と波が衝突すると、一部の波はさらに高くなり、一部の波は小さくなったり消滅したりする。
電波が送信機と受信機の間でドアや窓などの障害物に当たったときも、同じようなことが起きる。この現象はマルチパスと呼ばれ、同一の送信電波から生じた多数の反射波がわずかな時間差で受信機に到達する。この過程で、一部の反射波がほかの反射波を増大させたり、減少させたり、ゆがめたりする。
読者の中には、マルチパス現象をアナログテレビで経験した人もいるだろう。いわゆる「ゴースト」だ。人間の頭脳は非常に精巧な入力処理装置であり、少しくらいのゴーストであれば無視することができるのだが、あまりゴーストがひどくなるとテレビ画面が非常に見づらくなる。同様に、マルチパスによるフェージング(受信電波の変動)や遅延がひどくなると、802.11受信機は反射波を正しく理解できなくなったり、信号が劣化して意味のある通信ができなくなったりする可能性がある。
無線LANの速度と通信容量を増大させるために802.11n規格の開発に着手したベンダー各社は、マルチパスを有効に利用しようと考えた。2.4GHzあるいは5GHzの各チャネルが伝送できるデータ量は限られている。しかし、802.11のデータフレームを複数の断片に分割し、これらの断片のそれぞれを異なるパスで送信すれば、そのフレームはより短時間で受信機に到達でき、同じ時間内でより多くのフレームを送信することができる。もちろん、受信機は断片を元のフレームに再合成する方法を知っている必要がある。マルチパスを利用して速度と通信容量を改善するこの手法は、空間多重化と呼ばれる。
802.11nデバイスが空間多重化のメリットを生かすためには、複数の信号を同時に送受信できなければならない。802.11a/b/gデバイスにはその機能がない。複数のダイバーシティアンテナを装備したAPでも、送受信で一度に使われるのは1本のアンテナだけだ。しかし、すべての802.11nデバイスは複数のMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナを使用することにより、利用可能なチャネルを有効に活用する。
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