iPhone 5は、Appleとして初めてLTEに対応した他、5GHz帯の無線LAN接続も可能だ。つまり、高速で安定したネットワーク接続が実現しやすくなる。だが、企業のIT部門は別の新たな課題に直面することになる。
新型iPhone「iPhone 5」のネットワーク機能は企業ユーザーの生産性を高めるだろう。だがその一方で、準備ができていないIT部門は思わぬコスト負担を強いられかねない。
iPhone 5は次世代高速携帯通信サービス「LTE(Long Term Evolution)」に対応した米Apple初のスマートフォンだ。さらにiPhone 5は5GHz帯の無線LANにも対応する。こうした機能強化により、企業ユーザーは社内システムとの間でより高速で安定した通信を行えるようになるはずだ。
「社内システムとデータをやりとりしてモバイルワークを実践している従業員に、大きな影響をもたらすだろう」と、AppleのリセラーでありサービスプロバイダーであるTekserveの最高技術責任者(CTO)、アーロン・フライマーク氏は指摘する。
ただし、従業員のデータ通信料をIT部門が支払うのであれば、IT部門は関連コストに目を光らせる必要がある。3Gネットワーク対応端末と比べて、LTE対応端末ははるかに急速なペースでデータを消費しかねないからだ。
「キャリアとの間でデータ通信料をめぐる対策を何ら講じていない企業は、ショッキングな事態に直面することになる」と指摘するのは、製薬会社Sanofiのモバイルエンジニアリング担当ディレクター、ブライアン・カッツ氏だ。
LTEは、携帯電話の基地局からスマートフォンやタブレットなどの端末にデータを伝送するための最新技術だ。米国のLTEは約20Mbpsのデータ伝送速度を実現でき、通常の家庭用ブロードバンドよりも高速だ。
また5GHz帯無線LANへの対応が追加されたことで、iPhone 5を持つ企業ユーザーは混雑する2.4GHzから5GHzの周波数帯に移行できる。現在の無線LAN機器の大半は2.4GHzの周波数帯を利用しているため、電波干渉が発生しやすく、信号の減衰が起こりやすい。
「既にほとんどの企業では5GHzのインフラが整っている。エンタープライズレベルの無線LANの多くはデュアルチャネル対応だ。そのため、IT部門はiPhone 5の導入を通じて、混雑の激しい2.4GHzチャネルからの移行を進められる」とTekserveのフライマーク氏は指摘する。
「BYOD(私物端末の業務利用)の広がりに伴い、ネットワーク過負荷の問題に悩まされている企業は、5GHz対応の恩恵にあずかれる。自分では何もしなくても、無線ネットワーク容量を増やせるからだ」とさらに同氏。その結果、企業には、システムをモバイル時代のデータ量に対応し得るネットワークにアップグレードする計画を練るまでに、多少の猶予が与えられる。
だが、iPhone 5の新しいネットワーク機能には、「オンラインアクセスに対するユーザーの期待値を高めてしまう」という問題がある。実際には、モバイル端末がLTEに対応して、より高性能な無線技術をサポートするというだけでは、安定した接続が保証されることにはならないからだ。
「LTE接続やWi-Fi接続が安定しない場合に備えて、IT部門はオフラインで業務を継続できる機能を用意しておく必要がある」とエンタープライズモバイルコンサルティング会社Paladorのベンジャミン・ロビンズ社長は指摘する。
「従業員のデータ通信料を負担するのであれば、企業はiPhone 5の発売を機に携帯キャリアとの契約内容を見直すべきだ」とSanofiのカッツ氏は指摘する。キャリアによっては、無制限のデータ通信プランを購入できるケースもある。だがもっと良いのは、一定量のデータ(データプール)を購入して複数の従業員で分け合って利用するタイプのデータプランだ。
「例えば、2人の従業員に対して月間10Gバイトのデータ通信量を購入する。1人が2Gバイト使用し、もう1人が7Gバイト使用した場合、後者は自分の割り当て分を超過したことになるかもしれないが、データプールの容量は超えていないため、全体としては問題ない」とカッツ氏。
データ通信料の増加を緩和する方法として、この他に同氏は以下のようなツールや戦略を紹介している。
「従業員が一度くらいならデータ利用量の上限を超過しても驚かない。そのつもりはなくても、海外ローミングのようなサービスを利用すれば、請求額は1000ドルを超える。従業員はそうしたミスを犯すものだ。その時点で、そうした使い方は駄目だと教えるのがIT部門の役割だ」とフライマーク氏。
なお、ネットワーク機能の強化にもかかわらず、iPhone 5の発表には幾つか残念な点もあった。米Seraphim Groupのエンタープライズモバイルコンサルタント、ボブ・イーガン氏は、iPhone 5で近距離無線通信(NFC)が採用されなかったことや、Bluetooth 4.0に関する新しいニュースがなかった点に言及し、次のように語っている。
「企業はこうした技術をセキュアアクセスの構築からモバイルプリンティングまで、さまざまな用途に活用できるはずだ。モバイル決済だけの問題ではない」(同氏)
企業ユーザーにプラスとなるであろうiPhone 5のもう1つの改善点には、ディスプレーの大型化がある。AppleはiPhone 5でディスプレーの対角線サイズを3.5インチから4インチに拡大した。開発者は確かに、ディスプレーの大型化に合わせてアプリケーションを手直ししなければならない。だが、この大型化は企業ユーザーに大きな違いをもたらすはずだ。
「ワークフォースのモバイル化で難しいのは、優れたユーザーエクスペリエンスを提供することだ。ユーザーが、現場で報告書の入力が必要なフィールドサービスの担当者であろうと、出先でCRMリポートに最新のデータを入力しなければならないアカウントプランナーであろうとだ。こうした作業はいずれも3.5インチのディスプレーでは難しい。GoTo Meeting(オンライン会議システム)などのアプリケーションでは、3.5インチ端末よりも優れたユーザーエクスペリエンスが提供されるはずだ」とイーガン氏は指摘している。
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