トップダウンで失敗するIT導入
“自称ITエキスパート”の経営者が会社のIT戦略をダメにする
経営者がIT部門に相談することなく一方的にIT購入の意思決定をすれば、セキュリティや性能、安定性の諸問題を招きかねない。
IT部門とIT機器購入の権限を持つ経営陣は、会社のITを巡る意思決定で昔から対立してきた。ベンダーやサービス事業者が、使いやすく導入も容易な技術で非技術系の従業員にも照準を合わせる中、この争いは新たな局面に入りつつある。その結果、お粗末な性能や非難の応酬、そして最も厄介なことに、不正侵入に利用されかねないインフラの脆弱性を招くことになる。
IT部門に相談することなく一方的にIT購入の意思決定をする経営者は、結果的に不快な状況を発生させかねない。不適切な製品はセキュリティや性能、安定性の諸問題を招く。ツールやサービスはうまく選ばなければ、既存の製品に対応できない。今こそ両陣営が相互の理解や意志疎通を改善すべきときだと業界専門家は言う。
真の意思決定者は?
「IT購入の意思決定、特にセキュリティ関連の意思決定が、経営陣によって一方的に行われ、その決定のまずさの“つけ”がIT部門に回ってくる状況を、私は目の当たりにしてきた」と話すのは、ネットワークエンジニアのニック・ブラグリオ氏。「優れたリーダーはその問題の専門家に相談し、ネットで(IT製品に関する記事を)読んだだけで何が必要かを判断したりはしない」という。
クラウドベースのサービスやツールの登場を受けて一部のIT業務が社外に移行する中、こうした衝突は激化している。多くのツールはインフラを必要とせず、必然的にIT部門の助けもいらない。そこで中にはIT購入プロセスで先走りしてしまう経営者もいる。「今の世界では、ツールやサービスの多くは単に料金を払えば利用できる商品の1つにすぎず、ソフトウェアやハードウェアも必要としない」。エンドポイントのデータ保護とガバナンスを手掛ける米Druvaのマーケティング担当副社長タイ・リム氏はそう指摘する。
だが買いやすい製品だからといって、それがあらゆる企業のセキュリティ条件を満たす適切な選択肢だとは限らない。多国籍メーカーに勤務するネットワークエンジニアのジョナサン・デイビス氏は、オンライン会議用に米Microsoftと米Cisco Systemsのどちらの製品を選ぶか決めるため、コラボレーションについて論議したときのことを振り返る。両社の製品を比較検討した結果、自社のニーズに基づくとCiscoの方が明らかに優れていると判断した。そして、経営上層部がMicrosoftに契約は見送ると告げたところ、MicrosoftはLyncのライセンスを無料で提供すると持ち掛けて、契約を勝ち取ったという。「われわれが行ったテストとは一切関係なく、Lyncのライセンス料を払わずに済むというだけの理由でこの決定がなされた」とデイビス氏は話し、こう続けた。
「この意思決定者は、技術的側面について全く何も分かっていなかった。例えばMicrosoft Lyncは、当時サービス品質(QoS)をネイティブサポートしていなかったという事実も知らなかった。このためWAN接続全般に問題が生じて接続の実装を増やさなければならなくなり、結果としてWANのために年間10万ドルを超す余分な経費が掛かった」
IT部門と経営陣との対立の程度は、会社の環境や社風によっても異なるが、経営陣がその地位にいるのはそれなりの理由があるはずだと前出のブラグリオ氏は言う。「優れたリーダーは、その職務にとって重要な問題に関して自分より能力の高い人材を身の周りに置いている。問題が生じるのは、リーダーがそれをしない場合、あるいは10年前は技術通でもその情報が時代遅れになったままの場合だ。中にはエゴが強すぎてそれを手放そうとしないリーダーもいる」
イノベーションとセキュリティの戦い
IT部門には、データの安全を確保して保護する責任、そしてコンプライアンス規制を順守する責任がある。そうした業務は通常、社内の一般ユーザーや経営上層部の念頭にはない。従業員や幹部は経営側のスピードで動きたがるものだが、どこかで均衡を保つ必要がある。前出Druvaのリム氏は言う。「IT部門はソリューションを正確に評価した上で、そのソリューションが自社の業務に適しているという確信を得なければならない。だが経営陣は、そうしたプロセスが創造性と革新を鈍らせているように感じるかもしれない」
会社にとって最善の決断をするためには、IT購入の最終意思決定をする経営側と、その技術を実装するIT部門の双方が、意思疎通を図ってそれぞれの情報を互いに共有するよう努めなければならない。ブラグリオ氏は、「組織の技術的側面と財務的側面の両方を見通すことには、確実なメリットがある」と指摘する。
ITチームには、それがソフトウェアでもハードウェアでも、あるいはプロバイダーのサービスであっても、製品やプラットフォームの評価には数多くの経験がある。「企業のIT部門には、そのソリューションがセキュリティやネットワークやコンプライアンスのニーズを満たしているかどうかを見極めるための厳格なプロセスがある。経営陣はそうした豊富な経験や知識を最大限に活用することが重要だ」とリム氏。
また、米人材紹介会社Randstad USのネットワークマネジャー、フォレスト・シュロス氏によれば、ITチームの方も、特定のアプローチが失敗に終わる可能性があることについて、具体例を挙げて自分たちの懸念をうまく経営陣に伝えることができなければならない。
「IT部門は『“X”にすれば利益が出るかもしれないが、“Y”の場合は弱点または潜在的影響が生じる』と発言できるようにならなければならない。そして経営陣は、その結論に至った理由に関するITチームの説明を尊重する必要がある。一般に、企業は自社で使えない製品に投資することや、セキュリティを破られて代償を負ったりすることは望まない。ここ数年の間に注目を浴びたセキュリティ事案は事欠かず、経営上層部との対話がしやすくなった。自分たちの話にも耳を傾けてもらいやすい」(シュロス氏)
一方でIT部門には、リスクを取ることもイノベーションの一部だという認識も必要だとDruvaのリム氏は述べ、「セキュリティとはリスクを一切取らないことではなく、リスクを取ってそれを回避することだ」と指摘した。
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