Wi-Fi認定プログラムに向けて
第2世代ギガビット無線LAN、登場前に準備しておくべきこと
「802.11 ac Wave 2」のギガビットWi-Fiは最大約7Gbpsの通信速度を実現する。この新技術に備えるに今、何をすべきか。
無線LAN規格「IEEE 802.11ac」の主要機能を実装したWi-Fi認定製品が初めて登場してから2年近くになる。無線LANの国際業界団体Wi-Fi AllianceのWi-Fi認定プログラム「Wi-Fi CERTIFIED ac」に合格したこれらの製品は、“Wave 1”(第1世代)11ac製品とも呼ばれており、これまでより広いチャネル、より多くの空間ストリーム、より高密度の変調を用いて最大1.3Gbpsのデータ転送速度を実現している。比較可能なWi-Fi認定製品の3倍の速度だ。しかし、802.11ac規格の可能性をフルに引き出し、最大約7Gbpsの転送速度を実現するために必要な機能は、Wave 1製品の認定では要件から除外された。成熟度が低く、エンジニアリング上の問題があったからだ。だが、2016年半ばにWi-Fi CERTIFIED acをアップデートした認定プログラムの発表が予定されており、Wi-Fi Allianceは現在、この“Wave 2”(第2世代)11ac製品の認定プログラムに要件として追加される機能の評価を行っている。
Wave 2 11acに何が期待できるか
Wave 1の11ac製品は、「IEEE 802.11n」と同じ技術に基づいている。中でも注目すべきは、幾つかの空間ストリームでデータを送信するMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナだ。このアンテナとこれまでより2倍または4倍広いチャネルを組み合わせ、データ転送をより高速化することも選択できる。しかし、11acは11nとは異なり、5GHz帯による通信に特化していることから、混雑している2.4GHz帯は、古い低速のデバイスやBluetoothなど他の技術で使われることになる。
同様に、Wave 2の11ac製品は、Wave 1製品の機能をベースにしたものになる。最大チャネル幅はさらに2倍に広がり、80+80MHzおよび160MHzチャネルがサポートされる。アクセスポイント(AP)が提供する空間ストリーム数も、3送信および受信ストリーム(3×3)から4×4へと増える。こうした機能進化により、最大データ転送速度が4倍に向上する可能性がある。ただし、それは良好な条件がそろった場合に限られる。それらの条件の中でも160MHzチャネルは、企業の混雑した無線LANでは利用できないか、あるいは役に立たないかもしれない。このチャネルは、家庭の無線LANでHD動画の送信に使われる可能性が高い。
Wave 2の11ac製品でさらに重要なことは、MU-MIMO(Multi User MIMO)という全く新しい技術が提供されることだ。従来のWi-FiではSU-MIMO(Single User MIMO)が採用され、各APは一度に1台のWi-Fiクライアントとしか通信できなかった。Wave 2 11acでは、APをより柔軟に動作させることが可能になる。MIMOアンテナ、空間ストリーム、ビームフォーミングをさまざまに組み合わせることで、APは同時に最大4台のクライアントと通信できるようになり、クライアント当たりのストリーム数は最大4つ、ストリーム数の合計は最大8つとなる。
例えば、Wave 2のAP(4×4)は、同時に2台のノートPC(2×2)や4台のスマートフォン(1×1)と通信でき、これによって無線LANのユーザー密度が2倍または4倍に向上する。ただし、11ac規格では理論上、最大8つの空間ストリームがサポートされるが、8基のアンテナを持つAPはほとんど登場しない見通しだ。さらに、MU-MIMOはオプションとして導入されることになっている。つまり、MU-MIMOはWave 2のWi-Fi CERTIFIED ac製品の必須機能ではないということだ。だが、MU-MIMO Wi-FiデバイスとSU-MIMO Wi-Fiデバイスは相互運用が可能になるため、新旧の11acクライアントの混在環境にWave 2 11ac APを設置すれば、無線LANのユーザー密度向上に即効性がある。
Wave 2 11acの注意点
Wave 2 11ac製品が最大データ転送速度を一段と向上させる機会を数多く提供することは明らかだ。しかし、「高速化」は必ずしも「より良い」こととは限らない。また、多くの企業の無線LANに見られるような混雑した環境では、必ずしも「実現可能」とは言い切れない。ネットワーク計画担当者は、Wave 2 11ac製品に関する以下の注意点を検討しなければならない。
- 256QAMエンコーディング機能は利用シーンが限定的
一部のWave 1 11ac製品で提供されている高密度の256QAM(Quadrature Amplitude Modulation)エンコーディング機能は、同じ部屋にあるような、お互いの距離がかなり近いAPとクライアントでのみ利用できる。そのため、この機能のメリットは、企業環境よりも住居内で得られる可能性が高い。ただし、256QAMは、例えば、会議室で無線ディスプレーに動画を送信する場合などにも便利かもしれない。
- 干渉が増加する可能性も
同様に、Wave 1およびWave 2 11ac製品で提供される、これまでより広いチャネルは、データ転送の高速化に利用できるが、それと引き換えに同一チャネル干渉が増加し、近くのAPで利用可能な周波数帯域が減少する。11acで使われる5GHz帯は、古くから使われていて混雑が激しい2.4GHz帯よりも広いかもしれない。だが、Wi-Fiの利用拡大とともに、5GHzチャネルもすぐに使い尽くされてしまうだろう。都市部や他の混雑した環境では特にそうだ。Wave 2 11acでは5GHzチャネルが大いに利用されるかもしれないが、結局のところ、無線LAN管理者は、Wave 2 11acで提供される160MHzチャネルよりもはるかに狭い80MHzチャネルを使う前に、慎重に考える必要がある。すなわち、自社で使用するアプリで要求されるデータ転送速度に必要な以上の広いチャネルは、使わないようにすべきだ。
- MU-MIMOを有効活用するために
MU-MIMOに対応するAPの登場は、無線LAN管理者にとって、各APが1台でサポートするWi-Fiクライアントを大幅に増やすチャンスになる。MU-MIMOは特に、教室やカンファレンスセンター、ショッピングモール、スタジアムなど、大勢のユーザーが集まり、1人1人がベストエフォート型のインターネットアクセスのみを要求する場所で魅力的かもしれない。
- MU-MIMO/SU-MIMOの最適な選択
とはいえ、MU-MIMOが最良の選択肢とは限らない。MU-MIMOではユーザー密度が向上する半面、距離とスループットが犠牲になるからだ。SU-MIMOを使用するAPは、MU-MIMOを使用する場合と比べて、より遠くのWi-Fiクライアントと通信でき、ビデオパフォーマンスも高い。イスラエルのCeleno Communicationsのようなチップセットメーカーは、この問題に対処するため、APがMU-MIMOとSU-MIMOのそれぞれをどのような場合に使用すべきかを賢明に判断できるように支援し、エクスペリエンスの質を最適化するチャネル認識アルゴリズムを提供しており、こうした取り組みは要注目だ。
- 周辺環境のアップデートも必要に
Wave 2 11acによって無線LAN全体のキャパシティーが増大するとともに、ネットワーク全体のボトルネックが顕在化しそうだ。コントローラーベースの無線LANでは、コントローラーをアップグレードしたり、1台のコントローラーでサポートするAPを減らしたりする必要が生じるかもしれない。バックホール回線(無線または有線)のトラフィックが増加し、やがてイーサネットスイッチをアップグレードしなければならなくなる可能性もある。また、MIMOアンテナの追加に伴い、それらを稼働させるための電力消費も増え、そのためにPower over Ethernet(PoE)がアップグレードされるかもしれない。無線LANの管理、監視、診断ツールも、11acに対応させるためにアップデートが必要になる可能性がある。さらに、ネットワークをアップグレードする際の常として、Wave 2 11ac製品の導入時も、キャパシティープランニングを行わなければならない。
- 企業向け製品の登場まで導入を焦らない
企業無線LANの管理者は、既に出始めているコンシューマーグレードの製品をテストすることで、MU-MIMOについての学習を始めようとするかもしれない。しかし、Wi-Fi Allianceが認定プログラムのアップデートを遅らせたことは、Wave 2技術の成熟化には時間がかかることを示唆している。その結果としてベンダーにとっては、ビームフォーミングとMU-MIMOそれぞれの相互運用性の確保が、今後も課題として残るかもしれない。このため、Wave 2 11acへの本格的なネットワークアップグレードは、Wave 2のWi-Fi CERTIFIED ac製品がまだ存在しない段階では着手すべきではない。代わりに、自社で利用している無線LAN製品のベンダーに、顧客の次世代ギガビットWi-Fiへの移行を支援する計画について、まずは問い合わせてみよう。
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