肝心なのは身の丈に合った計画
真面目でやる気があるほど失敗するプライベートクラウドの危険
プライベートクラウドの構築には多大な労力が伴う。企業は、プライベートクラウドの構築に必要なリソースを確保できているかを確認しなければならない。確保できていないなら、他の手段を検討するのが賢明だ。
多くの業界において、パブリッククラウドコンピューティングを導入する動きが2011年あたりから急速に活発化していた。パブリッククラウドの導入によって、設備投資の削減やコンピューティング機能をビジネス需要に合わせて素早く順応できることを多くの企業が評価したからだ。
しかし、米国の銀行はそのような流れを敬遠していた。多くの銀行にとってパブリッククラウドがもたらすメリットよりセキュリティやデータの保管場所に関する規制に準拠し続けることへの懸念が大きかったからだ。
State Streetもこのような懸念を抱いていた企業の1つだ。ボストンを拠点に世界29カ国に支社を構える金融サービスプロバイダーのState Streetは、データ保護に関する国際的規制の対象となる。そのため、同社がパブリッククラウドを導入するには、規制への準拠とクライアントデータの保護という大きな課題の対応が最優先事項となっていた。
ただし、ここで諦めるには、パブリッククラウドがもたらすメリットはあまりに大きかった。State Streetに必要なのは、カスタマイズした地域固有の機密アプリケーションを豊富に提供するプラットフォームだった。State Street最高情報責任者(CIO)を務めるクリストファー・ペレッタ氏の言葉を借りるならば、同社が必要としていたのは「構成を無限に拡張できる可能を備えたプラットフォーム」だった。
そこで、State Streetは、業務で扱うデータを制御しながらクラウドコンピューティングのメリットも得ることができる大規模なプライベートクラウドを2011年に自社で構築した。現在、State Streetでシニアバイスプレジデントとチーフサイエンティストを兼任するデイビッド・サウル氏は、プライベートクラウドのメリットとして新たに「スピード」を追加したと説明している。標準化したクラウドプラットフォームの導入で、新しいアプリケーションの開発と導入にかかる時間を数週間から数分に短縮することに成功したという。
「ビジネスの観点では、顧客の要求に応えようとする場合、構想からテスト、そして、導入まで可能な状態で問題を解決することが望ましい。コストおよびセキュリティという他のメリットとの相乗効果もあって、スピードというメリットは、多くの点でState Streetがクラウドから得た最大のメリットといえる」(サウル氏)
ただし、State Streetのようなプライベートクラウドの導入方法が、全ての企業に適しているわけではない。高額な設備投資、既存のデータセンターハードウェア、全てを管理するための専門知識を持つIT部門スタッフがそろっていることが前提だ。これら全てを備えていないIT部門は、自社のクラウド計画を見直すべきだとアナリストはいう。
加えて、適切なリソースを確保できていても、CIOはプライベートクラウドを構築する理由とプライベートクラウドで得るビジネス価値について、慎重に検討しなければならない。「AmazonやGoogleなどのパブリッククラウドベンダーは、多くの企業が用意できるクラウドよりもはるかに大容量を提供している。これらのパブリッククラウドベンダーを利用せずにプライベートクラウドを構築する場合には明確な理由が必要だ」と語るのはGartnerのアナリストであるアラン・ウェイト氏だ。
「Amazonが2014年に追加した新機能は568個にも上る。これは、1日に1~2つの新機能を追加した計算になる。自社でプライベートクラウドを開発して、このようなペースで機能を追加できると考えているなら、それは恐らく間違いだ」と2015年8月にGartner主催の「Catalyst」カンファレンスで、ウェイト氏はIT担当者に警告した。事実、IT部門が犯す最も深刻な間違いの1つは、クラウドによって非常に多くのことをあまりに早期に達成しようとすることだ。Amazon Web Services(AWS)をオンプレミスで構築する前には慎重な検討が欠かせない。その努力が無駄になる可能性が高いからだ。Gartnerが話を聞いた企業で、このレベルの複雑な作業に取り組んだ企業の多くは失敗している」(ウェイト氏)
State Streetのプライベートクラウドは、AWSではない。だが、同じ構成のデータセンター2カ所で共有する大規模なものだ。そのため、サービスの需要が急上昇したり、バックアップや新しい試みが必要になったりした場合でも、データセンター間で迅速かつ簡単にワークロードを移行できる。
だが、State Streetの2014年における収益は、公開している最新の年間収益で103億ドルを超えており、同社が管理する金融資金は22億ドルに上る。堅牢なハードウェアとソフトウェアリソース、そして、専門知識を持ったデータセンターのスタッフをそろえ、世界各地で多額のIT投資を行っている。
「State Streetのクラウドを構成するハードウェアは、レガシーハードウェアや、電力、冷却およびバックアップ用のデータセンターインフラと物理的に同じ場所に配置している。このおかげで全てが利用可能だった。私たちはゼロから始めたわけでも、新しいデータセンターを構築したわけでもない」とサウル氏は語る。
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