UIデザインの次の大きな波
Google Empathy Labのアプローチは“デザイン感覚” 共感型UIを追求する
Google Empathy Labの責任者であるダニエル・クレテック氏が、国際カンファレンス「Wisdom 2.0」で、UIデザインの次の大きな波について解説した。それは人々の痛みや幸福といった感情を感じる技術だ。
デジタル技術を利用できる人、つまりほとんどの人にとって、われわれの痛みや喜びといった感情を感じるインタフェースは必要だろうか。
「どうしても必要なわけではない」と、Google Empathy Lab(「共感研究所」の意)を立ち上げたダニエル・クレテック氏は語る。機械が共感することは、実は不可能だという。それでも同氏によると、適切なAI(人工知能)技術を適用すれば、音声アシスタントをはじめとするデジタルアシスタントは飛躍的な進化を遂げ、共感的な機能を果たすようになる。そうなれば、われわれにとっては、人間ではないものの無機質なロボットよりは確かに話が通じる副操縦士のように思えそうだ。
デザイン思考 vs. デザイン感覚
そうしたデジタルアシスタントやインタフェースを実現するには、企業はデザイン思考に続く新しい概念として、「デザイン感覚」について考え始める必要があると、クレテック氏は考えている。デザイン思考は、革新的な“人間中心の”デザインコンセプトを創造するために、広く利用されている方法論だ(下の表を参照)。
デザイン感覚の目的は、開発者がデザインを問題の解決策としてのみ位置付けるのではなく、自らのデザインによってユーザーが何をどのように感じるかに集中することができるようサポートすることにある。
「Empathy Labのミッションは、われわれが使う技術に愛を組み込むことだ」とクレテック氏は語る。
クレテック氏の取り組みでは、神経科学から映画、市販の医薬品まで、さまざまな分野の知見を利用する。同氏がEmpathy Labを立ち上げたのは2015年のことだった。それから4年を経て、同研究所の活動は注目を集め始めている。同研究所は活動の一環として、心の弱さについて研究しているブレネー・ブラウン氏や、幸福に関する科学に取り組んでいるカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)のダッカー・ケルトナー教授とパートナーを組んでいる。
スマートフォン中毒やプライバシー問題、敵対国政府による選挙介入など、われわれのデジタル生活に潜む多種多様な危険に対する懸念が高まっている。大手IT企業がこれに対処する方法を探っていることを考えると、われわれが使う技術に愛を組み込むという考え方は、それほどおかしなものではない。
少なくとも、2019年3月にサンフランシスコで開かれた国際カンファレンス「Wisdom 2.0」の参加者にとっては、それほどおかしくはなかった。今回のWisdom 2.0は「技術によってお互いにつながり合うだけでなく、われわれの幸福に役立ち、仕事にプラスになり、世界にとって有益な形でつながり合う」方法を見つけるためのフォーラムだとうたわれていた。
クレテック氏は、デザイン思考とデザイン感覚の違いを次の表のように対比する。
| 表:デザイン思考 vs. デザイン感覚 | ||
|---|---|---|
| デザイン思考 | デザイン感覚 | |
| 1 | 商品 | プレゼンス(存在感) |
| 2 | トランザクショナル | リレーショナル |
| 3 | エンゲージメント | ケアとつながり |
| 4 | データと機械学習 | 整合性の取れた価値、信頼、成長 |
| 5 | IQ(知能指数)と知識 | EQ(心の知能指数)と知恵 |
| 6 | 高速 | 低速 |
| 7 | 発明 | 意思 |
| 8 | 何をするか | どう感じるか |
デザイン感覚アプローチは不満を緩和する
哲学と物理学を専門に学んだクレテック氏は、3種類のユーザーインタフェース(UI)に関する自身の研究を紹介した。
- 極めて多くの情報を提供するUI
- 中立的に記述されたUI
- 提供する情報は少ないが、ユーザーとの感情的なつながりを重視する、共感型のUI
クレテック氏が調べたところ、89%の人が共感型のUIを使い続けた一方、極めて多くの情報を提供するUIを使い続けた人は25%にとどまった。
共感型のUIは、ユーザーの声のトーンや言葉遣いを解釈し、応答として情報を返すだけでなく、適切な感情的な応答をすることができた。例えば、怒っている質問やいら立った質問に対しては、botは穏やかなトーンで応答した。だが興味津々の質問を受けると、ざっくばらんな応答を返すこともあった。
クレテック氏は、人々が音声アシスタントの「Googleアシスタント」とどのようにやりとりするかも研究し、86%のユーザーがアイコンタクトをしようとし、7%がタッチし、29%がジェスチャーをすることを発見した。これは基本的に、デバイスを人間であるかのように扱うということだ。実際、一人の女性は、自分の幼い娘と話すときと同じように、腰に手を当てるしぐさをした。
ユーザーが人間を相手にしているかのようにデジタルアシスタントとやりとりする傾向があることは、共感機能をそれらのテキストや音声ベースのインタフェースに組み込めば、エンゲージメントが向上することを示唆していると、クレテック氏は語る。そうすれば、デジタルアシスタントが問題を解決できないときにユーザーが感じる不満も緩和できそうだ。
デザイン感覚アプローチの導入を阻む障害
デザイン感覚アプローチの導入には、さまざまな障害がある。第1に、ほとんどの開発者による顧客の捉え方だ。つまり顧客をユーザーと考えること自体に問題がある。商品を使えることと、技術から喜びや満足を得ることは別物だと、クレテック氏は説明する。「われわれがユーザーであることは、われわれのほんの一つの側面にすぎない。認知上や機能的なニーズだけでなく、人間全体を見なければならない」
メンタルヘルスプログラムを手掛けるDigital Wellness Collectiveの共同創設者で、『The Future of Happiness』を著したエイミー・ブランクソン氏は、デザイン感覚を掲げた取り組みは、正しい方向への一歩だと語る。
「単線的なデザイン思考から、より混沌(こんとん)としたバージョンであるデザイン感覚にシフトする」というEmpathy Labのアプローチは「魅力的だ」とブランクソン氏は語る。「人間は感情的な生き物だが、にもかかわらず、技術が完全に論理的な枠組みに従って、世界を動かすことを期待したり、許したりする」(同氏)
この矛盾はしばしば「われわれが依存する技術への失望や不満につながる」とブランクソン氏は説明する。例えば、われわれが創造的な活動をしている最中にいきなりシステム更新が始まったり、オフィスにいないことを知らせるアラートを設定する時間がなかったために、家の用事で取り込み中のときにメールが大量に送られてきたりするときがそうだ。さらに同氏は、「人に共感するようにコーディングされた製品が出てくるのがとても楽しみだ」と付け加える。
一方、デザイン感覚に基づいて共感型のUIを構築し、それによってわれわれの技術をより楽しく体験できるようにすることが、かえってデジタル中毒の拡大を引き起こしてしまうのかどうかは、まだ答えが出ない。
Digital Wellness Collectiveのエグゼクティブディレクターを務めるニナ・ハーシャー氏は、共感型UIが弊害をもたらす可能性を認める。インタフェースがより魅力的なものになると、われわれは注意が散漫になり、余計なものに気を取られがちだ。このアテンションエコノミー(注目が商品として取引される経済圏)では、われわれが接するインタフェースは累積的に増えていくが、それらが中毒性を増すことになれば、生産性が低下するといった本末転倒を招きかねない。「それは憂慮すべき事態だ」(ハーシャー氏)
クレテック氏は、Wisdom 2.0に参加したビジネス幹部に、「デザイン感覚アプローチは、AI技術を利用して知見を伝授する手段だと考えてほしい」と呼び掛けた。「このアプローチにより、皆さんがシェアしたい貴重な価値や、伝えたい教訓をコーディングして、技術として形にし、人々に活用してもらえる」
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