ゼンリンデータコムは2020年までに、商用サービスおよび開発環境のインフラを、オンプレミスから「AWS」へ完全に移行させる。その手段として採用したのが「VMware Cloud on AWS」だ。なぜVMware Cloud on AWSなのか。
地図情報サービスを提供するゼンリンデータコムは、商用サービスと開発環境のクラウド移行に当たり、Amazon Web Services(AWS)のベアメタルインスタンス(物理サーバ)にVMwareの仮想環境を構築するクラウドサービス「VMware Cloud on AWS」(VMC on AWS)を採用した。迅速なクラウド移行を目指して2019年2月に本格利用を開始した。
ゼンリンデータコムは地図情報を提供するゼンリンの子会社だ。乗り換え案内やルート検索の機能を提供する「いつもNAVI」といった個人向けサービスに加え、地図情報や検索機能の開発用API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を提供する法人向けサービスなど、合計で150種類ほどのサービスを提供している。
AWSの利用に着手したのは2012年と比較的早かった。AWSを導入した当初の目的は、サービスにユーザーアクセスが集中する際、オンプレミスのサーバでは処理し切れないトラフィックを一時的にクラウド側で処理することだった。渋滞や大雨が発生したり、テレビの情報番組で観光地が紹介されたりした際には、地図情報や位置情報を提供するサービスにアクセスが集中することがあるためだ。「以前はアクセス制限を掛けていたため、ユーザーへのサービスが低下する事態に陥ることがあった」と、ゼンリンデータコムの取締役で技術本部長を務める奥 正喜氏は当時の状況を振り返る。
AWSの利用と並行して、ゼンリンデータコムはサーバ仮想化製品を導入した。2010年にVMwareのサーバ仮想化製品を導入し、段階的に物理サーバから仮想マシンへの置き換えを進めた。2018年時点で物理サーバを完全になくし、AWSの仮想マシンサービス「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)で運用する仮想マシン約2400台、オンプレミスの仮想マシン約1800台という構成になった。
国内の企業としては早くからオンプレミスとAWSの環境が混在する環境になったゼンリンデータコム。当初は慎重だったというが、検討した結果、全面的なクラウド移行を決断した。ゼンリンデータコムのインフラ分野を統括する渡邊大祐氏(技術本部技術統括部 副部長)は、「試算では、AWSに完全に移行した方が、トータルコストを圧倒的に安く抑えられることが分かったからだ」と語る。
奥氏は「クラウドサービスを利用する際は、常にパブリッククラウドの比較表を作成して検討する」と語る。AWSを選択したのは、クラウドサービスとしてのスケーラビリティや機能性はもちろんのこと、充実したAWSのサービス群の存在があったからだという。「インフラの運用面ばかりでなく、サービス開発面でもAWSの活用度を高めた方が高効率になるのは確実だった」と奥氏は説明する。
AWSへの移行作業を進める際には懸念があった。「開発部門が集中すべきサービス開発にリソースを割けなくなる」(奥氏)ことだ。オンプレミスに残っているシステムは古いものが多く、クラウドに移行させるとなれば、OSやミドルウェアの互換性の検証やバージョンアップの作業が発生する。さらにAWSの仕様に合わせた各種変更にも対処しなければならず、そのために開発部門のリソースを割く必要がある。営業部門からは「クラウド移行に手間をかけて、ビジネスの競争力につながるのか」という疑問もぶつけられたという。
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