病院が実現した「仮想回診」の仕組みとは? 病室カメラとビデオ会議で構築新しい遠隔診療の可能性【前編】

米国の医療機関Nemours Children's Health SystemはCOVID-19対策として、遠隔で患者を回診する「仮想回診」システムを構築した。このシステムはどのような製品から成り、どのように運用されているのか。

2020年10月01日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

 以前、非営利団体Nemours Foundationが運営する医療機関Nemours Children's Health System(以下、Nemours)の系列病院のロビーには、日常業務として担当患者を診察して回る多くの医師と看護師の姿であふれていた。しかし今は閑散としている。今でも回診は続いていることは確かだ。ただし、それは新しい仮想的な方法に基づく。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機が広がり始めた時、Nemoursは米国フロリダ州とデラウェア州にある2つの主要病院で、既存技術を活用した「仮想回診」のプロジェクトを立ち上げた。仮想回診を実現するツールの中には、ビデオ会議ベンダーVidyoの同名製品があった。Nemoursは病院と専門医と家族をつなぐために使用している遠隔医療システムの一部としてVidyoを活用している。

写真1 Nemoursの2つの主要病院で働く医療従事者が患者の仮想回診をする様子《クリックで拡大》

仮想回診を実現するために転用した既存技術

 Nemoursは病室に設置したビデオカメラと電話のシステムを活用して、医療従事者が小児患者と対話できるようにしている。仮想回診プロジェクトは、COVID-19のパンデミック(世界的大流行)のさなかに医療従事者と患者の接触機会を減らし、個人用保護具の使用を節約する目的で立ち上げられた。

 仮想回診のアイデアはNemoursの主要病院の集中治療室(ICU)から生まれたと、Nemoursでプロジェクトリーダーを務める小児科医で、医学博士号を持つ医師パトリック・バルト氏は説明する。ICUのスタッフは、症状のある患者と大規模な治療チームとの接触機会を減らすために、ICUへの人の出入りを減らそうとしていた。Nemoursは仮想回診の技術を使用して、ICUにいる子どもの治療に携わる全スタッフと家族を仮想的に集めている。

 米国5つの州でNemoursが運営する80件以上の病院の中に、予想外の手法でCOVID-19の危機に備えることができた施設が存在した。それが、Nemoursの主要病院であるフロリダ州オーランドの「Nemours Children's Hospital」と、デラウェア州ウィルミントンの「Nemours/Alfred I. duPont Hospital for Children」だった。

 フロリダ州オーランドに2018年、Nemoursは医療後方支援センター(clinical logistics center)を開設し、特別なトレーニングを受けた小児科医が患者を遠隔監視できるようにした。同センターの小児科医は、バイタルサインなどの健康指標を表示する複数のモニターで患者容体を定期的に確認している。医療後方支援センターは、重大ではない事象によってオンになるアラーム音に、ICUのスタッフが対処する状況を避けることを目的としていた。

 患者を遠隔監視する医療後方支援センターの取り組みには、高解像度ビデオカメラを病室に設置することが含まれていた。仮想回診プロジェクトを立ち上げる際にコア技術となったのが、このビデオカメラだ。仮想回診チームが患者の治療方針を話し合う際には、Vidyoのコラボレーションツール「VidyoConnect」を使用している。

 Epic Systemsの電子カルテ経由で患者の様子を遠隔監視するために、医療従事者がビデオカメラの映像を確認する際は、ネットワークカメラベンダーMilestoneの「XProtect Mobile」を使用している。これはネットワークカメラにアクセスして映像を取得できる管理用モバイルアプリケーションだ。

 Nemoursは医療従事者と患者の対話を可能にするために、病室に設置したCisco Systemsの電話システムを転用した。ビデオカメラの映像と電話システムを使用することで、医療従事者は遠隔で患者の様子を確認しながら患者と対話できる。

 仮想回診システムは、Vidyoのシステムから病室のビデオカメラを隔離することで、セキュリティを強化している。Vidyoのビデオ会議に参加する家族と患者の治療チームは、患者の治療方針を話し合う時に仮想会議室に集まる。Nemoursのネットワーク内にあるセキュアなPCでしか、ビデオカメラの映像を閲覧できない仕組みだ。バルト氏は「病室のビデオカメラへのアクセスは制限されており、アクセスするには患者の家族の同意が必要になる」と説明する。


 後編は仮想回診の臨床面でのメリットと、COVID-19が医療の提供方法にもたらした変化を解説する。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

髫エ�ス�ス�ー鬨セ�ケ�つ€驛「譎擾スク蜴・�。驛「�ァ�ス�、驛「譎冗樟�ス�ス驛「譎「�ス�シ驛「譏懶スサ�」�ス�ス

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

「遠隔医療」に一斉移行した医療機関 その方法とは?

遠隔医療体制を構築する際は、患者や通常業務への影響を押さえながら進める必要がある。パンデミック下で一斉に遠隔医療体制を構築した2つの医療機関の例を紹介する。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

オーストラリアの「電子処方箋」制度ができるまでの道のり

オーストラリアでは処方箋の完全電子化が一般化しているが、制度確立までの道のりは平たんではなかった。完全電子化を阻んだ課題とその解決策とは。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

湾岸諸国の「デジタルヘルスケア」推進 重点分野と課題とは?

コロナ禍を契機に、湾岸諸国では「デジタルヘルスケア」への移行が加速している。湾岸諸国におけるデジタルヘルスケア産業の重点投資分野とは。デジタルヘルスケア推進の”壁”とその対処法についても紹介する。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

医療機関で起こりがちな「データ品質」低下の理由と、改善に向けた方策とは

医療機関は膨大なデータを扱い、そのデータに基づいて重要な決定を下す場合がある。一方、データの質は低くなりがちだ。それはなぜか。データの品質を改善させるために必要な方策と併せて紹介する。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

NHSのデータ基盤計画が英国民の不評を買った理由

英国の国民保健サービスでイングランド地域を管轄するNHS Englandが、医療サービス向けの新データ基盤を構築している。この計画に英国市民団体が“待った”をかけたという。なぜなのか。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

病院が実現した「仮想回診」の仕組みとは? 病室カメラとビデオ会議で構築:新しい遠隔診療の可能性【前編】 - TechTargetジャパン 医療IT 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

TechTarget郢ァ�ク郢晢ス」郢昜サ」ホヲ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

驛「譎擾スク蜴・�。驛「�ァ�ス�、驛「譎冗樟�ス�ス驛「譎「�ス�シ驛「譏懶スサ�」�ス�ス驛「譎「�ス�ゥ驛「譎「�ス�ウ驛「�ァ�ス�ュ驛「譎「�ス�ウ驛「�ァ�ス�ー

2025/05/11 UPDATE

ITmedia マーケティング新着記事

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。