米国の医療機関Nemours Children's Health SystemはCOVID-19対策として、遠隔で患者を回診する「仮想回診」システムを構築した。このシステムはどのような製品から成り、どのように運用されているのか。
以前、非営利団体Nemours Foundationが運営する医療機関Nemours Children's Health System(以下、Nemours)の系列病院のロビーには、日常業務として担当患者を診察して回る多くの医師と看護師の姿であふれていた。しかし今は閑散としている。今でも回診は続いていることは確かだ。ただし、それは新しい仮想的な方法に基づく。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機が広がり始めた時、Nemoursは米国フロリダ州とデラウェア州にある2つの主要病院で、既存技術を活用した「仮想回診」のプロジェクトを立ち上げた。仮想回診を実現するツールの中には、ビデオ会議ベンダーVidyoの同名製品があった。Nemoursは病院と専門医と家族をつなぐために使用している遠隔医療システムの一部としてVidyoを活用している。
Nemoursは病室に設置したビデオカメラと電話のシステムを活用して、医療従事者が小児患者と対話できるようにしている。仮想回診プロジェクトは、COVID-19のパンデミック(世界的大流行)のさなかに医療従事者と患者の接触機会を減らし、個人用保護具の使用を節約する目的で立ち上げられた。
仮想回診のアイデアはNemoursの主要病院の集中治療室(ICU)から生まれたと、Nemoursでプロジェクトリーダーを務める小児科医で、医学博士号を持つ医師パトリック・バルト氏は説明する。ICUのスタッフは、症状のある患者と大規模な治療チームとの接触機会を減らすために、ICUへの人の出入りを減らそうとしていた。Nemoursは仮想回診の技術を使用して、ICUにいる子どもの治療に携わる全スタッフと家族を仮想的に集めている。
米国5つの州でNemoursが運営する80件以上の病院の中に、予想外の手法でCOVID-19の危機に備えることができた施設が存在した。それが、Nemoursの主要病院であるフロリダ州オーランドの「Nemours Children's Hospital」と、デラウェア州ウィルミントンの「Nemours/Alfred I. duPont Hospital for Children」だった。
フロリダ州オーランドに2018年、Nemoursは医療後方支援センター(clinical logistics center)を開設し、特別なトレーニングを受けた小児科医が患者を遠隔監視できるようにした。同センターの小児科医は、バイタルサインなどの健康指標を表示する複数のモニターで患者容体を定期的に確認している。医療後方支援センターは、重大ではない事象によってオンになるアラーム音に、ICUのスタッフが対処する状況を避けることを目的としていた。
患者を遠隔監視する医療後方支援センターの取り組みには、高解像度ビデオカメラを病室に設置することが含まれていた。仮想回診プロジェクトを立ち上げる際にコア技術となったのが、このビデオカメラだ。仮想回診チームが患者の治療方針を話し合う際には、Vidyoのコラボレーションツール「VidyoConnect」を使用している。
Epic Systemsの電子カルテ経由で患者の様子を遠隔監視するために、医療従事者がビデオカメラの映像を確認する際は、ネットワークカメラベンダーMilestoneの「XProtect Mobile」を使用している。これはネットワークカメラにアクセスして映像を取得できる管理用モバイルアプリケーションだ。
Nemoursは医療従事者と患者の対話を可能にするために、病室に設置したCisco Systemsの電話システムを転用した。ビデオカメラの映像と電話システムを使用することで、医療従事者は遠隔で患者の様子を確認しながら患者と対話できる。
仮想回診システムは、Vidyoのシステムから病室のビデオカメラを隔離することで、セキュリティを強化している。Vidyoのビデオ会議に参加する家族と患者の治療チームは、患者の治療方針を話し合う時に仮想会議室に集まる。Nemoursのネットワーク内にあるセキュアなPCでしか、ビデオカメラの映像を閲覧できない仕組みだ。バルト氏は「病室のビデオカメラへのアクセスは制限されており、アクセスするには患者の家族の同意が必要になる」と説明する。
後編は仮想回診の臨床面でのメリットと、COVID-19が医療の提供方法にもたらした変化を解説する。
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