「税務×AI」の可能性 煩わしい納税作業がなくなる?管理プロセスを容易に

納税者と徴税人は税金の支払いと徴収プロセスをより簡単にしたいと考えている。データ量が多く複雑な徴税プロセスの効率化は、AI技術の格好の用途だ。AI技術は税務をどう変えるのか。

2020年10月16日 05時00分 公開
[Ronald SchmelzerTechTarget]

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 「人生で絶対に避けられないのは死と税金である」というベンジャミン・フランクリンの有名な言葉がある。しかし2020年は感染症のパンデミック(世界的大流行)により納税期限が延期され、企業や個人にとって財務処理に数カ月の余裕が生まれるなど、例年と異なる納税シーズンとなった。

 連邦政府も、州政府も、地方自治体も、分散した遠隔地でのデータ収集における課題解決に苦慮している。これらの課題に対処するために、納税者と徴税人は税務書類作成に機械学習などのAI(人工知能)技術を活用し、作業をより効果的かつ効率的にしようと試みている。

税務書類作成の面倒を「AI」がなくす

 個人および法人の納税者には、書類提出に必要な幅広い責任と作業がある。領収書の整理や経費の確認、複数のソースに基づいた書類の取りまとめなど、税の申告と準備は主に、関連するセクションのドキュメントの整理や収集、提出、重要な情報の抽出で構成される。機械学習などのAI技術は、ドキュメントとテキストの抽出と分類に関して特に強力な役割を果たす。

 平均的な納税者でさえ、税務書類作成においてAI技術の恩恵を受ける。画像認識技術は、領収書から情報を抽出したり、ドキュメントを分類したりするのに役立つため、個人や企業の財務ツールとして利用される可能性がある。機械学習を利用したドキュメント分類システムは、請求書と領収書を区別する。人がその情報を再入力する必要はほとんどなく、「Form 1099」や「Form W-2」といった標準的な税務フォーマットのドキュメントから情報を自動的に抽出できる。

 個人向けであれ、法人向けであれAI技術を使ったファイナンスシステムは、財務データをさらに掘り下げて税控除が関連する可能性のある領域を特定し、財務情報の洞察と分析を提供する。機械学習システムは、納税者個々のドキュメントのパターンを特定して財務予測を提供し、データマイニングによって個人や企業が税金を節約できる領域を特定できる。税務書類作成システムでAI技術を使用することにより、企業は類似企業の申告から学び、利益を最適化できる領域を見つけることができる。

 企業は、さまざまなビジネスシステムや企業の情報源から情報を引き出し、正確に申告するために必要な情報を収集する。税務書類の処理を高速化するための自動化ツールの使用機会も広げている。納税申告と準備作業は総じて、非常に反復的で手間のかかる作業であり、人がそれらのタスクを実行することの意味は薄れてきている。プロセスの自動化は幸いなことに、これらの面倒なタスクに適している。自動化ツールにより、関連するシステムとの間データを簡単に移動させることができるのだ。

AI技術による財務管理支援

 AI技術は、納税期限が近づく前に財務を最適化する方法をエンドユーザーに示して、納税申告期間外の個人と企業を支援する。パーソナルファイナンスの世界におけるAI技術の大きな用途の一つは、クライアントが情報に基づいて意思決定できるようにすることだ。AI技術はポートフォリオ、口座、その他の利用可能な情報を調査し、収益を最適化するための資金繰りの方法を提案する。機械は人よりも速く、より多くのソースからデータを集約して抽出できる。従ってAIシステムが提供する提案は、人の会計士が立てた計画よりも潜在的に広範で、情報量が多く、高速で安価だ。

 財務アドバイスにも、AI技術が大きなメリットをもたらす。財務顧問を雇う余裕がある人は限られている。AI技術は、パーソナライズされた金融アドバイスを大衆に提供するのに役立つ。以前はアドバイスを受ける余裕がなかった人は、記事を読んで傾向を見て自分自身で学んだり、自分で計画を立てたりしなければならなかった。AI技術は、特定の節約目標を最適化したり、税金の負担を最小限にしたりするために、より適切にコストを節約し、管理し、費やす方法について、パーソナライズされたガイダンスと洞察を提供できるようになった。

AI技術が提供する支援と監視

 AI技術は、政府や徴税者にも大きな利益をもたらしている。特に内国歳入庁(IRS)はAI技術を税処理に適用してプロセスを加速させ、政府機関のシステムをより効率的にし、潜在的な詐欺や懸念事項に注意を払っている。

 IRSはシステムのモダナイゼーション(近代化)に取り組んでおり、これまでに政府機関はシステムを進歩させるために3億ドル以上を費やした。他方、IRSではかなりの従業員が退職し、税務機関を辞めている。この予算によりIRSは1万2000人を超える従業員を雇用できる一方、過去数年間よりも少ないリソースで同等またはより多くの作業をする必要性を認識しつつある。

 幸いにも、IRSはAI技術を使用することで利益を得ており、これについて声高に主張している。IRSコミッショナーのチャック・レッティッグ氏は、税務機関が正確に納税申告をしていない可能性のある高所得世帯を見つけるためにAI技術をうまく利用していると述べる。経済誌Wall Street Journal(ウォールストリートジャーナル)のレポートによると、IRSの犯罪捜査部門は、潜在的な監査の機会を特定するためにデータ分析ベンダーPalantir Technologiesの技術を使用している。AI技術は金額や傾向、場所、頻度など、トランザクション(システムの処理単位)のさまざまな要素を監視できる。そうすることでパターンを特定し、異常な行為を検出して不正を指摘できる。

 IRSはまた、高度分析のアプリケーションにAI技術を適用して、政府機関に納税者のパターンと行動に関するより深い洞察とガイダンスを提供している。税務機関はデータサイエンスとデータ分析のスキルベースを拡大させ、さまざまな課題領域に適用している。さらにIRSは、納税者を支援するためのチャットbotや音声アシスタントの使用、データ処理、調達など、さまざまな活動を支援するプロセス自動化においてAI技術を活用している。

 今度の税申告の際にAI技術を意識することはないかもしれない。だが舞台裏ではAI技術がデータの調査に取り組み、プロセスをより効果的かつ効率的にしている可能性があることは知っておく必要があるだろう。

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