CX(カスタマーエクスペリエンス)の改善に効果的と考えられるAIと自動化。だが適用する場面を間違えるとCXの悪化やコスト増を招く。失敗しない導入方法と成功例、そして残念な失敗例を紹介する。
あらゆる業界の企業が、AIと自動化を運用効率とCX(カスタマーエクスペリエンス)の改善、コスト削減、利益率向上の手段と考えている。カスタマーサービスは多くのコストを要するがCXの原動力になるため、AIと自動化の採用に適している。AIと自動化はカスタマーサービスプロセスのあらゆるステップに役立つ可能性がある。
業務時間外にカスタマーサービスを提供するのであれば、会話型AIやチャットbotが魅力的だ。反復が多く価値があまり高くない仕事を自動化してカスタマーサービス担当者の負担を取り除けば、もっと価値のある仕事に専念させることが可能だ。
ホテルチェーンのHyatt Hotels and Resortsは予約プロセスの一部に仮想アシスタントを利用している。仮想アシスタントは顧客の身元確認、旅行日、行き先といった「あまり考えずに」実行できるタスクを代行し、それを終えると関連コンテキストを添えて予約担当者に通話を切り替える。予約担当者は仮想アシスタントが生成した情報を基に、顧客の感情に働き掛けるセールスに専念できる。
AIと自動化の技術が成熟し、価格も手頃になってきた。そのため、急いで導入したくなるかもしれない。だが、それは落とし穴につながる。期待するほどの効果がなかったり、さらに悪いことにCXを損なったりする恐れがある。カスタマーサービスのエンド・ツー・エンドのプロセスへの洞察が不足していると、そうした落とし穴に陥る恐れがある。
一般的に、顧客は担当者につながる前にセルフサービスを試みる。明確かつ完全な全体像を把握せず、プロセスの特定の瞬間や特定の接点だけをターゲットにすると失敗することになる。「Webサイトで情報が見つからない」という苦情電話が殺到しているなら、その電話に答えるチャットbotを導入するのではなくWebサイトを修正すべきだ。
企業が直面する恐れがあるもう一つの問題は、機能の判断ミスだ。AIと自動化の市場のプライヤーに共通する主な課題は、ユーザー企業の期待に対して可能なことと不可能なことをしっかりと伝えることだという。最も効果が高いのは、人間の担当者に引き継がなくても返答できる、反復が多くてシンプルかつ大量に発生するユースケースだ。
だが判断を間違えると顧客をいら立たせることになる。こうした判断ミスのよくある例の一つが、役に立たないツールから別の役に立たないツールへと顧客との通話をたらい回しにする会話型AIやチャットbotだ。
もう一つ注意したいのは、AIと自動化を人間の代わりと見なすべきではないことだ。コロナ禍は自動化の速度を加速した。労働力の削減はAIの潜在的メリットと見なされている。AIがカスタマーサービスを変革するといっても、人間の担当者が無用になるわけではない。顧客が人間との会話を求める情緒的なケースや複雑なケースには人間の担当者が必要になる。
AIと自動化のメリットを生かすには、カスタマーサービスのプロセスの中でAIと自動化が適している場所と役割を見極めなければならない。Forrester Researchはこの作業を6つのステップに細分化している。
AIと自動化を適用できる機会は多くの場合、エクスペリエンスの舞台裏に存在する。最初に、担当者との対話の前後といったプロセスの目に見える部分をマッピングする。次に、エクスペリエンスの目に見えない層(プロセスの各ステップを可能にする、または妨げる技術やプロセス)を追加する。サービスの完全な設計図ができたら、その設計図に含まれる全てのアクターの中から問題点となるアクターに注目する。
「なぜなぜ分析」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%81%AA%E3%81%9C%E5%88%86%E6%9E%90)で、問題を細かく掘り下げて根本原因を特定する。この分析を基にAIまたは自動化が必要かどうかを精査する。
英国の警察は、緊急通報番号(999)へのコールの多くは単なる情報の要求であり、本当に支援を必要とする市民をオペレーターが助けるのを妨げていることを特定した。別の調査では、既存の欠陥に対するプロセスや回避策が断片化しており、市民に対するプロセスの効率と可視性を低下させていることも分かった。この解決策は、自動化よりも情報へのアクセスを適切にすることを重視することだ。
機会ごとに誰にメリットをもたらすかを評価して、従業員と顧客の両方にメリットがある機会を優先する。
このアプローチを試みた企業の一つがBTだ。同社はAIを使い、フィールドエンジニアを適切なタイミングで適切な仕事に集中させることでカスタマーサービスを改善した。地元のエンジニアだけに仕事を割り当てるのではなく、フィールドエンジニアが地域の境を越えられるようにした。その結果、生産性の向上、出張費の削減、従業員のウェルビーイング(心身の健康)改善を実現した。
AIと自動化という用語は非常に幅広い機能を対象にしている。既存のシステムやユースケースによっては、何が適切なのかを判断するために専門家の助言が必要になることもある。ただし、コンタクトセンターには基盤となる技術がある。音声認識だ。
KPN(オランダの電話会社)は、音声認識を使って平均保留時間を30秒短縮し、ネットプロモータースコア(訳注:顧客とのエンゲージメントの指標)を17ポイント上昇させた。顧客はまず電話している理由を自分の言葉で伝える。AIは発信者の身元を確認し、その意図を認識して自動応答するか担当者に通話を回す。その際、AIは顧客の詳細と通話履歴を取り出し、顧客の言葉をテキスト化して担当者が状況を正しく理解できるようにする。
言葉を微妙に変えて顧客との間にポジティブな感情的つながりを生み出すことで、CXを向上させることができる。コンテンツストラテジストは、話す内容や話し方が強力な差別化要因になることを理解している。AIには感情に訴えかけるコンテンツを生成する能力がある。だが、その感情的能力は人間が確実にする必要がある。
Capital OneのAIアシスタントを作成したチームは、感情的インテリジェンスの開発に力を入れた。その結果、人間の行員からポジティブな応対を受けたかのように、顧客がAIアシスタントに感謝のメッセージを送るのを目にした。
AIと自動化の投資収益率を測定する適切な指標を見つけるには、慎重な精査が必要だ。相互に無関係な指標は避ける。影響を正しく測定するには、プロセス全体の品質指標を定義する。
最後に残念な例を一つ挙げておこう。ある電話会社は、サービスセンターの通話時間短縮を重視した。だが、同社がMcKinsey & Companyと提携してプロセスを分析したところ、通話時間は短縮されたが技術者がフォローアップのために客先に出向く頻度が増えていることが分かった。そのコストは、通話時間の短縮で節約したコストの10〜20倍になったという。
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