Amazonと反トラスト法【後編】
Amazonはなぜ訴えられたのか? 問題視された「最恵国待遇」(MFN)の意味
「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業に対する訴訟が続く中、その一社であるAmazon.comが反トラスト法違反の疑いで提訴された。同社の何が問題だったのか。
前編「『GAFA』はなぜ訴えられているのか? 『反トラスト法』違反訴訟が活発化」は、Google、Apple、Facebook、 Amazon.comの大手4社(GAFA)をはじめとする巨大IT企業への反トラスト法(独占禁止法)違反訴訟が活発化している現状を紹介した。後編は、米国ワシントンD.C.のカール・ラシーン司法長官が2021年5月に提起した、Amazon.comへの反トラスト法違反訴訟を詳しく説明する。
問題視されたAmazonの「最恵国待遇」(MFN)条項とは
Amazon.comは販売事業者に対して、販売事業者の自社サイトを含む全ての出品先ECサイトの中で、Amazon.comにおける販売価格を最安値にするよう要求したとラシーン氏は訴えている。これは「EC市場全体にわたる違法な価格操作だ」と、同氏はワシントンD.C.司法長官事務所のプレスリリースで述べている。
販売事業者との契約において、Amazon.comは「最恵国待遇」(MFN)と呼ばれる条項を盛り込んでいる。このMFN条項の下では、販売事業者はAmazon.comにおける商品価格と、他のECサイトにおける商品価格の両方に、Amazon.comが課す手数料を反映させる必要がある。前述のプレスリリースによると、Amazon.comの手数料は総商品価格の40%を占めることもある。この MFN条項はEC市場に「人工的な高い下限価格」を形成し、EC市場における独占力をAmazon.comに与えたと、訴状でラシーン氏は主張する。
2019年にAmazon.comは、販売事業者が他のECサイトで商品をより安く販売することを禁止するポリシー(PPP:Price Parity Provisions)を廃止したと訴状には書かれている。このポリシーを「適正な価格設定に関するポリシー」(FPP:Fair Pricing Policy)に置き換えることで、販売事業者が他のECサイトで商品をより安く販売した場合、その業者をAmazon.comから締め出せるようになったという。
ラシーン氏は、プレスリリースで次のように述べている。
Amazon.comはEC市場における支配的地位を利用して、いかなる代価を払っても勝利を収めようとしてきました。販売事業者と消費者を犠牲にして自社の利益を最大化する一方で、競争を損ない、イノベーションを阻害し、自社に有利な土俵を違法に作り上げています
「反トラスト法違反訴訟が提起されたことは驚きではない。Amazon.comは全力で争うだろう」と調査会社Forrester Researchのアナリスト、スチャリタ・コダリ氏は語る。買い物客にとってAmazon.comを利用する最大のメリットは、価格の安さだ。コダリ氏によると同社は、販売事業者が他のECサイトでより安く売っても、自社の最安値を死守するために、同社補塡(ほてん)によるディスカウント「Discounts Provided by Amazon」(注)という奥の手まで使っている。
※注:米国のAmazon.comマーケットプレイスで利用できる。
「価格拘束の手段には当たらない」と専門家
Amazon.comに対する反トラスト法違反訴訟でラシーン氏が取るアプローチは、意外なものであり、「不可解」だ――。シンクタンクであるInformation Technology and Innovation Foundation(ITIF)の反トラストおよびイノベーション政策ディレクター、オーレリアン・ポーチューズ氏はこう主張する。
価格を設定するのはAmazon.comではないという点で、MFN条項は価格拘束の手段には当たらないというのが、ポーチューズ氏の見方だ。ECサイトは、価格について「販売事業者にとって実現可能な最安値か、または最も競争力のある価格でなければならない」といったことを取り決めているだけだと同氏は説明する。
Amazon.comの広報担当者は、「当社は幅広い商品を取りそろえて、それを安価に提供していることに誇りを持っている」と強調。他のECサイトと同様に「価格競争力のない商品を顧客にアピールしない権利を持っている」と話す。
ラシーン氏が求める救済措置が取られれば、Amazon.comは、商品をより高い価格で顧客に提供せざるを得ない。それでは反トラスト法の主目的に反してしまう。「これはおかしなことだ」(同広報担当者)
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