米国ニューヨーク州は医療従事者へのワクチン接種を義務化した。ニューヨーク州知事は、医療人材不足をしのぐ施策の一つに移民活用を挙げるが、効果を疑問視する専門家もいる。
2021年9月、米国ニューヨーク州は医療介護従事者に対するワクチン接種を義務付けることを表明した。発表によると、2021年9月22日(現地時間、以下同じ)時点で医療機関職員のワクチン接種率は84%、残りの16%は未接種だった。ニューヨーク州内の医療機関職員は約45万人おり、約7万2000人の医療機関職員がワクチン未接種だったことになる。同年9月23日時点で成人介護施設(ACF:Adult Care Facilities)職員のワクチン接種率は81%、ナーシングホーム職員のワクチン接種率は77%だった。
ワクチン接種の義務化に伴い、未接種者は勤務ができなくなる。医療従事者不足に備えるために、2021年の9月末時点でニューヨーク州知事のキャシー・ホウクル氏は、州兵や政府の医療支援チームに医療支援の災害派遣要請をすることを検討していた。ホウクル氏は2021年9月の記者会見で「他国からの臨時職員を受け入れるためにビザシステムの制限を撤廃する機会について国務省と話し合いをした」と述べ、外国人看護師に対する迅速なビザ発給を政府に要請している。
ニューヨーク州で起きていることは、ワクチン接種の義務化が米国全土を対象に実施されたときに起こり得る、離職リスクの初期兆候を示している可能性がある。政府は100人以上の従業員を抱える企業に対してワクチンを接種するか、少なくとも週1回の検査を実施する方針を示している。
ワクチン接種の義務化に伴う離職率への影響が懸念されるのは医療業界だけではない。調査会社Gartnerが2021年9月24日に発表したプレスリリースによると、ワクチン接種の義務化に起因する辞職や解雇によって従業員の離職率に拍車が掛かることを回答企業の69%が懸念していた。
特に看護業務に関しては、移民政策は離職率に関する問題の迅速な解決策にならない。海外の看護師が米国に入国するには、仕事の依頼を受けてから審査を受ける必要がある。この審査には、英語を流ちょうに書けることと話せることが含まれる。元米下院議員でコネチカット州の民主党員だったブルース・モリソン氏は「米国の看護資格試験にも合格しなければならない」と補足する。
「雇用主が外国人看護師を募集してから雇用するまでには、2〜3年の期間を要する」とモリソン氏は話す。だが、このプロセスが完了すれば、採用された看護師には就労ビザまたはグリーンカード(永住権)が発行される。
モリソン氏は「米国に入国可能な看護師の流れを拡大したり止めたりすることはできない」と主張する。現行の入国管理制度で1カ月に発給処理できる看護師のビザは約1000件だと同氏は指摘。「米国議会が看護師と医師のビザの発給量を増やしたとしても、差し迫った問題の解決にはならない」と説明する。
「ワクチン接種を望まない人は、患者と接触する仕事に就くべきではない」とモリソン氏は話す。離職を余儀なくされた医療従事者は、雇用主から見たらまさに「ほぼ永久的な失業」と同義だ。
米国労働省のデータによると、米国企業は3.0%(2021年9月時点)という離職率に直面している。
後編はワクチン接種の義務化が離職率に与える負の影響について考察し、雇用拡大と離職防止に向けた取り組みを紹介する。
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