非ノイマン型コンピュータの実現【後編】
ニューロモーフィックコンピューティングが切り開くエッジの可能性
ニューロモーフィックコンピューティングは、エッジに新たな可能性をもたらす。脳のニューロンを模した非ノイマン型コンピュータで何が実現するのか。
前編(ノイマン型コンピュータでは破綻するルート最適化問題の解決策とは?)では一例としてIonQの取り組みを中心に量子コンピュータの動向を紹介した。後編では非ノイマン型アーキテクチャのもう一つのアプローチであるニューロモーフィックコンピューティングについて解説する。
ニューロモーフィックコンピューティング
コンピューティングをクラウドからエッジに移すという考え方を推進するのが、Intelのニューロモーフィックチップ「Loihi」だ。同社は、神経をヒントにしたアプリケーションを開発するためのオープンソースフレームワーク「Lava」もリリースしている。
ニューロモーフィックコンピューティングは、自然界における神経の基本属性を適用してコンピュータアーキテクチャの新たなモデルを構築する。
論文「Advanced Neuromorphic Computing With Loihi」(Loihiによる高度ニューロモーフィックコンピューティング)はニューロモーフィックコンピューティングを「脳をヒントにしたコンピューティングクラスである」と説明している。ニューロモーフィックの最も有望な応用分野として、同論文は動的で予測不能な現実と相互作用する課題を解決するために、脳が生物学的にどのように進化してきたかをエミュレーションすることだとしている。
ニューロモーフィックチップは生物学的世界を忠実に反映し、ニューロン、ニューロンを接合するシナプス、樹状突起を備え、ニューロンが複数のニューロンからメッセージを受け取ることを可能にする。
2021年9月末に発表された第2世代のニューロモーフィックチップ「Loihi 2」は、6個(Loihiの2倍)のマイクロプロセッサコアとネットワークオンチップ(NoC)によって接合される最大128基の完全非同期のニューロンコアで構成される。ニューロンコアはニューロモーフィックワークロード用に最適化され、そのニューロンに接合する全てのシナプスを含め、各コアが「スパイキング」ニューロンのグループを実装する。
ニューロンコア間の全通信はスパイクメッセージの形式で行われる。これは脳のニューラルネットワークを模している。
Intel Labsの研究者ギャリック・オーチャード氏は言う。「生物学を直接モデル化しようとしているわけではない。重要だと思えることを幾つか取り入れている」
Loihiはニューロンの生物学的挙動をモデル化するため、チップの一部がニューロンのコアとして機能する。同氏は「ニューロンを説明するコードが少しある」と補足する。生物学的シナプスと樹状突起のニューロモーフィックコンピューティングバージョンもあり、全ては非同期デジタルCMOS技術で構築されている。
ディープニューラルネットワーク
ニューロモーフィックコンピューティングが生物学系をヒントにしていることを考えると、機械学習のディープニューラルネットワーク(DNN)は応用分野の一つになる。「DNNにニューロモーフィックコンピューティングを利用することは誰でも思い付くだろう。だが差別化が必要だ。当社はDNNの速度を上げようとはしていない」(オーチャード氏)
Loihi 2をはじめとするニューロモーフィックコンピューティング全体が適していると思えるのは、遅延なくセンサーデータを処理するエッジコンピューティングの分野だ。オーチャード氏によると、マイクやカメラの内部に使って生物系に似た視覚や触覚を提供できるという。持ち上げようとする物体の重量に対応できるロボットアームコントローラーやドローンで使って遅延が極めて少ない制御を提供することが考えられる。
データセンターでは、ニューロモーフィックコンピューティングによってレコメンデーションエンジンを強化したり、科学技術計算に使って物理構造内を力が伝搬する仕組みをモデル化したりすることも可能だとオーチャード氏は言う。
応用分野は、量子コンピューティングと重複する部分がある。オーチャード氏によると、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn)の列車運転士のスケジューリングといった特定の困難な最適化の解決にニューロモーフィックコンピューティングを応用できるという。
量子コンピュータとは異なり、ニューロモーフィックコンピュータはスケーリングが非常に簡単だと同氏は語る。Loihi 2はチップ同士を相互に配線するだけで拡張できる。「非常に大きなシステムを構築できる」(オーチャード氏)
Loihi 2とLavaにより、ニューロモーフィックコンピューティングの商用化は近いとオーチャード氏は語る。
IntelもIonQも、次世代コンピューティングをエッジに近づけることを検討している。LoihiによるIntelのアプローチは、脳のニューロンと同じ方法で動作する半導体を実装し、生物学から着想を得たアルゴリズムを使ってその新しいアーキテクチャを実行することだ。量子コンピューティングの基盤は量子物理学だ。
両者は大きく異なるが、どちらのアプローチも計算が複雑な問題に将来どのように取り組むかについての洞察を提供する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly日本語版
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略 -
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは? -
製品資料
[株式会社リンプレス] 非デジタル/IT人材を「自走するDX推進者」に変えるための育成ロードマップ -
市場調査・トレンド
[ワンアイルコンサルティング株式会社] AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは? -
技術文書・技術解説
[ワンアイルコンサルティング株式会社] システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「完璧な設計」なのに3000万円溶けた AWSの失敗事例から学ぶ3つの教訓
-
2
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
3
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
4
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
5
「AIバブル」は崩壊するのか? 熱狂の後に来る“尻拭い”と4つの防衛策
-
6
パナソニックが国内製造26拠点のERPを「SAP S/4HANA」に統一 アドオン7割削減
-
7
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
8
高額な「AI PC」を一般従業員も使えたら? 費用のハードルを一気に下げる方法
-
9
守るべきは「開発者のフロー状態」 AIによる生産性改善の6施策
-
10
「RAGの利用」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
2
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
3
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
4
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
5
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
6
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
7
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
8
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
9
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー