データを“立体保存”するストレージ「HDS」への期待 その新しい原理とは「ホログラフィックデータストレージ」の挫折と未来【中編】

ホログラフィックデータストレージ(HDS)は、一度書き込んだデータを変更できないWORMが基本だった。だがMicrosoftが手掛けるHDSは昔の研究とは方向性が異なる。何が変わったのか。

2022年02月17日 05時00分 公開
[Robert SheldonTechTarget]

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 記録媒体にデータを立体的に記録する「ホログラフィックデータストレージ」(HDS)。前編「HDDとSSDの限界を超える『HDS』の大ブームは来るのか」はHDSの過去の歩みと、将来への期待を紹介した。なぜHDSに期待がかかるのか。中編ではその仕組みをひも解いてみよう。

 MicrosoftはHDSの実用化に向けて、研究プロジェクト「Project HSD: Holographic Storage Device for the Cloud」(以下、Project HSD)を立ち上げた。このプロジェクトが目指すのは、HDSによるクラウドサービスを実現することだ。そのHDSは、書き込んだデータの変更ができない過去のHDSの方向性とは異なる。

期待がかかる“新”HDSの仕組み

 Project HSDは、Microsoftの研究部隊であるMicrosoft Researchの、英国ケンブリッジにあるラボのプロジェクトだ。同ラボは、ガラス板へのデータ記録を試みる研究「Project Silica」も進めている。Project Silicaは、WORM(Write Once Read Many:書き込み1回、読み込み複数回)の操作を重視する。これに対し、Project HSDはデータの消去と再書き込みを可能にするとともに、データの読み取りと書き込みの速度向上を目指す。

 「パフォーマンスとコスト効率の両方に優れ、機械動作に依存しない耐久性の高いクラウドストレージを設計することがProject HSDの目的だ」とMicrosoftは説明する。既に「過去のHDSの1.8倍に相当するデータ記録密度を実現している」という。同社の研究チームは、データの記録密度とアクセス速度のさらなる向上を狙っている。

 Microsoftの研究チームによるHDSは、スマートフォンが搭載する高解像度カメラやディスプレイなどの汎用(はんよう)部品を使用する。研究開発には、データ保管の信頼性やデータへのアクセス速度を向上させるために機械学習の手法を取り入れる。

 記憶媒体に使用する素材の点でも、Project HSDと他のHDSに違いがある。データの書き換えができないポリマー(高分子)を使ったHDSとは異なり、Project HSDは記録媒体として電気光学結晶を使用する。特定波長の光をこの記録媒体に照射することで電子分布を変え、その変化を記録する。データの書き換えができないWORMを基本としていた過去のHDSとは違い、Project HSDは記憶媒体に紫外線を照射することでデータの消去を可能にしている。

 MicrosoftのHDSにはこうした違いはあるが、データの読み取りと書き込みにおけるプロセスは従来の技術とほぼ変わらない。記録プロセスではレーザー光を2つの信号にまず分割する。一方の光信号はデータを記憶媒体へと運ぶ。このデータを運ぶ光線は光情報を処理する空間光変調器と呼ばれるデバイスを通過し、空間光変調器が変調した光線が記憶媒体に照射される。光線は「信号光」や「オブジェクト光」と呼ばれる。

 もう一方の光信号は「参照光」と呼ばれる。参照光は空間光変調器を通過せず、鏡に反射して方向転換することで記憶媒体に照射される。そこで参照光と信号光を交差させることで記憶媒体に3D(3次元)の干渉じまを作り出す。この干渉じまを記録したものを「ホログラム」と呼ぶ。1つのホログラムは、記録媒体内の1つの記録領域になる。

 HDSからデータを読み取る際は、記憶媒体のホログラムに参照光を照射して回折(光線が障害物の裏側に回り込んで届くこと)させ、それによって得られる回折像でデータを再現する。この操作に信号光は使用しない。参照光の角度を変えることでさまざまなホログラムを読み取ることができる。

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