Oracleは電子カルテ(EHR)ベンダーCernerを買収し、「全米EHR」構築の構想を示した。アナリストは「技術的にも法律的にもさまざまなハードルがある」と懸念を示す。その懸念とは何か。
Oracleの会長兼最高技術責任者(CTO)ラリー・エリソン氏は、2022年6月9日(米国時間)に公開したウェビナーで自社のヘルスケア戦略と、電子カルテ(EHR:電子健康記録)ベンダーのCernerを買収した話題に触れた。そこでエリソン氏が示したのが、全米規模で連携するEHRデータベースである「全米EHR」を構築して、EHRシステムの相互運用性の問題解決を目指すという将来展望だ。
全米EHRの構築をOracleが進めるに当たって、特に大きな問題は何なのか。調査会社Gartnerでアナリストを務めるグレッグ・ペシン氏は「データの相互運用性とEHRシステム同士の連携だ」と語る。
ペシン氏によれば、「Oracleは目標達成のためにFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)を利用する」との見方がある。FHIRは非営利医療IT標準化グループのHL7(Health Level 7 International)が開発したAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)だ。異なるEHRシステムの間でデータを共有する方法を定義し、医療データ交換用APIの仕様を含んでいる。
FHIRにはまだ基本レベルの機能しかなく、全米EHRと個々のEHRシステムの間でデータのやりとりをするという目標を実現するまでの道のりは「遠い」というのが、ペシン氏の見解だ。「エリソン氏の展望を実現するには、FHIRを現状よりもはるかに成熟させる必要がある」(ペシン氏)
全米EHRには「法的障壁も立ちはだかる」とペシン氏は指摘する。数百万人の患者データを保持する全米EHRをホスティングする役割をOracleが担う場合、そのデータの保護は連邦政府の問題に発展する可能性が高いと同氏はみる。全米EHR自体が重要インフラになるためだ。
エリソン氏はヘルスケア戦略発表の中で「国家規模のデータベースを匿名化することで患者データを保護し、患者データに誰がアクセスできるかを患者自身が制御できるようにする」と述べている。そのためにはデータの扱いに関する同意プロセスを用意する必要があり、場合によっては「国家的な患者IDを創出する必要も考えられる」とペシン氏は指摘する。「そのためには、議会が動かなければならない」(同氏)
Oracleが全米EHRの構築を目指すに当たっては大きな課題に直面する可能性が高い。だが音声認識ユーザーインタフェースの追加、遠隔医療モジュールの連携、疾病管理をターゲットとするAPIの使用など、エリソン氏が掲げたCernerのEHRシステム「Millennium」を改善するという目標は「現実的であり、短期間で実現できる」とペシン氏は語る。
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。
YouTube広告の実店舗売り上げへの貢献を計測 インテージが「Sales Impact Scope」を提供開始
インテージがYouTube出稿による小売店販売への広告効果を計測するサービスを提供開始した...
2025年のデジタル広告業界の展望 日本のマーケターの優先メディアと課題は?
IASは、2025年におけるデジタル広告業界の主要なトレンドについて掘り下げたレポート「Th...
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年1月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。