AIによる「不公正な世界」を危惧する労働組合 何が問題なのか?業務監視ツールとAI技術を巡る法規制【第4回】

英国IT専門職の労働組合は、自動化された人事評価システムや業務監視ツールの利用によって労働者が被るリスクを憂慮し、ガバナンスや法規制の強化が必要だと主張する。これを受けて、英国議会はどう動いたのか。

2023年07月14日 05時15分 公開

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 英国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)をきっかけに業務監視ツールが普及した。英国労働組合会議(TUC:Trades Union Congress)や超党派議員連盟はこの状況を問題視し、業務監視ツールとAI技術を巡る法整備について議論を進めている。業務監視ツールやAI(人工知能)技術の適正利用について、英国政府はどう動いているのか。

「AIに支配されない権利」を取り戻そうとする動き

 英国IT専門職の労働組合Prospectで書記長を務めるマイク・クランシー氏は「AI技術は既に人々の働き方を変えているが、悪用を防ぐためのガバナンスと法規制は追い付いていない」と述べる。同氏は技術の進歩が経営者と従業員の双方に大きな利益をもたらす可能性があることは否定しないが、「政府が明確なルールを定めなければ、不適切な業務監視ツールの利用や、自動化された人事評価システムの利用が常態化する恐れがある。働き方の変化に伴い、労働者は組合に加入し、未来の仕事の公正性を確保するために戦える強い力を得るべきだ」と主張する。

 Prospectは2022年2月に「Digital technology: Guide for union reps」を公開した。これは、職場でさまざまなデジタル技術を使用することについて、労働者が使用者と交渉するための手引だ。特に、ITツールの導入方法に関して労働組合が団体交渉を確立する必要性に重点を置いている。

 2023年5月に英国では、労働党議員のミック・ホイットリー氏が、職場でのAI技術利用を規制する趣旨の法案「Artificial Intelligence (Regulation and Workers' Rights) Bill」を提出した。この法案には、経営者が職場にAI技術を導入する前に従業員とその労働組合に対して有意義な協議をすること、そしてAI技術を導入した経営者が「差別をしていないこと」を証明する責任を負うこと、という条項がある。ただしこれは英国議会における「10分間ルール法案」(Ten Minute Rule Bill、注1)であり、2023年11月24日の議会で詳細な検討と修正が加わる見込みだ。

※注1:「10分間ルール」は英国下院において、議員が新しい法案を提出する手順の一つ。新しい法案を提出したい議員がそのメリットについて最大10分主張を述べ、その後反対意見のある議員が10分発言する権利を行使する。議員が法案に反対する意思を議長に示さなかった場合、その法案は投票なしで提出される。現実的には、10分間ルール法案が法律として成立することはほとんどない。むしろ重要な問題について議論を起こし、国会の意見を試すための制度として利用されている。

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