英国政府はコネクテッドデバイスの利用実態に関する調査資料を公開。メリットに注目されがちなコネクテッドデバイスを、従業員監視に使う際の懸念点は。
英国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省(Department for Digital, Culture, Media and Sport:DCMS)の特別委員会が2023年8月に公開したレポート「Connect tech:smart or sinister」は、「コネクテッドテクノロジー」によって生じるメリットと問題点に関する調査結果をまとめた。このレポートはコネクテッドテクノロジーを、「インターネットなどのデジタルネットワークに接続される物理的なもの」と定義している。
同レポートは、コネクテッドテクノロジーを用いた従業員の監視は「監視対象となる従業員と話し合い、同意を得た場合にしか実施できない」と結論付けている。データを自動収集するシステムを職場に導入する際は、エビデンスに基づく調査結果となるよう、改善に関する研究を外部に委託すべきだ――というのが英国政府の見解だ。
本レポートは、コネクテッドテクノロジーの実用性における根幹は「データの収集と処理」だと主張する。ユーザーデータがあれば、次のようなことを直接、自律的に実行したり、遠隔操作したりできるからだ。
コネクテッドデバイス(ネットワークに接続したデバイス)が収集したデータによって間接的に実現可能になる(他の手段に応用したり、再利用したりする)こととしては、製品開発、観測した好みや推測した好みに基づくターゲット広告、サードパーティーとのデータ共有などがある。
本レポートを執筆したDCMSの特別委員会は、一般家庭から学校、職場、スマートシティーまで、コネクテッドテクノロジーの多種多様な活用シーンを想定して可能性と影響度を調査している。職場に関しては、さまざまな業界がコネクテッドテクノロジーを導入する事例が急増しているという。
産業ロボット、アルゴリズムを使った物流管理、カスタマーサービスにおけるチャットbot、セルフサービス決済に至るまで、コネクテッドテクノロジーがもたらすメリットは多種多様だ。Amazon.comのフルフィルメントセンターにおける事例では、ロボット工学や機械学習などの技術を組み合わせて、従業員の身体的負担を軽減したり、より高度な業務に専念できるようにしたりすると同時に、業務の安全性も向上させている。
ブルネル大学(Brunel University)で戦略とビジネス経済学の上級講師を務めるアシエ・タバグデヒ氏は、本レポートの中で「迅速かつ先を見越したワークフロー、コミュニケーション、フィードバックを通じてパフォーマンスを最適化できるのであれば、コネクテッドテクノロジーは生産性の向上や効率の向上につながる可能性がある」と主張する。
コネクテッドテクノロジーは、仕事の形式が障壁となってその職を選択できなかった人々にも力を与える可能性がある。シェフィールド大学(University of Sheffield)のエフブラクシア・ザマニ氏(本稿公開時点ではDurham University Business Schoolに所属)は本レポートで次のように主張する「テレワークを容易にするITは、職場で人間関係を育むという点では課題が残るものの、障害のある人々や地方在住の人々がこれまでは得られなかった仕事に就くことを可能にした」
一方で本レポートは、コネクテッドテクノロジーを用いる職場環境には明らかなマイナス面もある、と警告する。背景にあるのは、経営者と従業員の間に存在する「本質的に不均衡なパワーバランス」だ。
タバグデヒ氏と、サセックス大学(University of Sussex)のマシュー・コール氏は、Oxford internet Instituteの「Fairwork Project」の活動を通じて、労働者と顧客や消費者を仲介する「デジタル労働プラットフォーム」の労働条件や公平性を評価している。本レポートはその研究報告を参照して、コネクテッドテクノロジーを用いた労務管理が従業員にもたらす悪影響に言及。コネクテッドテクノロジーによって時間を詳細に追跡することが、倉庫作業に生産性の向上をもたらす側面はある。しかしこの技術は、従業員に疎外感を与え、ストレスや不安を増大させる恐れがあるという。
技術変革が広がれば、複雑なタスクはシンプルなタスクに細分化され、機械がそのタスクを実行できるようになる。その結果タスクの構成が変わり、もともと必要とされていたスキルが不要になる可能性がある――コール氏はそう主張する。
コネクテッドテクノロジーを利用する際に雇用主は労働者と話し合い、同意を求めることが必要、というのがDCMS特別委員会の主張だ。その原則に基づいて、英国個人情報保護監督機関(Information Commissioner's Office:ICO)が作成した従業員監視に関するガイダンス「Employment practices:monitoring at work」の内容を改良し、システム設計者と運用担当者向けの規定に発展させる必要がある、とDCMS特別委員会は考えている。
後編は政府の動向に対する研究者の反応や、労働組合の見解について解説する。
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