Hyper-Vが「脱VMware」の本命になる“新サーバOS”だけではない理由ハイパーバイザーの選択肢が変わる【中編】

Microsoftがハイパーバイザー「Hyper-V」を含むサーバOSの新バージョン「Windows Server 2025」の一般提供を2024年11月に開始した。これによってVMwareのハイパーバイザーからHyper-Vへの移行が加速する可能性がある。

2024年12月11日 07時00分 公開
[Ed ScannellTechTarget]

 Microsoftは2024年11月、ハイパーバイザー「Hyper-V」を含むサーバOSの新バージョン「Windows Server 2025」の一般提供を開始した。仮想化ソフトウェア市場ではVMware製品のライセンス変更による混乱が生じている中で、Microsoftは巻き返しを図るための絶好の機会を迎えている。それはなぜなのか。VMwareのハイパーバイザー「VMware ESXi」からHyper-Vへの移行が進む可能性がある理由は、Windows Server 2025が登場したことだけではない。

脱VMwareの本命は、やはりHyper-V?

会員登録(無料)が必要です

 VMwareを買収したBroadcomが経てきた過去の買収の実績も、Microsoftにとっての勝機になり得る。Broadcomは、セキュリティベンダーSymantecのエンタープライズセキュリティ事業や、企業向けソフトウェアベンダーCA Technologiesを買収した後と同じ戦略を繰り返す可能性がある。つまり、業績が芳しくなかったりBroadcomの既存の製品ポートフォリオに容易に統合できなかったりすれば、対象の製品や部門を売却するか、利益率が低い製品への投資を削減する可能性があるということだ。

 Broadcomは既に、2024年8月に教育機関向けのプログラム「VMware IT Academy」と「Academic Software Licensing」を終了させ、VMwareコミュニティーの反感を買っている。これらのプログラムは、学生向けにVMwareライセンスやトレーニングを割引価格で提供するものだった。Broadcomはこれらの取り組みを終了させる前に、教育関係者に対して8月31日までの間、サービスとライセンスをもう1年購入する機会を与えた。

 ウィスコンシン州にある技術専門学校Milwaukee Area Technical Collegeの講師でITアーキテクトのブライアン・キルシュ氏は、「無料ライセンスが終了すると、授業でVMwareについて教えることができない」と言う。VMwareの授業は、同校のプログラムにおいて重要な部分を占めており、多くの学生がその恩恵を受けてきた。「無料ライセンスがなければ、1年のうちに授業をもう提供できなくなる」とキルシュ氏は語る。既にVMware IT Academyを運営していた人々は全員いなくなったという。

 教育機関向けのプログラムを廃止するというBroadcomの決定は、教育機関だけではなく商用市場にも及ぶ可能性がある。IBMやMicrosoft、Cisco Systemsといったベンダーは、授業で扱うソフトウェアに対して惜しみなく割引を提供している。「Broadcomのやり方が報われることはないだろう」とキルシュ氏は話す。

複数の選択肢でVMwareユーザーを引き付けるMicrosoft

 BroadcomがVMware製品のライセンスをサブスクリプションベースに全面的に移行させることで、ユーザー企業にとっては大幅なコスト増になることがある。これを受けて、一部のユーザー企業は、別の仮想化製品に乗り換える中長期的な計画を練っている。

 Broadcomは「VMware Cloud Foundation」と「VMware vSphere Foundation」という製品ラインアップに製品群をまとめて提供する。ユーザー企業は、全てのソフトウェアが必要かどうかにかかわらず、これらのスイート製品を購入する必要がある。この状況を受けて、調査会社Forrester ResearchはVMwareユーザー企業の約20%が、どこかの時点で別の製品に移行すると推定している。

 突然の製品ポートフォリオ再編やライセンス体系の変更は、ユーザー企業の心理に影を落とすものになる。これはHyper-Vを提供するMicrosoftにとっては顧客基盤を拡大するチャンスだ。

 Microsoftの戦略は、Hyper-Vだけにとどまらない。VMwareユーザーを引き付けるための同社の多面的なアプローチには、オンプレミスのアプリケーションをそのままクラウドサービス「Microsoft Azure」(以下、Azure)へリフト&シフトできる「Azure VMware Solution」や、Azureと連携したハイブリッドクラウドの構築ができるハイパーコンバージドインフラ(HCI)「Azure Stack HCI」などがある。

 Azure VMware Solutionは、VMwareの仮想化基盤で構築したアプリケーションを、スケーラビリティのあるクラウドサービスに手軽に移行できるようにするためのサービスだ。Microsoftは、2024年5月には移行支援策「VMware Rapid Migration Plan」を発表した。これにはリザーブドインスタンス(予約によって割引されるインスタンス)を新たに購入する際の20%割引などの割引プランが含まれる。

 ITインフラのコンサルティング会社Holden Information Servicesを経営するマイケル・スタンプ氏は、「約2カ月間で、私はVMware製品によるシステム環境の3分の2ほどを廃止し、Azureへの移行を全力で進めている」と話す。同社の移行先はAzure VMware Solutionではなく、純粋なAzureのインスタンスだ。移行先のインフラに使用するOSはWindows Server 2025でも「Windows Server 2022」などその前のバージョンでもよいとスタンプ氏は強調する。「バージョンは問題ではない。誰もが非常に動揺しているので、われわれはただVMware製品から離れたいのだ」(スタンプ氏)

 Azure Stack HCIは、ハイブリッドクラウドに関心のあるユーザー企業向けのHCIだ。Azure Stack HCIを利用するには、Azureのサブスクリプションが必要になる。オンプレミスのシステムやクラウドサービスを一元管理するための仕組み「Azure Arc」を使うことで、Azure Stack HCIとAzureの連携がしやすくなる。MicrosoftはAzure Stack HCIを、ハイブリッドクラウドを求めるユーザー企業向けの、仮想化ソフトウェア「VMware vSphere」の代替として位置付けている。

 VMwareが仮想化基盤のデファクトスタンダードではなくなる可能性があるとみて、「われわれは非VMwareのオンプレミスインフラで生きる準備をする必要がある」とスタンプ氏は話す。Hyper-Vは、VMware製品からの移行を検討するユーザーにとっての有力な選択肢になると同氏は予測する。


 後編は、Windows Serverの進化として注目すべき点を取り上げる。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

事例 Datadog Japan合同会社

事例に学ぶ、複数のクラウドやアプリ環境を統合的にモニタリングする方法

SOMPO Light Vortexは、アプリケーションごとに使用するクラウド環境が異なり、これらを横断的かつ統合的にモニタリングすることが困難で、大きな課題と感じていた。これを解決すべく、同社が採用したアプローチとは?

事例 Datadog Japan合同会社

クラウドのスケーラビリティに追従、システム全体の高度なモニタリングの実現策

オンプレミス時代からのシステム監視運用工数の大きさが課題となっていたサイバーエージェント。そこで同社が、クラウドコンピューティング移行を進める中で導入した、クラウドやコンテナ環境に対応する、高度な監視ソリューションとは?

製品資料 SCSK株式会社

GUIで見える化を加速、複雑なジョブ管理運用も楽にする注目のアプローチとは?

ITシステム運用の自動化が進む一方、ジョブ管理の複雑化も加速しており、状況把握や障害予測に課題を抱える企業が増えている。そこで注目したいのが、ジョブの見える化と自動化を加速する、あるジョブ管理製品の最新バージョンだ。

製品資料 株式会社野村総合研究所

IT統制のジレンマ、「運用・開発の分離」「品質・効率の改善」をどう両立する?

システム運用と開発の“分離”は、IT統制の観点からも重要だが、その実践にはさまざまな課題が付いて回る。IT運用の品質や業務効率を改善しつつ、IT統制もバランス良く維持するためには、どのようなアプローチが有効だろうか。

製品資料 株式会社野村総合研究所

IT環境がハイブリッド化した現代なのに、なぜ“今こそ運用内製化”なのか

クラウドやオンプレミスに分散し、複雑化しているITシステム。これにより情報システム部門がシステム全体を管理することが難しくなり、アウトソーシングが一般的になった。ただ、こうした状況こそ内製化に取り組んだ方が良いという。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news253.jpg

「AIエージェント」はデジタルマーケティングをどう高度化するのか
電通デジタルはAIを活用したマーケティングソリューションブランド「∞AI」の大型アップ...