旅行業界におけるAI技術の活用が広がっている。しかし専門家は、旅行業界にはAI導入を妨げる特有の課題があると指摘する。その内容とは。
人工知能(AI)技術の活用は、さまざまな業界で広がっている。旅行業界も例外ではなく、ダイナミックプライシング(需要と供給に応じて価格を変動させる手法)や顧客応対の自動化などの活用例がある。一方、ある専門家は、AI技術を使ったシステムの導入や運用には旅行業界特有の課題があると指摘する。
適切なタイミングで適切なデータを収集することに加え、データの管理、安全性の確保が必要だ。調査会社Everest Groupのシニアアナリスト、カルティケイ・コーシャル氏は「旅行業界は膨大な顧客データを扱っている」と述べ、「データの保護やプライバシーの確保、法規制の順守が課題だ」と指摘する。
他業界と同様に、旅行業界ではレガシーシステムがしばしば使われる傾向にある。レガシーシステムはAIアプリケーションの実行に必要なデータの処理を妨げる恐れがある。調査会社McKinsey & Companyのパートナー、アレックス・コスマス氏によると、AIの性能を引き出すには、レガシーシステムからの脱却や新たなシステムへの投資が必要になる。
顧客データのサイロ化(データの分散)も課題だ。ホテルが顧客体験を改善したい場合、顧客が利用する交通手段やアクティビティーの情報が必要になる。しかし顧客情報は、ホテルや航空会社それぞれが独自のシステムに保存しているため、データの連携に手間と時間がかかる。
顧客の中には、従業員との対面のやりとりを好む人もいる。「顧客応対にAI技術を導入することで、従来の接客に満足していた顧客を失うリスクがある」とコスマス氏は指摘する。旅行会社はAI技術を導入する際、そうしたリスクの緩和策を講じる必要がある。
他の業界では、顧客を共通の特徴や嗜好に基づいてセグメント化し、それに応じたサービスを提供している。しかし「旅行業界では他の業界と比べて顧客のセグメント化が困難だ」とコスマス氏は述べる。旅行は顧客のニーズが多種多様で、出発地や目的地、時期、価格帯、グループの規模などさまざまな変数が存在する。
セグメント化したデータを用いて高度にカスタマイズしたサービスを提供すると、顧客が不快感を抱く恐れがあるとも同氏は指摘する。
生成AIツールは事実と異なる情報を生成する「ハルシネーション」を起こす場合がある。2024年2月、ある顧客が航空会社Air Canadaを提訴した。同社のWebサイト上のAIチャットbotが顧客に誤った情報を提供したとして、航空会社の責任を追及したものだ。
ハルシネーションがもたらすリスクを理解し、問題が発生した場合の対処法や責任の所在を明確化しておくことが重要だとコーシャル氏は述べる。
AI技術を利用してサービスや製品をパーソナライズすることは可能だが、必ずしもAIが人間のように業務を処理できるわけではない。
アメリカ旅行アドバイザー協会(American Society of Travel Advisors)の広報副社長のエリカ・リヒター氏は、顧客の個別のニーズを把握し、創造性や共感力を発揮してユニークな旅行プランを作成する旅行代理店の重要性を強調する。こうした強みは、既知のデータセットを分析するだけでは得られないものだ。
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