通信事業者がネットワークインフラのクラウド化を進めている。その一例が「クラウドRAN」だ。クラウドRANとはどのようなものか。メリットや導入例を解説する。
通信機器ベンダーNokiaは2024年12月、フィンランドの通信事業者Elisaの商用「5G」(第5世代移動通信システム)インフラとして、クラウド無線アクセスネットワーク(Cloud Radio Access Network、以下C-RAN)を導入したと発表した。加えて同月、イタリアの通信事業者EOLOにスタンドアロン(注1)かつミリ波(注2)を利用した5G無線アクセスネットワーク(RAN:Radio Access Network)を展開したと発表した。
※注1:コアネットワークに「4G」(第4世代移動通信システム)を利用せず、5G専用の装置のみで構成した5G
※注2:30GHz帯から300GHz帯の電波
世界各国の通信事業者が導入を始めたC-RANは、ネットワークにどのような変化をもたらすのか。
RANは、デバイスと通信事業者のコアネットワークの間の通信データを整理して引き渡す役割を担うネットワーク。C-RANとはクラウドネイティブ(クラウドサービスの利用を前提とした考え方)に設計したRANのことだ。基地局のベースバンド処理(アナログ信号とデジタル信号を変換する一連の処理)をデータセンターで実行するアーキテクチャを指す場合もある。
Elisaは自社のネットワークの拡張性を向上させるためには、ネットワークインフラのクラウドサービス化を追求するべきだと考えている。同社によると、C-RANによってエンドユーザーのより近くでコンピューティング処理できるようになる。これは発生源の近くでデータを処理する「エッジコンピューティング」の考え方であり、ネットワークの上流のシステムへの負荷や通信遅延を削減できる可能性がある。
人工知能(AI)を活用するアプリケーションによって将来エッジコンピューティングの需要が増加すると見込まれることから、データを処理する場所をネットワークエッジに近づける能力は重要になる。
NokiaとElisaは2023年10月時点でC-RANのトライアルを開始したことを発表していた。Elisaの商用5Gインフラを対象にC-RANを導入しており、電力効率や機能面、処理性能などの面で問題がないことを確認した。さらに、従来のRANとC-RANの併用が可能であることを実証した。
NokiaとElisaは具体的に、以下の製品などを利用して5G C-RANを構築した。
Nokiaによると、C-RANを早期導入することで、通信インフラを構成する各コンポーネントの運用を一新できる可能性がある。同社によればRANのクラウド化は、人手を介さずにトラブルを修復する自己修復機能をネットワークに実装するために重要な役割を果たす。ElisaはこうしたC-RANのメリットが、「6G」(第6世代移動通信システム)においても重要になると考えている。
イタリアで事業を行うEOLOがNokiaとC-RANを契約した目的は、サービスが行き届いていない地域をつなぎ、イタリア国内のデジタルデバイド(情報格差)や利用できるブロードバンドサービス品質の格差を埋めることだ。
EOLOはイタリアの地方や小規模自治体を中心に、個人と法人の両方のブロードバンド市場をけん引している。同社は、1GbpsのFTTH(光ファイバーによる通信サービス)と、最大300Mbpsのユーザー宅と通信事業者の中継網を無線でつなぐ「固定無線アクセス」(FWA:Fixed wireless Access)サービスによって、イタリア全土の自治体やエンドユーザーにブロードバンドサービスを提供している。
Nokiaは同社が提供するSoC(システムオンチップ)「ReefShark」シリーズを組み込んだAirScaleシリーズの製品と、同社のミリ波無線機シリーズ「Shikra」をEOLOに提供する。EOLOはこれらを活用して、光ファイバーなどの有線インフラの敷設(ふせつ)が非現実的または導入コストが高くなる可能性のある農村部やサービスが行き届いていない地域にFWAサービスを提供する。
「今回契約を結ぶNokiaなどのパートナーと連携することで、イタリア市場全体に最大1GbpsのFWA接続を提供できるようになる」と、EOLOのCEOグイド・ガローネ氏は述べる。
「新しい5Gインフラを導入することで、FWA接続が発展し、カスタマーエクスペリエンスがさらに向上するとともに、デジタルデバイドが解消されるだろう」(ガローネ氏)
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