AIモデルの「学習」と「推論」は結局どちらが重要なのか?推論と学習のバランスを考える【後編】

AI開発における重要なプロセスが「学習」と「推論」だ。開発者はそれぞれどの程度のリソースを割けばよいか見極める必要がある。どちらを重視すべきなのか、複数の視点から考察する。

2025年03月17日 07時00分 公開
[Donald FarmerTechTarget]

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 AIモデルの開発と運用において、「学習」と「推論」は欠かせないプロセスだ。限られたリソースの中でAIモデルの精度を最大限に高めるには、両者への適切な配分を慎重に検討しなければならない。学習と推論どちらにリソースを割くべきなのか、複数の視点から考察する。

AIモデルの「学習」と「推論」は結局どちらが重要?

 一般的に、推論用の計算リソースを増やすことで、推論の精度は向上する。AIモデルの精度を高めるには学習データを増やしたり、繰り返し学習させたりする必要があるが、推論の精度が高ければ、頻繁に学習を繰り返さなくてもよくなる。結果的に、学習の回数とそれに伴うコストが減り、効率的に運用できる可能性がある。

 反対に、学習により多くの計算リソースを割り当てることで、より効率的なAIモデルを開発し、推論時の計算負荷を減らすこともできる。それぞれにメリットとデメリットがあるため、状況に応じた選択が求められる。

 注意すべきは、学習を重視し過ぎると「過学習」(Overfitting)が発生する可能性がある点だ。過学習とは、AIモデルが学習データ内のノイズや無関係な揺らぎまで学習してしまうことを指す。過学習されたAIモデルは、学習データに対しては高い精度を示すものの、新しく与えられたデータに対しては上手く機能せず、予測精度が低下する可能性がある。過学習されたAIモデルは新しいデータへの適応力が低く、時間の経過とともにデータが現実の状況を正確に反映しなくなる「モデルドリフト」のリスクにもさらされる。

 こうした問題を抑えるために、さまざまなAIモデル最適化手法が重視されている。その一つが、プルーニング(Pruning)だ。これは不要なパラメーター(モデルのトレーニングに使う変数)や重みを削除することで、学習後のAIモデルのサイズを縮小する手法を指す。これにより、推論時の計算負荷が軽減され、処理速度の向上が期待できる。不要なパラメーターを削減することで、学習データへの過度な適合を防ぎ、過学習の影響を抑える効果も期待できる。

 学習と推論の優先順位を決定する際には、「性能」と「スケール」(規模)の2つの要素を考慮する必要がある。例えば、一般公開されている大規模AIモデルは、多くのユーザーからのリクエストを処理する必要があり、CPU(中央演算処理装置)、GPU(グラフィックス処理装置)、TPU(テンソル処理装置)といった推論に必要な計算リソースの量が膨大になる傾向にある。従って、推論コストを削減することで、運用コストを大幅に低減することが可能だ。

 ハードウェアとソフトウェアが進化するにつれて、学習と推論に必要なリソースの差は縮まりつつある。しかし、最適なアプローチは依然として、両方のプロセスをバランス良く取り入れることが求められる。

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