デスクトップ仮想化によって年間25万ドルを削減したカレッジの事例デスクトップ仮想化の導入戦略と課題(後編)

カナダの金融会社と米コミュニティーカレッジのデスクトップ仮想化導入事例。これからデスクトップ仮想化を導入する企業に向けて、仮想化の適用範囲やライセンス、総コストなど多くのアドバイスを紹介する。

2011年10月06日 09時00分 公開
[Christina Torode,TechTarget]

 本稿では、企業がデスクトップ仮想化技術をどのように導入するべきかに焦点を当て、導入で直面するさまざまな課題について掘り下げる。前編「医療保険会社に聞いた、デスクトップ仮想化の導入で苦労した点」に続き、後編でも2つの事例を紹介する。

デスクトップ仮想化の段階的アプローチ

 カナダのManulife Financialでインフラ管理担当アシスタント副社長を務めるエリオ・ベニンカサ氏によると、デスクトップ仮想化はサーバの仮想化から始め、アプリケーションの仮想化へ進化し、ここ数年のうちにManulifeの企業規模に十分対応できるだけの安定した技術に成熟したという。

 1部門からスタートした仮想化インフラ(VDI)への投資は、コールセンターなどのプロセスワーカーや、インハウスおよびオフショアアプリケーション開発者、一部の管理および運用スタッフをサポートする必要性が高まったことが背景にある。それと同時に、ベニンカサ氏はコールセンターのユーザーやアプリケーション開発者がアプリケーションにアクセスしたとき、一貫したルック&フィールを得られるようにすることも要求された。

 最大のチャレンジは、ユーザーがWindows XP SP1/SP2を利用していたのに対し、一部の開発作業がWindows Server 2000/2003で行われていたことだった。ベニンカサ氏は、複数のシステムの管理と保守を簡素化する方法を発見し、どのようなプラットフォームを利用しているかにかかわらず、アプリケーションを利用するユーザーに一貫した体験を提供しなければならなかった。VDIは、その両方を可能にするものだった。

 「VDIによって多くのプラットフォームに、またオフショア開発者からコールセンターのユーザーまでの多くのユーザーに、一貫したルック&フィールを提供できるようになった」とベニンカサ氏はGartnerのカンファレンスのプレゼンテーションで強調した。「もう1つの利益は、トレーニングがシンプル化されたことだ。各プラットフォームへの新しいOSやアプリケーションの導入もかなり容易になった」

 当初、このプロジェクトのインフラは米VMwareをベースとし、既存のハードウェアプラットフォームを活用するために、サーバホステッドデスクトップおよびシンクライアントで構成されていた。接続ブローカがユーザーを確認すると、そのユーザーの職務に応じて仮想デスクトップが用意され、社内のアクセス特権が付与される仕組みだ。

 最初に導入した部門向けのVersion 1(とベニンカサ氏は呼ぶ)は2007年に稼働を開始した。現在ベニンカサ氏は、同じユースケースシナリオ(アプリケーション開発者、運用サポートスタッフ、オフショアデータベース管理者)を用いて、別部門のVDI計画を進めている。最初のデスクトップ仮想化プロジェクトでは、基本技術としてVMware ESXおよびVMware Viewを採用した。現在進めている計画では、VMware ESXをバックエンドとして利用し、米Citrix SystemsのVDIインフラをベースにする予定だ。

 「われわれのグローバルインフラ担当スタッフは、最初のラウンドから標準の開発を目指し、今回はバックエンドにVMware ESXを利用して、Citrix Systemsプラットフォームで行くことにした」とベニンカサ氏は語る。変更の主な理由は、VMware ESXがPCoIPリモートデスクトッププロトコルを用いるのに対し、Citrix SystemsのICAプロトコルがManulifeのグローバルスタンダードであったからである。「単一のプロトコルで全世界のファイアウォールやリージョンを管理する方が、われわれにとっては容易だ」

 開発中のVersion 2に関連して、ベニンカサ氏は以下のようなアドバイスを提供した。

  • なぜVDIを実装するのか、ユーザーは誰で、彼らのどんな仕事をしているのかを理解すること。「ユーザーが受け入れるかどうかが最大の鍵。彼らのアプリケーションを全て実行できないソリューションを提供すれば、その後大きな問題を抱え込むことになる
  • アプリケーションの中には、物理的なマシンを必要とするものがある。Manulifeのトレイダーたちが利用するBloombergシステムがそうだった
  • 仮想化の範囲は常に変化する。そのことに常に注意を払い、合併・統合などによってライセンスに抵触するおそれが生じることを認識しておくべきだ
  • VDIモデルにおけるベンダーとのライセンス条項について、調達チームとしっかり議論しよう。ユーザー単位の料金は、北米のユーザーをベースとするのか? もしそうであるなら、サードパーティーのオフショアユーザーはカバーされないのか?
  • インフラ投資は巨額なものになる。「サーバサイドに関しては、サイジングを理解する必要がある。実装した後で、ディスクを動かす資金が足りなくなるような事態は避けたい
  • VDIにおける永続的なイメージのコストは、それらのイメージごとに倍化する
  • コンプライアンスに合致するプロビジョニングメカニズムを確立し、オフショア開発者がドキュメントを印刷したり、USBメモリに情報をコピーしてどこかへ行ってしまうといった事態を避ける

デスクトップ仮想化でトップに立つ

 米スコッツデール・コミュニティーカレッジのダスティン・フェネルCIOもまた、デスクトップ仮想化への段階的アプローチを提唱する1人だ。彼のチームは、同カレッジのITシステムを完全なオペレーショナルVDI環境に移行し、250のアプリケーションを仮想化した。

 最初の目標は、アプリケーションの提供をプラットフォームやデバイスに対して独立的に実行できるようにすることだった。「エンドデバイス管理の煩雑さから解放されること。エンドデバイスが誰のもので、どこにあるか意識する必要がなくなること」と、Gartnerのカンファレンスでフェネル氏は述べた。そのために、まずはアプリケーションから始めるべきだと同氏はアドバイスする。アプリケーションの仮想化から始めることで、現行インフラをオーバーホールすることなく、ユーザーに直ちに新しい機能を提供できるようになる。その後、仮想デスクトップに移行して、米AutodeskのAutoCADや米Adobe SystemsのCreative Suite 5などのグラフィックインテンシブなアプリケーションに取り組めばよい。

 フェネル氏によると、もう1つのキーエレメントは、Active Directoryをベースにユーザーがどこにいても、どのようなデバイスを利用していてもアプリケーションを提供できるプロビジョニングシステムを備えたWebポータルだ。「われわれは、どのようなデバイスからでも、どこからでも、ユーザーが必要とするサービスへのオンデマンドアクセスを実現するために、デスクトップ仮想化とその他のさまざまな仮想化技術を活用している」と同氏は語る。

 同カレッジのデスクトップインフラには、OSがインストールされたローカルPC、サーバホステッドアプリケーション、サーバホステッドデスクトップ、サーバブレードコンピューティング、ローカルデバイスへのアプリケーションおよびOSストリーミング、そしてベアメタルハイパーバイザが含まれる。「ベアメタルマシンなら、誰かが入ってきてそれを盗んでいったとしても、われわれは気にする必要がない。それは使い捨てのマシンであり、そこには何のデータも入っていないからだ」とフェネル氏。

 デスクトップ仮想化によって、ハードウェアとソフトウェアの資源をプールし、ハードウェアの寿命を伸ばし、サポートの負荷を軽減することが可能になり、またIT関連の人件費を圧縮できた結果、スコッツデール・コミュニティーカレッジは年間25万ドルのコストを節減できたとフェネル氏は語る。節減したコストのうちの5万ドルが、IT改革のアイデアを出した同カレッジの職員やスタッフの報奨金のファンドに振り向けられた。

 こうしたコスト節減と学生へのサービス改善は、直ちにカレッジ全体に影響を及ぼし、デスクトップ仮想化戦略の全面導入が決定した。

 「われわれは、学生のためのコンピューティング環境という領域で、他の15のカレッジに競争優位性をもたらした。学生は、使っているハードウェアの製造年や購入できるソフトウェアによって履修できる科目が制限されることがなくなった。われわれは学生がどのようなデバイスを利用していようと、彼らが必要とするソフトウェアへのフリーアクセスを保証する」とフェネル氏は胸を張る。

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