ERP Now!【第10回】
次世代ERP「Oracle Fusion Apps」から探るERP製品選択の未来
「高くて使いにくい」から「安くて使いやすい」へ――米オラクルが発表した新ERP「Oracle Fusion Applications 11g」はERPのイメージ刷新を狙っている。同ERPの機能を紹介し、次世代ERPを選ぶ上でのポイントを探る。
ERPをゼロから開発する意味
米オラクルは米国サンフランシスコで10月2~6日に開催された「Oracle OpenWorld 2011」で、次世代ERPパッケージ「Oracle Fusion Applications 11g」(以下、Fusion Apps)の提供開始を発表しました。Fusion Appsは6年かけて開発されたERPで、今後国内でも順次提供が開始される予定です。今回のERP Now!ではこのFusion Appsを通して、次世代ERPを選ぶ上でのポイントを探ってみます。
企業の基幹業務を支えるERPパッケージが利用されるようになって20年以上がたちます。既に2代目、3代目のERPが稼働しているという企業も多いことでしょう。その時代にオラクルがERPをゼロから開発したことの意味とは何だったのでしょうか。キーワードは「低コスト」「包括性」「使いやすさ」です。
オラクルのアプリケーションについての記事
企業はERPについて「高くて使いづらい」という見方をしています(参考記事:クラウドERPの普及はいつ? ガートナーが示す次世代ERPの浸透時期)。特にコストについてはライセンスコストの他に、運用管理の保守コストやアップグレードコストが掛かり、評判はよくありません。
Fusion Appsはこのような企業の視線を感じながら開発されました。最初のキーワードである低コストに関して、オラクルは標準技術を採用することで解決を狙っています。ベンダーの独自技術ではなく、Javaなどの標準技術を使って開発することで、そのスキルを持ったエンジニアを確保しやすくし、カスタマイズやアップグレード時のコスト増を防ぐ狙いがあります。標準技術を採用しているため、既存システムとの統合も簡単で、コストが掛からないとも訴えています。
Oracle OpenWorldに参加した日本オラクルのアプリケーション事業統括本部 ビジネス推進本部 ビジネス開発部 担当シニアマネジェー 安井 清一郎氏は「Fusion Appsに興味を持つ会社は、標準技術を活用した今後の拡張性に興味を持っているようです」と話します。
1つのコードでオンプレミス、クラウドの運用が可能
低コストというキーワードでもう1つ注目されるのはクラウドコンピューティングへの対応です。Fusion Appsはオンプレミスとプライベート、パブリッククラウド環境での運用に対応します。オラクルは今回新たにパブリッククラウドである「Oracle Public Cloud」を発表しました。Oracle Public Cloudでは、Fusion AppsのCRMアプリケーション「Fusion CRM」と、人事管理アプリケーション「Fusion HCM」がSaaS(Software as a Service)で提供されます。財務会計アプリケーション「Fusion Financials」の提供も検討されています。これらは月額課金などのサブスクリプションベースで提供され、ユーザー企業はハードウェアやライセンス、運用管理コストの負担が不要です。
クラウドERPは、プライベートクラウドでのサービス提供だけでなく、パブリッククラウドを使ったSaaS型の提供も増えています。プライベートクラウドは自社だけの環境でカスタマイズしたERPを利用できるというメリットがありますが、初期導入費用やライセンスコストなどが掛かり、これまでのERP運用とコストはあまり変わりません。
対して、パブリッククラウドを使ったERPはライセンスやハードウェアの購入が不要で、企業はコスト低減を期待できます。パブリッククラウドではカスタマイズが難しいといわれますが、Oracle Public Cloudはデータベース機能やJavaのプラットフォームを提供するPaaS(Platform as a Service)のレイヤーを持ちます。このPaaSレイヤーで開発したアプリケーションは、SaaSとして提供するFusion CRM、HCMの拡張機能として動作させることが可能です。これによってSaaSであってもERPに柔軟性を持たせることができるとオラクルは説明をしています。
Fusion Appsのコードはオンプレミス版、プライベート、パブリッククラウド版とも同一で、企業は自社の成長戦略に合わせてプラットフォームを選択できます。ユーザー企業にとってクラウドERPの選択肢は今後、さらに増えるでしょう。選択する上では、初期導入に掛かるコストや運用管理のコストの他、自社が成長したり、海外進出した場合の対応、拡張性を調べることが重要になるでしょう。
ERPを使った分析に対応
もう1つのキーワードは「包括性」です。ERPは財務会計や人事管理など単体のアプリケーションだけを導入しても高い効果は得られません。データ構造などが異なる別のアプリケーションが残ることで、業務プロセスが分断され、効率性が上がらないからです。Fusion Appsは以下の7つのアプリケーションを用意しています。モジュールは100以上です。もちろん、これらのアプリケーションをビッグバンで一括導入するのは現実的ではありませんが、既存システムを単一のERPに順次移行させることで、システムや業務プロセスをシンプルにできるという効果があります。
BI(ビジネスインテリジェンス)をERPに組み込むというFusion Appsの方向も包括性追求の1つです。ここ数年、オラクルをはじめ、SAPなど大手のERPベンダーはBIベンダーを買収し、ERPに分析機能を付加してきました。ビジネスの今後を見通すことが難しくなり、業務と同時に将来を予測する分析が重要になってきたからです。しかし、加えられたBI機能はあくまでも別アプリケーションとして提供されているケースが多く、ERPと一体ではありませんでした。Fusion Appsではこの課題を解決し、「オペレーション画面と分析画面を統合しました」(安井氏)。Fusion AppsのBI機能は経営ダッシュボードの他、多次元計算、リアルタイム最適化などの機能を持ちます。
ERPへのBI機能の組み込みは海外ベンダーが先行して行っています。しかし、震災や急速な円高など日本企業を取り巻く環境の不透明感も増してきています。先を見通すBI機能は、ERPにおいて必須になるかもしれません。
スマートデバイスで「ユーザー体験」向上
最後のキーワードは「使いやすさ」です。ERPはこれまで財務経理や人事など特定の部署のスタッフだけが使うケースが多く、全てのスタッフにとって使いやすいアプリケーションではありませんでした。しかし、業務のIT化が進展して社内でERPを使う人が多くなったことで、使いやすさが重要になってきました。オラクルだけではなく、他のERPベンダーも最近はERPの「ユーザーエクスペリエンス」(ユーザー体験)に注目しています。
Fusion Appsでは、ERPを利用するスタッフの社内での役割に応じて、ERP画面のレイアウトが変化したり、表示される情報が変化する「ロールベース」の考えを採用し、使い勝手の向上を図っています。ERPの操作性への評価はそのユーザーの業務や使う頻度によっても大きく変わります。ERPを選択する際はどのようなユーザーが使うかを想定することが重要になるでしょう。
もう1つの使いやすさは、スマートフォンなどモバイルへの標準対応です。限られた機能だけを使えるようにしたのではなく、外出先などどこからでもERPの機能を使えるようにしました。加えて、ソーシャル機能も強化しました。ソーシャル機能もERPベンダーの間でトレンドになっている機能です。オラクルは「Oracle Social Network」という機能をOracle OpenWorldで発表しました。この機能はFusion Appsに組み込まれています。FacebookやTwitterのように別のスタッフの活動履歴をリアルタイムに確認できる機能や、共同作業を行うためのスペースなどが用意されるようです。
ERPのモバイル、ソーシャル対応についての記事
Fusion AppsからはERPを「安くて使いやすい」存在にしようとするベンダーの意思が伝わってきます。Fusion Appsは北米中心に既に100社以上が早期導入し、テストをしています。オラクルをはじめ、次世代ERPの開発を急ぐ各社は、「高くて使いにくい」というERPのイメージを刷新することができるでしょうか。
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