「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション サミット 2015」リポート
業務部門の“勝手IT”をポジティブに捉えよ――アプリ視点で見る企業ITの変化
エンドユーザーが、ITインフラのことを全く気にせずに使いたいアプリケーションをすぐに使え、必要があれば連係できる――そんな世界を目指して、企業のアプリケーション統合が変わろうとしている。
業務を遂行したいエンドユーザーが、ITインフラのことを全く気にせずに使いたいアプリケーションをすぐに使え、必要があればアプリケーション同士を連係できる――将来的にクラウドコンピューティングで実現するのはまさにそのような世界だ。
本稿では、2015年3月10日に開催された「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション & アーキテクチャ サミット 2015」から、講演「市民統合者向けサービス、API、iPaaS:クラウド・サービス統合の課題を解決する」の模様をリポートする。
現在、「企業で利用しているクラウドアプリケーションはスパゲッティ状態でつながっており、IT部門の制御がきかない状態になっている(図1)」と語るのはガートナー リサーチ バイス プレジデント兼ガートナー フェロー、イェフィム・ナティス氏だ。「例えば営業部門は、米Salesforce.comの『Sales Cloud』や『Force.com』を利用しつつ、『Gmail』と連係して新規顧客リストを利用したいと考えるだろう。また、マーケティング部門は(米Aprimoの統合マーケティングソフトウェア)『Aprimo Marketing Studio』をモバイルデバイスからも活用したいと考えるのではないか。Oracle DatabaseはSAP ERPソリューションと連係し、SAP ERPは『Amazon Web Services』(AWS)と連係する――このスパゲッティの輪の中には、『Facebook』や『LinkedIn』のようなソーシャルサービスも介在する」
今や、企業内のあらゆるシステムが世界中のエンドポイントデバイス/アプリケーションとつながっている。営業部門やマーケティング部門といったエンドユーザーは、クラウドアプリケーションを使う目的や必要なスキルがそれぞれ異なり、お互いがアプリケーション連係について調整することはない。ナティス氏は、このような状態は、遅かれ早かれ問題になると注意を促す。「エンドユーザーは、何か不具合が発生したり、新たなクラウドアプリケーション連係のニーズが起こった際に、IT部門に既存アプリケーションの修正を相談するだろう。しかし、時既に遅し。個々のクラウドアプリケーションは、IT部門の対処できない複雑怪奇な状態にあり、インテグレーションの問題点もよく分からないことになりかねない」
既に多くの企業では、さまざまなクラウドインフラやクラウドアプリケーションを利用している。ビジネスが1つのアプリケーションで完結することは少なく、エンドユーザーは次々にアプリケーションを連係したくなるだろう。「かつてオンプレミスでそうだったように、アプリケーション連係のニーズはクラウドでも同様に起こっている。この点においてIT部門は、どう問題を解決し秩序を見いだせるかが課題だ」とナティス氏。クラウドアプリケーションの統合は、ビジネスを担うエンドユーザーにとっても、IT部門にとっても避けられないテーマなのだ。
ガートナーでは、このクラウドアプリケーションの統合を「Cloud Service Integration」(CSI)と呼んでいる。CSIによって企業ITはどう変わるのだろうか。ナティス氏は、「アプリケーションの調達期間の短期化(時間/日単位)が実現し、エンドユーザーのニーズに迅速かつ的確に応えられるようになる」と述べる。今日でも既に、Sales Cloudや業務管理SaaS「Workday」などのアプリケーションは、IT部門ではなく業務部門によって購入されることが多い。今後、アプリケーション導入はますます業務部門主導になるだろう。
そして、企業が導入するアプリケーション自体も変化する。「企業には、比較的単純だが小さなアプリケーションが増え、統合も多数発生する。オンプレミスのプラットフォームで主役だった独SAP、米Oracle、米IBMといった複雑で高度、使いにくい、パワフル過ぎるベンダーのアプリケーションとは異なる世界だ」(ナティス氏)
CSIの世界では、アプリケーションは高度である必要がなく、低コストで開始でき、短期で習得可能なものがうける。一方、課題となるのは「アプリケーションの監視、管理、ガバナンス」だという。
4つのCSIプラットフォーム
では、CSIを実現するプラットフォームとは具体的にどのようなものなのか。ナティス氏によれば、CSIのプラットフォームの種類には大きく4段階あるという。
1つは、オンプレミスの統合プラットフォーム(クラウドtoグラウンド)だ。SAPや米InforやOracleといったベンダーのオンプレミスのアプリケーションと、Salesforce.comやWorkdayといったベンダーのクラウドプリケーションの統合である。このパターンでは、オンプレミスのアプリケーションの方が多く、SaaS/クラウドAPIはほとんどない。QoS(Quality of Service)要件が非常に厳しく統合は複雑だ。その代わり、価値実現までの時間はそれほど重大ではない。統合の技術には、ESB(Enterprise Service Bus)」、ETL(Extract/Transform/Load)、統合アプライアンスが用いられる。
2つ目はiPaaS(インテグレーションPaaS、クラウドtoクラウド)である。今、統合すべきアプリケーションはほとんど、クラウド上で動作するアプリケーションだ。企業で利用するITには、オンプレミスのアプリケーションが少なく、SaaSやPaaS、クラウドAPIの方が多い。価値実現までに求められる時間は短いが、統合の複雑さやQoSは中程度である。
3つ目はiSaaS(インテグレーションSaaS、クラウドtoクラウドtoモバイル)である。オンプレミスのアプリケーションがなく、SaaSやクラウドAPIがほとんどを占める状態だ。QoSやセキュリティ要件はそれほど高くないが、価値実現までに求められる時間が極めて短いのが特徴だ。GmailやLinkedinなど単純なサービスが多い。統合にはコーディングが不要で、そのためエンドユーザーによる統合を許可し、実現している。問題はガバナンスやトラッキングのコストだ。
4つ目はハイブリッド統合プラットフォーム(HIP)である。上記3パターンを統合した形だ。ほとんどの企業は既にオンプレミスのアプリケーションに関しては統合し、この形に近づいてきているだろう。
ナティス氏は、クラウドアプリケーションが企業のアプリケーション利用の幅を広げることを踏まえつつ、現実にはCSIが単純ではないことにも言及している。「CSIではAPI連係が全てだ。ただし、APIは単なるドアにすぎない。アプリケーションを統合するときには共通言語を使い、APIゲートウェイの裏側ではたくさんの処理を書かなければならない。また、複数のソースを継続的に統合していかなければつながらない」と指摘する。当然ながら、アプリケーションによってビジネスロジックは異なる。JDBC(Java database connectivity)やJMS(Java Message Service)といったAPIで連係するケースもあれば、SOAP(Simple Object Access Protocol)を使用するケースもある。ビジネスロジックを超えてアプリケーションを統合する方法はさまざまであるということだ。
なお、オンプレミス/クラウドアプリケーションやPaaSを統合するためのコネクタとテンプレートを提供するiPaaSベンダーも存在する。代表的なベンダーには米Informatica、米MuleSoft、米TIBCO Softwareなどがある。
IT予算がIT部門から業務部門に流れてきているといわれる現在、場合によっては、業務部門がIT部門に頼らずアプリケーションを開発、利用してしまうケースも見受けられる。「業務部門によるアプリケーション開発を昔は『シャドーIT』と非難してきたが、今はビジネスのイノベーションのパワーになっているとポジティブな認識に改めなければならない。IT部門は妨げてはならない」とナティス氏は提言する。また、「もうIT部門は、組織のITの全てをコントロールしようとせず、独自の選択をする業務部門にアドバイスをする役割に変わらなければならない。IT部門が全てを自前で作りコントロールするのは、一部の大規模で複雑なプロジェクトに限られるだろう」と付け加えた。今後、企業のIT導入がエンドユーザー主導に変わっていけば、IT部門の役割は自ずとコーディネーターにならざるを得ないということだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品レビュー
「電子帳簿保存法対応」実践術:タイムスタンプ付与などの要件の手軽な実現方法 -
事例
「大企業のデジタル化」成功事例集【コクヨ、九州電力、ヨネックスなど21社】 -
製品資料
“顧客管理の課題”を簡単に解決する方法とは? -
製品資料
契約管理の“あるある課題”をノーコード開発で解決するためのポイント -
製品資料
揺らぐ境界防御 いま企業が特に警戒すべき「3つのセキュリティ課題」とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
2
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
3
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
4
継続利用は4割どまり M365 Copilotが「効く業務」と期待外れの境界
-
5
画面をティッシュで拭くのはNG Dellが推奨するPCの正しいお手入れ方法
-
6
メインフレームは死なず AI活用で20年来の高収益をたたき出す基幹システムの底力
-
7
「法人PCの導入」に関するアンケート
-
8
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
9
「GitHub Copilot」3000人に配布も基本機能しか使われない 保険大手が得た教訓
-
10
業務引き継ぎで困ったこと 大企業200人調査で判明した課題の第1位は
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
4
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
-
8
AIエージェントで成果は出る? 調査結果に見る費用対効果の実態
-
9
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
10
ゼロトラストにおける「IDaaSの課題」と補完すべき重要機能とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー