主要ベンダーが相次いで発表するオールフラッシュストレージ製品。次のストレージ環境として、オールフラッシュストレージ製品がどれくらい有力な選択肢となるのかを市場調査の結果を踏まえて考察する。
現在、SSD(ソリッドステートドライブ)をはじめフラッシュメモリを活用するストレージ製品が市場に多く登場している。特にデータの永続的な保存先となるプライマリストレージとして、ディスク容量の全てをフラッシュメモリでまかなう「オールフラッシュストレージ(AFS)製品」が相次いで発表されている。
AFSでは、従来のHDD搭載ストレージと比べてデータの読み込み・書き込み処理を高速化できる。また高速化に際して、従来必要とされるアプリケーションやデータベース(DB)のチューニングが不要になるというメリットもある。一方、「書き込み回数の上限」「HDDとの容量単価の差」などの問題も指摘されている。
そんな中、テクノ・システム・リサーチ(以下、TSR)は2015年2月、オールフラッシュストレージ市場に関する調査リポート「主要メーカーのAll Flashストレージ展開戦略」を発表した。同リポートでは、AFS製品を提供する主要ベンダー5社、HDD/SSD混在のハイブリッド型ストレージ製品やHDD搭載ストレージ製品を提供するベンダー13社に対するヒアリングやアンケート調査の結果を紹介している。また、ワールドワイド/日本国内のストレージ市場全体におけるAFS市場の位置付けやHDD搭載ストレージとのコスト比較、AFSを基盤に採用するアプリケーションの種類などをまとめている。
本稿では、調査リポートの概要とともに調査を実施したTSRのシニアアナリスト 幕田範之氏に聞いたAFS市場の実態、今後の予測などを紹介する。ストレージ環境の次期リプレースの際、AFSはどれくらい有力な選択肢となるのかを考察する。
TSRでは、2014年のAFS国内市場は対前年比193%で増加し、2013年から2020年のCAGR(年平均成長率)は52.3%になると見込む。2022年には同市場の規模が1100億円まで成長すると予測する。
国内市場の状況について、幕田氏は「ワールドワイド市場と比べて普及率は低く、1年遅れている状況。各ベンダーが大規模企業を中心に提案している。そうしたユーザー企業の多くが『オールフラッシュストレージとは何か』『どういうメリットがあるのか』はある程度分かっている」と語る。
また、SSDを採用するコンシューマー向けノートPCのように、企業システムにSSDを導入して処理速度が向上することは、ユーザー企業が感覚的に理解できているという。「導入に当たっては具体的な検証や投資コストの見積もりがもちろん必須になるが、SSD導入の課題といわれてきた『信頼性』『導入実績』『書き込み回数の制限』などを不安視する声は減っている」との見解を示す。
ヒアリングしたあるベンダーの話では「次にストレージ製品を購入する場合、顧客企業の9割がAFSの導入や検討を行うなど、高い関心を持っている」(幕田氏)。また導入企業の多くがAFS製品の追加購入や増設を図っており、「バッチ処理の高速化、管理者の負荷軽減などの具体的なメリットを得たことで高い満足度を示している」と同氏は説明する。
従来は新興ベンダーが中心だったAFS市場。2013年ごろから大手ストレージベンダーがAFS製品を次々と発表して同市場に参入した。
幕田氏によると、その流れを作ったのが米IBMだという。「IBMがAFS注力へシフトチェンジを図ったことで、他の競合ベンダーが追従することになった」。以下のグラフは、2014年の国内AFS市場の売上金額におけるベンダーシェアだ(グラフ2)。ハイブリッド型ストレージやメインフレーム向け製品は含まれていない。
主要な大手ストレージベンダーの取り組みも分かれている。日立製作所やHP、日本オラクルはハイブリッド型を志向し、IBMや米EMCなどはオールフラッシュ志向に大別できるという。一方、2015年に入り新たなAFS製品を投入したベンダーもおり、今後も同市場の競争は激しくなることが予想される。
技術開発が進められるフラッシュストレージ関連製品は多様化している。AFSの他にも、サーバのPCI Express(PCIe)スロットに直結するサーバ内蔵型や、上述したSSD/HDD混在のハイブリッド型などのフラッシュストレージがある。今後はAFSでないとだめなのか。幕田氏は「必ずしもそうではない。業務や用途に適したストレージを選べばいい」と語る。
例えば、超高速な処理性能を求めるならば、PCIe接続のサーバ内蔵型を採用するのが現状での最適解となる。ただ、ビジネスインテリジェンス(BI)やビッグデータ分析、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)など単一アプリケーションに特化する用途に限られる。
ハイブリッド型ストレージは導入実績が増え、市場が拡大している。従来のハイブリッド型ストレージはHDDベースのコントローラー設計が多く、性能向上を図るためにSSDを追加するという使い方が主流となり、性能向上にもある程度の限界があった。「最近のハイブリッド型ストレージは、SSD前提で設計したアーキテクチャやコントローラーが主流となり、容量が欲しければHDDを追加するという考え。非常に高速に処理できる仕組みになっている」(幕田氏)
ただ、ハイブリッド型ストレージにも課題があるという。ハイブリッド型ストレージの多くが、処理能力の高いSSDと容量単価の安いHDDを組み合わせた階層型の構造を取る。SSDにデータを全て書き込み、読み書きの頻度の低いデータだけをHDDに移す手法だ。あるデータが欲しいと思ったときに、下の階層に保存されている場合はデータアクセスが遅くなることがある。
ハイブリッド型ストレージのこうした課題を踏まえると、AFSには「階層化を最適に設計・構築するための時間やコストが省ける」(幕田氏)という利点がある。その一方で、幕田氏は「ハイブリッド型ストレージと比べて、AFS製品には機能面での課題がある」と指摘する。データ保護や仮想マシン(VM)対応、マルチテナント機能など、ハイブリッド型ストレージでは利用できる機能を実装していないAFS製品もあるという。
年々価格が下がっているフラッシュストレージ。AFSとHDD搭載型ストレージの1台当たりのコストの差はどうなっているのか。幕田氏は「SSDの大容量化が進んだことで、今後2、3年でSAS接続のHDDに取って代わる可能性もある。HDDの価格と同等かより安価になるとHDDを使うメリットがほぼなくなる。AFS製品の普及が急速に進む可能性がある」と予測する。
現在、3ビット記録方式「TLC(Triple Level Cell)」やメモリセルを3次元化する「3D NAND」規格、非NAND型フラッシュメモリなどの台頭でフラッシュストレージの大容量化が進んでいる。「将来的にはSSDとHDDではなく、複数のフラッシュストレージで構成されるハイブリッド型ストレージが登場することもあり得る」(幕田氏)
幕田氏は「AFSの利用分野も拡大し、2014年後半からはプライマリストレージへの活用も進み始めた。また、VDI(仮想デスクトップ環境)/HPC用途が多かった米国では、最近はDBシステムに完全に移行している」と語る。
また、データ量の増大に伴い「バックアップ環境でも利用したい」というニーズも出てきている。さらに「障害が発生時のフェイルオーバーを考慮し、遠隔サイトでも採用される可能性もある」という。
現在、AFSの利用は大規模企業で進んでいるが、今後は中堅規模以下でも普及するとみられる。国内には保守的な企業も多いが、性能・管理面に加えてコスト面でも有利になれば、AFSへの移行が急速に拡大することも十分考えられる。
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