中堅・中小企業のための“脱Excel”ロードマップ【第4回】
中堅・中小企業ならではの「データ分析のスモールスタート」
中堅・中小企業にはさまざまなリソースの制約がある一方で、小回りが利き意思決定が速いという強みもあります。この特徴を踏まえ、データ分析プロジェクトを成功させる秘策を探ります。
連載について
「Microsoft Excel」(以下、Excel)は、ビジネスにおいてなくてはならないソフトウェアとして、あらゆるビジネスシーンで長年広く利用されています。一方で、Excelがあまりにも普及してしまった“副作用”が少なからず見られます。ビッグデータブーム以降、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールがデータ分析ツールとして再び注目を集めましたが、いざ導入しようとすると現場の反対を受け、思うように導入が進まないといった問題も見受けられるようになりました。
「なぜ、ビジネスの現場でExcelの利用がやめられないか」――本連載では、その理由を検証し、どのようなプロセスでBIツールの導入を進めていくべきかについて解説していきます。
データ分析は何のためにするのか
数年前からデータ分析の分野では、ビッグデータや人工知能(AI)といったキーワードに関連する記事が相次いでいます。これらの記事で紹介されるデータ分析手法は、高度な統計解析手法や膨大なデータを利用していることが多く、先進的な事例として非常に魅力的です。ただし大企業と比較してさまざまなリソースの制約がある中堅・中小企業では、このようなデータ分析の導入は難しいのではないか、と考えてしまうかもしれません。
ですが、データ分析は、最新の手法だからいいというものでもありません。企業におけるデータ分析は、データ分析によって得られた結果を基に施策を立案し、会社の利益に結び付けられるように実践していくことで、初めて意味があるものとなるからです。
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分析手法を決める要因はデータだけではない
例えば社内にある顧客ごとの売り上げデータをデータ分析によって分類し、その分類に合った施策を立案したいというニーズがあるとします。このような場合のデータ分析手法には、「デシル分析」「RFM分析」などが考えられます。デシル分析は、累積購買金額の多い順に顧客データを10等分に分ける分析手法です。RFM分析は、R(Recency:最終購買日)、F(Frequency:購買頻度)、M(Monetary:累積購買金額)の3つの軸で分類する手法です。では、これらの手法で分析を行えばいいかというと、そう拙速には決めてはいけません。少なくとも以下のことについては確認しておく必要があります。
- 他に利用できるデータがあるかどうか
- データ量や施策の予算に対して分類数は適切かどうか
- 利用する側が分析結果を理解できるかどうか
「1.他に利用できるデータがあるかどうか」を確認する理由は、データ分析手法の選択肢が広がる可能性があるからです。例えば、顧客ごとの売り上げデータがあるということであれば、年齢や性別といった顧客の属性データも存在する可能性が高いはずです。もし属性データがあれば、統計的分類手法である「クラスタリング分析」が利用できるかもしれません。また顧客ごとの売り上げデータがあるということは、顧客がどのような商品を購入したか分かる明細データもある可能性が高いでしょう。この場合、どの商品とどの商品が一緒に購買されているかを分析する「バスケット分析」が可能になります。バスケット分析をすることで、顧客データを分類した後に、その分類において、顧客がどのような商品を一緒に購買しているかを知ることができ、施策立案に役立てることができるでしょう。
「2.データ量や施策の予算に対して分類数は適切かどうか」について検討する理由は明白です。もし顧客データが数百程度しかない場合に、デシル分析で10等分に分けることは、明らかに細かく分け過ぎです。一方で顧客データが大量にある場合は、分類数の制約より分類後の施策にどれだけ予算を投入できるかが分類数の決定に影響を与えてきます。例えば、分類した顧客に対して、郵便物を送る、ファクシミリ(FAX)を送る、電話をかけるなどの施策を検討している場合、一件一件の単価はさほど高いものではありませんが、対象が数十万件ともなれば、それらのコストや使用する社内のリソースは相当なものになります。このような場合は、施策の予算で対応できる分のデータを抽出できるように分類数を調整することになります。
「3.利用する側が分析結果を理解できるかどうか」は、特に難しい問題かもしれません。データ分析の担当者と施策を実行する担当者が別の場合、データ分析の担当者は、分析手法の概要を施策実行担当者に説明する必要があります。しかし施策実行担当者のデータ分析手法に関する知識があまり深くない場合、高度な分析手法は、施策実行担当者に分析結果を納得してもらえず、スムーズに施策実行段階に移行できないことがありえるからです。デシル分析やRFM分析であれば、分類方法が簡易であるため、施策実行担当者に理解してもらうことはそれほど困難ではありません。一方で統計的な手法を用いるクラスタリング分析やバスケット分析は、分析の過程がブラックボックス化してしまうため、施策実行担当者側にそれなりの統計知識がないと、なぜそのような分類になったかを理解してもらうことは困難です。
このように、データ分析手法を決定するためには、データ以外の要因も考慮することが必要だと分かります。中堅・中小企業であればなおさら、施策に使うことができる予算が限られている、データ分析手法に詳しい従業員がいないなどの制約が、データ分析を実践するときの課題となります。
スモールスタートでデータ分析の経験値を上げることが実践の近道
では、施策に当てられる予算も限定的で、データ分析手法に詳しい従業員がいない中堅・中小企業は、どのようにデータ分析を実践していけばいいのでしょうか。前述したようにデータ分析手法を決定するためには、さまざまな要因を考慮しなければならないため、数学のように1つの正解があるわけではありません。そのため、選んだデータ分析手法で本当に大丈夫かどうか、不安を抱きながら施策を実行することになります。実行した結果、成果がでれば、自信につながりますが、成果が思わしくなければデータ分析手法が問題視されることになり、データ分析自体が不要だという結論に陥ってしまうことにもなりかねません。
こうした事態を避けるためには、いきなり全てのデータを利用したデータ分析はせずに、ランダムサンプリング(無作為のサンプル抽出)を行い、小さく実行することが効果的です。例えば1万件の顧客データがあった場合、1000件程度のデータを抽出し、データ分析を行い、分類結果に応じて顧客にメールまたは郵便物を送る施策を決定したとします。その場合、たとえその施策の成果が思わしくなくても、コストや顧客イメージ悪化といった影響を少なく留めることができます。
データ分析手法を決定する際も、データ分析手法の中から1つを選ぶのではなく、複数の分析手法の結果を試してみるといったこともできるでしょう。ランダムサンプリングによって抽出したデータは、全体のデータと近しい分布と推定することができるため、複数のデータ分析の結果に基づく施策のうち、より成果が高かった施策を残りの顧客にも適用することで、失敗のリスクを軽減することが可能になります。
このようにスモールスタートで始めることは、データ分析で手痛い失敗をしないために非常に有効な方法です。データ分析の経験値を社内で蓄積するスピードも高めることもできますので、社内で人材が順調に育っていけば、最新のデータ分析手法にチャレンジすることも可能になるでしょう。
中堅・中小企業は、リソースの制約がある一方で、小回りがききやすく、意思決定のスピードも早いといった利点があります。データ分析についても、小さく、スピード感を持って実践していくことが重要です。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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中堅・中小企業のための“脱Excel”ロードマップ
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