人事部で機械学習のできることとは
機械学習で変わる従業員教育 DellとIBMはどう活用しているか
企業は、個人に合った従業員教育カリキュラムを用意する必要がある。本稿では、従業員の技術スキルや対人スキルを向上させるための教育、キャリアプランのアドバイスに、機械学習などのAI技術がどのように役立つかを解説する。
「企業が従業員のスキル向上を重視しなければ、従業員は新しい課題に適応し新しいチャンスを最大限に生かす準備を整えることができない」と話すのは、人材サービス企業Randstad North Americaで人事部門の最高責任者を務めるジム・リンク氏だ。「そうした企業は最終的に、イノベーションのチャンスを逃すことになる」
スキル不足に直面する企業が増え、雇用市場が激化するにつれ、企業や人事部にとって、従業員に新しいスキルを習得させることの重要性は日に日に高まっている。従業員のスキル向上にはさまざまなアプローチが考えられ、テクノロジー面でいえば人工知能(AI)技術と、AI技術の1つである機械学習を活用できる。AI技術で実現する可能性があるのが、絶えず変化する職場、そして「素早く仕事する職場」に従業員がより迅速に適応できるようにする人材育成プログラムだ。
学習と能力開発に関するコンサルティング企業Owl's Ledgeの創設者トリッシュ・ウール氏によると、機械学習のユースケースは多岐にわたるという。
データ分析で最適なトレーニングを見つけられる
例えば「教育コンテンツ作成の強化」「視覚的、聴覚的なフィードバックの提供」「より優れたレコメンデーションエンジンの開発」「素早い教育カリキュラム設計の実現」「個人に合わせたパフォーマンスコーチング」などがある。
IBMで人材育成のグローバルパートナーを務めるジェームス・クック氏は次のように話す。「AIが自ら理解・学習するコグニティブテクノロジーのメリットは、膨大な数のデータを高速かつ高精度に処理して、従業員の現在の経歴に適合するトレーニングコースを見つけられることだ。人事が多くの業界でデジタルトランスフォーメーションを推進する、かつてないほどのチャンスがある」
今後、従業員のスキル向上に機械学習が使用されるようになるのは間違いない。しかし、現在はまだ初期段階にある。スキル向上のための取り組みにつながる有効な指標を見極めることが重要だ。サードパーティー製のツールを使えば素早く簡単に実験できる。機械学習は長い目で見れば、従業員の技術スキルだけでなく対人スキルの向上にも役立つ可能性がある。
初歩的なAI技術を使った従業員のスキル向上
人材育成戦略の一環としてAIを使用するというアプローチは比較的新しい。そう話すのは、Dellで学習と能力開発プログラムのマネジャーを務めるブルース・クロンキスト氏だ。2017年の終わりまで、同社が従業員トレーニングの指針を示すために使ったのは、簡単な分析のみだった。従業員のトレーニング計画の提案にAIを使用するEdCastの「EdCast」プラットフォームを導入したのは最近のことだ。
AIと機械学習は、スキル向上のためのシステムが特定の課題を超えて提案できるようにする。これによりシステムは、トレーニング中の同僚や興味関心の似ている従業員を分析できるようになる。クロンキスト氏によると、このプログラムの成功を評価するのは時期尚早だが、クロンキスト氏が話を聞いた企業は良好な結果を報告しているという。
従業員のスキル向上を成功させるのに必要な指標
より優れた従業員教育プラットフォームの構築に欠かせないことの1つは、重要な指標を見極めることだ。人事担当者は自分の考えの下にプロジェクトを開始するかもしれないが、他の関係者の意見を聞くことが重要だ。「重要になりそうな指標をリストアップしたら、その中でどれを収集すべきか判断する。判断基準は、関係者にとって重要な課題を改善できる可能性があるかどうかだ」とクロンキスト氏は語る。
これらの指標をすぐには集められない場合、簡単に収集できる方法を探すことが重要だ。例えばクロンキスト氏は、新人研修を改善する任務を課せられたとき「エンジニアリングにおけるリーダーシップ」が真に意味するものは何かを考える必要があった。満足度の向上やプロセスの高速化と考えることもできたが、同氏は生産性を素早く高めるためにソフトウェア開発マネジャーが新規採用者に求めていることを、精度の高いQ&Aプロセスを用いて判断した。
このデータはDellの既存のレポートには存在していなかったため、同氏はプロジェクトの開始から、運用アプリケーションへのコードの実装に至るまで指標を集め続けた。データは、優れたスキル向上プロセスの試行前から試行後まで、1年をかけて収集した。Dellはこれらの指標を従業員教育の指針として使用した。結果、新入社員の研修を開始し、開発チームの共有コードデータベースを操作するようになるまでの時間が50日から8日に短縮された。また、実稼働コードを運用環境に初めて実装するまでの時間も100日から37日に減少した。
スキル向上の実験に使える商用の機械学習ツール
企業が従業員のスキル向上にAIと機械学習を使用する場合、独自のツールを開発することも、サードパーティーのソフトウェアを購入することも可能だ。Dellの決断は、素早く試すためにサードパーティーのベンダーを活用することだった。例えば、同社とクロンキスト氏が試しに使っているあるソフトウェアは、昇進を希望する教育サービス部署の従業員に不足しているスキルを機械学習によって特定する。
クロンキスト氏は、「この試みは大きなプロジェクトになろうとしている。今は、あらゆる仕事のあらゆるレベルで必要なスキルを特定し、その後これらのスキルを検証して何らかの評価を作成する過程にあるためだ」と語っている。サードパーティー製ツールの何らかのトレーニングがWebサイトで受講可能な場合など、従業員に不足しているスキルを簡単に埋められることもある。しかし、いつもそうではない。Dellは既に教育サービスチームにこのソフトウェアを展開し始めており、バグを解決したら社内全体に提供することを予定している。
IBMなど、従業員のスキル向上に商用AIツールを適応させようとしている企業もある。例えばコグニティブテクノロジーを使ったキャリアガイダンスによる、従業員エンゲージメントの促進を目的としているのがIBMの「IBM Watson Career Coach」だ。Watson Career Coachは、従業員それぞれに合った次のキャリアステップを提案する。提案では、従業員に合いそうな職務の選択肢が複数示されることもある。また各選択肢に対し、組織のニーズやスキルの一致に基づいた評価が提供される。
Watson Career Coachは、従業員個人に合ったキャリア成長パスを準備し、関連するスキルの向上についてアドバイスする。ユーザーは、ニーズや個人の意思の変化に応じて、選択したキャリアプランを自分のペースで変えることができる。
従業員の対人スキル向上に対する新たなアプローチ
「AIは多くのタスクに有用だが、人間の創造性や、心の知能指数、複雑なコミュニケーションを再現することは決してできない」とRandstad North Americaのリンク氏は話す。従業員のスキル向上のためには、戦略的かつ抽象的な考え方、リーダーシップ、問題解決、コミュニケーションのスキルなど、AIが保持していないスキルに特化する必要があると同氏は確信している。「興味深いことに、これらは若年層の従業員が最も磨きをかけたいと考えている種類のスキルでもある」と同氏は述べる。
AIは対人スキルに置き換わることはできないが、このスキルの強化には役立つ可能性がある。
「AIと機械学習により、人事担当者が指標と指標を結んで全体像を明らかにすることが容易になる。これにより、常習欠勤を減らして従業員エンゲージメントを強化するなどの課題に対処できる」とウール氏は語る。鍵は、こうした対人スキルを評価する職場環境分析ツールを使用すること、そしてAIと機械学習によってある程度万能な貢献者へと従業員を育てるトレーニングアプローチを見極めることだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社マクニカ] アイカ工業に学ぶ脆弱性対策 情シスが把握できずにいたアセットも正確に把握 -
製品資料
[株式会社マクニカ] 「脆弱性総まとめ」解説 被害事例から考える必須の対策ポイント -
製品資料
[Splunk Services Japan合同会社] サイバー脅威「トップ50」完全解説ガイド、新たな攻撃手法に対抗するには -
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」完全ガイドブック:メリットから資格取得のポイントまで -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] はじめての「自治体/官公庁入札」 必要な知識がすぐに学べる入門ガイド
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
2
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
3
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
4
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
-
5
AI基盤は本当に「オンプレ回帰」する? Broadcomの言い分と企業の本音
-
6
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
-
7
「攻撃側にナイフ、防御側にパン」 OpenAIの10億ドル支援に潜む危うさ
-
8
「世界一給与にハングリー」な日本のエンジニアが“雇用の安定”を求める理由
-
9
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
10
「Linuxサーバの長期運用とRed Hat Enterprise Linux」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
8
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
9
Macの安全神話は崩壊? 最新の脅威動向から見えた攻撃のトレンドと有効な対策
-
10
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー