収益増をどうやって成し遂げたのか
Amazonには貢がない――小売大手がAWSではなく「Google Cloud」を選んだ理由
小売大手のKrogerにとって、同社の顧客が利用する検索エンジンのシステムを「Google Cloud Platform」に移行させることは簡単ではなかった。迅速にこれを成し遂げられたのは正しい計画と適切な人材があったからだ。
小売チェーン店を展開するKrogerは、同社のWebサイトとモバイルアプリケーションの検索エンジンをオンプレミスから「Google Cloud Platform」(GCP)へ移行した。GCPへの移行とともに、同社はインターネットショッピングを含むデジタルビジネスの収益増を狙っていた。
Krogerはこれまで、さまざまなオープンソースのテクノロジーを駆使して、オンプレミスで検索エンジンを運用していたという。使用していたのは統合開発環境「Spring Tool Suite」、ビッグデータ処理ツール「Apache Kafka」、検索システム「Apache Solr」、分散データベース管理システム「Apache Cassandra」などだ。2019年4月初旬に開催されたGoogleの年次カンファレンス「Google Cloud Next '19」の講演で、Krogerのエンジニアリングマネジャーを務めるジェフ・ヘクト氏が説明した。
米国最大手のスーパーマーケットチェーンであるKrogerは、2018年度の売上高が1212億ドルに上る。同社が展開する約2800店舗には、一日に約1400万人が足を運ぶ。Krogerの検索エンジンは、こうした顧客のショッピングを支援するだけでなく、顧客の行動履歴を基にした貴重な洞察を生み出している。その洞察が、同社の製品需要予測につながる。
KrogerがGCPへの移行で狙ったもの
店舗に出向くよりもオンラインで商品を購入する顧客の傾向が目立ってきている。こうした傾向に伴い、2019年の同社のデジタルビジネスにおける年間売上高のランレート(過去の傾向を元にした需要予測)は、2018年比で58%増加し、50億ドルを超えた。2019年はこのデジタルビジネスの収益が90億ドルに達すると同社は予測している。この成長の勢いを保つためには、検索エンジンを改善し、進化させ続けなければならないと同社は判断した。
「当社にとっての大きな問題は、『リフト&シフト』方式で既存の運用環境をそのままクラウドに移行するか、それとも検索エンジンの基盤をこれまでと全く異なる構成にするかという点だった」(ヘクト氏)
クラウド移行プロジェクトに着手する方法も問題だった。同社の社内スタッフにはクラウド導入プロジェクトの経験を持つ人材がほとんどいなかった。クラウド移行中でも既存の検索エンジンの運用を続ける必要があった。最終的には、社内エンジニア7人、Googleのエンジニア6人、パートナーであるSpringMLのエンジニア5人によるプロジェクトチームを結成した。
このチームが、検索エンジンのクラウド移行プロジェクトの一環として、クラウドのレファレンスアーキテクチャを設計した。ヘクト氏によれば、スピードと柔軟性を重視した結果、コードでインフラを構築するIaC(infrastructure as code)によって設計したという。
KrogerのエンジニアはGCPへのクラウド移行に伴い、新しいテクノロジーを学習する必要があった。「クラウドのネットワークアーキテクチャは難しい。自社のデータセンターを利用することに慣れている場合はなおさらだ」とヘクト氏は話す。
コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」のマネージドサービス「Google Kubernetes Engine」(GKE)をオンプレミスとGCPの双方で運用し、コンテナを両環境にデプロイ(配備)するため、同社は「Blue-Green Deployment」という手法を採用した。Blue-Green Deploymentは、同一の運用環境を2つ用意して並列にし、一方をアイドル(使用されていない)状態にして運用する方法だ。このアイドル状態の環境をテスト環境として使い、更新したり変更したりする。テストを完了したら、アイドル環境を本番環境に切り替え、もう一方をアイドル状態にする。
ヘクト氏は、講演の聴講者に対して次のような一般的なヒントを示した。「クラウド移行プロジェクトを検討している段階では、当たり前のことも検討しておく必要がある」
クラウド移行のために、Krogerは既存の検索エンジンを全て作成し直した。にもかかわらず、最終的には半年もかけずにGCPの環境構築を完了した。今、検索速度は従来の8倍になり、基盤となるITインフラのリソースは、従来のオンプレミス環境よりも小さくなっている。
AWSではなくGCPを選んだ小売ならではの理由
Krogerが選んだクラウドは「Amazon Web Services」(AWS)ではなくGCPだった。その理由はシンプルで、クラウドにリソースを配置しようとする小売企業に共通したものだ。「競争相手の懐を潤したいとは思わない」とヘクト氏は話す。AWSの親会社であるAmazon.comの小売事業は、Krogerのオンライン事業とも、実店舗事業とも競合する。Amazon.comは、実店舗を展開する自然食スーパーチェーン「Whole Foods Market」を傘下に収めている。
ただしKrogerが利用しているクラウドはGCPだけではない。同社は最近、Microsoftと共同開発パートナーとして契約を結んだ。Microsoftのクラウド「Microsoft Azure」で小売システムを構築することが目的だ。クラウド形式のIoT(モノのインターネット)プラットフォーム「Azure IoT」を使って、インターネット接続型の新たな顧客体験を生み出すことも狙う。
「Googleの検索エンジンは評判が良かったため、Krogerがクラウド移行プロジェクトでGCPを選んだのは自然の流れだった」と同氏は言う。
検索の世界で扱う問題は、検索ワードの使用頻度や検索結果の表示順序といったものから、データサイエンスへと移行している。検索の価値はこうした流れとともに高まっている。
「顧客に提示する商品の検索結果は、なかなか期待通りにならない。顧客に対する検索結果を改善するには、機械学習をはじめとするAI(人工知能)技術など、さまざまな要素を理解し、取り入れる必要がある。これはGoogleの得意分野だ」とヘクト氏は語る。
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