GoogleはAnthosで何を目指しているのか。Googleの技術インフラ担当シニアバイスプレジデント、ヘルツル氏に話を聞いた。
クラウド向けLinuxと称されるGoogleのマルチクラウド管理プラットフォーム「Anthos」は、企業のアプリケーション管理を容易にする。管理対象のアプリケーションは、別のパブリッククラウドサービスで運用されていても、オンプレミスで運用されていても構わない。
以前「Cloud Services Platform」と呼ばれていたAnthosは、「Istio」や「Kubernetes」などのオープンソース技術をマネージドクラウドテクノロジースタックに持ち込む。
英Computer WeeklyはGoogleで技術インフラ担当シニアバイスプレジデントを務めるウルス・ヘルツル氏に独占インタビューを行い、Anthosを支える原理、Linuxとの類似点、そしてクラウドの未来について話を聞いた。
ウルス・ヘルツル氏(以下、ヘルツル氏):当社は、Anthosをソフトウェアスタックが進化したものと見ている。
物事が根本的に変わったのは、Linux、Windows Server、Java、イーサネット、World Wide Webが登場した1990年代半ばだった。こうしたものが一体となり、新たな方法でITを後押しした。
当時、2つのスタックが登場した。一つがLAMPスタック、もう一つがWindows Serverを中心とするスタックだ。こうしたスタックは単一ノードに重点を置く。これに対して、クラウドはそこに含まれるサービスを管理するシステムの海のようなものだ。
現状では、クラウド向けの共通スタックはない。「Amazon Web Services」も「Google Cloud Platform」もスタックではない。コンテナを起動するという単純なことが、それぞれ異なっているというのはばかげている。そのため、当社はオープンソースを通じた標準化を呼び掛けている。その試みがKubernetesだ。
Anthosの背後にあるソフトウェアエコシステムは非常に規模が大きい。サービス管理、サービス検出、セキュリティなど、20〜30の異なることが行われている。これらの大半は以前から行われていることだ。だがその方法は多岐にわたっていた。Anthosでは基盤となる環境に接続するさまざまなアダプターを使用して、オープンソースでそれを実行する方法を用意した。ユーザーは、例えばサービスを構成する方法を1つ覚えるだけになる。
私は、Anthosをクラウド向けのLinuxとよく比較する。AnthosはOSではないが、Linuxと同じ特性がある。Linuxの管理下で何を実行するかは自由だ。オープンで、品質が高く、どこでも実行できる。そうした点では、Anthosを選ぶこととLinuxを選ぶことは似ているというのが当社の提案だ。Anthosはクラウドスタックと称されるスタックの中で、史上初の真のクラウドスタックになる。Linuxの拡張とKubernetesがスタックで、全てのオープンソースシステムが適切にフィットする。
同時に、Windowsを中心に別のクラウドスタックが出現することも予想している。世の中のどこかには、組み込まれなければならないWindowsワークロードが非常にたくさんあるためだ。そうしたワークロードは恐らく、コンテナ化したWindowsを通じてAnthosに組み込まれることになるだろう。そこではGoogleが提供するセキュリティとコンプライアンスを軸にアプリケーションが実行される。
ヘルツル氏:当社がAnthosで行っていることとRed Hatが行っていることは10%しか重複しない。その大半がコンテナ管理に関係する。われわれは自然なパートナーシップを築いており、Anthosはその基盤にOpenStackまたはVMware製品を必要とする。Anthosには、ベアメタルを仮想マシン(VM)とコンテナを実行できるクラスタに変えるものが必要だ。
また、当社が提供する機能のうちオープンソースに基づくものは70%で、それらはOpenStack上で運用できる。VMwareにも同じことが言える。アプリケーションをコンテナ化することなく使えるVMを、Anthosに置き換えようとしているわけではない。
当社はパートナーと友好関係を築いており、Anthosはパートナーの業務と競合しない。例えばOpenShiftはプラットフォーム上にあるものを自動更新することはないが、当社にはないアプリケーションを備えている。
当社が保証することの一つにシステム間の移植性がある。似ているように見えるが、その理由は単にオープンソースが本質的に移植可能なためだ。
ヘルツル氏:全てを実演する時間がなかったが、単なるリフト&シフトではない。実際にはアプリケーションの近代化またはコンテナ化だ。このデモは「GKE On-Prem」(オンプレミス版GKE)と連携する。つまり、オンプレミスのVMをコンテナ化してオンプレミスのまま維持することができる。Anthosエコシステムの中に組み込んで、構成とサービスグラフの表示を行えるようにする。
Anthosを実行している場所ならどこでも移行を可能にするというのが、Anthos Migrateの能力だ。重要なのは、移行中かどうかにかかわらずアプリケーションを近代化し、セキュリティのメリットと共にコンテナエコシステムに移行することだ。
コンテナアプリケーションを運用する場所はユーザー次第だ。VMの移行先はクラウドではない。Anthosが管理するクラウドだ。Anthos Migrateは近代化を行うツールで、本質的には移行ツールではない。Anthosでの標準化は移行ではなく近代化だ。
ヘルツル氏:当社にとってコンテナとは、リリースメカニズムにおけるサービス管理とサービスのバンドル化を意味する。ワークロードを中心に非常に強力なセキュリティ境界線を張りつつ、VMごとに1つのコンテナを実行する。
将来的には、VMの境界線にサービスを導入する際に、境界線の周囲を1つのインスタンスにするのか、複数の自動スケールインスタンスにするのかという単なる構成の問題になるだろう。実装に関する考えは、それがコンテナかVMかにかかわらず変えることができる。だがそのためにコードを変更する必要はなく、変化したことは誰にも分からない。それが重要だ。
これは構成の奥深くに隠され、プログラミングモデルやサービスの検出には影響しない。コンテナとVMにはそれぞれ長所と短所があり、補い合う関係にある。どちらか一方に統一されるということはない。競合するわけではなく、どちらも必要だ。
ヘルツル氏:全てとはいえないが、ほとんどのワークロードはパブリッククラウドに移行するだろう。経済面から考えて、長い時間がかかると思われる。当面の間、当社は自然な状態でハイブリッドクラウドをサポートしようと努めている。ほとんどの大企業がハイブリッドクラウドを5〜10年は使うと考えられるためだ。
とはいえ、ミリ秒単位での応答が必要な工場制御など、一部のワークロードはオンプレミスのままだろう。クラウドでは距離が遠過ぎるためだ。とはいえ、工場内にあるという理由だけで別のプログラミング、導入、セキュリティモデルを使用する必要はない。Anthosで当社が示している答えは、ワークロードを実行する場所を変えたくなっても同じモデルを使えるということだ。
ヘルツル氏:組織の多くは学びが不十分だ。今日、最高の人材は複数の環境でトレーニングを受けている。そのため、これは大きなチャンスだ。例えばセキュリティ担当者は、オンプレミスのセキュリティだけでなく、さまざまなパブリッククラウドのセキュリティについても理解する必要がある。
このオープンソースの層にAnthosが加われば、ターゲットにするスキルは1つだけになる。もはや「HP-UX」対「Solaris」のような図式は終わった。使うのはLinuxで、長期間にわたって関わるためのトレーニングを行うのでトレーニングの投資利益率(ROI)が向上する。クラウドとオンプレミスでチームを分ける必要がないため、迅速に習得できる大きなチャンスになる。
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