2019年07月05日 08時00分 公開
特集/連載

携帯電話業界団体の研究結果「健康リスクが存在する証拠はない」5Gと健康被害【第2回】

米国機関とイタリアの研究所が、電磁波による発がんリスクを指摘。これに対し携帯電話の業界団体GSM Associationは、携帯電話放射線は人の健康に影響を及ぼさないと否定した。

[Investigate Europe,Computer Weekly]

 第1回(Computer Weekly日本語版 6月19日号掲載)では、携帯電話や電波塔が発生させる電磁放射線による健康リスクの懸念と、5Gによる影響が十分に研究されていないという問題を紹介した。

 第2回では、移動体通信事業者や関連企業からなる業界団体GSM Association(GSMA)が行った健康リスクに関する研究結果を紹介する。

科学研究は光を当てられるか

 長年にわたる科学的研究により、たとえ現時点で安全と見なされている水準であっても、携帯電話インフラから放出される電磁放射線は細胞とDNAを損傷させる可能性のあることが示されてきた。

 世界保健機関(WHO)国際がん研究機関(IARC)は2011年、EMFを「発がん性がある可能性がある」と分類した。言い換えると、EMFには潜在的に、がんを発生させる可能性があることを示す証拠があるということだ。

 だがそうした研究のほとんどは、以前の世代の携帯電話を対象としている。それ以降の研究でも過去の結果が裏付けられているものの、5Gが健康にどのような影響を及ぼすかについてはほとんど研究がなされていない。

 2018年、米国家毒性プログラムとイタリアのラマツィーニ研究所がそれぞれ独自にEMFによるがん発生の可能性について調べた結果、無線周波数放射線がラットの脳と心臓のがん発症リスクを増大させることが分かった。

 2018年12月には、通信業界が一部資金を提供しているIT'IS Foundationが、熱損傷を防ぐためには電磁放射線への暴露に関するICNIRPの安全基準を見直す必要があると勧告した。

 ただし研究者の間でさえ、依然として不確かな部分はある。英オープン大学の応用統計学教授で医療科学を専門とするケビン・マコンウェイ氏は、まだ携帯電話と健康の確固たる因果関係が示されたわけではなく、さらなる研究が必要だとして次のように指摘した。

 「最近発表された研究結果から私が暫定的に出した結論は、2011年以来、何も変わっていないということだ。さらに幾つかの研究は存在するが、研究の質はあまり高くない。その一因は研究の難しさにある。現時点では、長期間の使用、あるいはヘビーユーザーについては関係があるかもしれない、という比較的弱い証拠しかない」

携帯電話業界は安全性に自信

 英Computer Weeklyが取材を試みた携帯電話会社や機器メーカーは、携帯電話の放射線と健康への影響について、取材に応じることにも専門家にコメントさせることにも消極的だった。

 そうした取材への対応は、携帯電話会社と端末メーカー約750社やソフトウェアメーカーなどの関連企業350社が加盟している業界の利益団体GSMAが担っている。

 GSMAは、携帯電話放射線が健康に及ぼす影響を巡る一般の不安についてはっきりと認識しており、会員向けに膨大な数の報告書やガイドラインを発行してきた。その中には、通信事業者や機器メーカーがこの問題について質問された場合の要点をまとめたものもある(詳細は「Risk Communication Guide for Mobile Phones and Base Stations」を参照)。

 GSMAの研究・持続可能性研究担当上級ディレクター、ジャック・ロウリー氏によると、同団体は1000万ユーロ(約12億2000万円)以上を投じ、電磁放射線が健康に及ぼす影響に関する独自の研究を支援している。

 携帯電話放射線が人の健康に影響を及ぼさないことははっきり示されていると同氏は言い切った。

 「基本的に、(GSMAが資金を提供した)研究によって、正しく行われた研究の結果が裏付けられた。すなわち、国際暴露基準に従っていれば、携帯電話の使用であろうと携帯電話基地局であろうと、健康リスクの存在を裏付ける説得力のある証拠はない」

 もしも携帯電話放射線が健康リスクを生じさせるとすれば、既に明らかな証拠が存在しているはずだとロウリー氏は主張する。例えばがんは「15年間のデータを見ても、リスクの増大は示されていない」という。

 同氏はまた、NTPやラマツィーニ研究所の研究には欠陥があると主張する。例えばがんが大きくなる仕組みがそうした研究でははっきりしないため、人でも同じ現象が起きるかどうかを判断するのは難しいという。NTPの研究で示された健康への悪影響については、統計的に重要ではないと同氏は話す。

 一方、ラットの生涯にわたる放射線の影響について調べたラマツィーニ研究所の研究では単純に、実験に使ったラットが年を取っていたためにリスクが高まった可能性もある。反対に、放射線にさらされたラットの方が長生きしたという調査結果もある。

 「そうした研究の解釈については極めて慎重にならなければならない」とロウリー氏は強調し、問題なのは孤立して見た個々の研究結果ではなく、科学研究の総合性だと言い添えた。

 ICNIRPのバン・ロンゲン議長もNTPの研究に対して慎重な姿勢を示し、「オスのラットの心臓に特定種のがんの増大が見られたにすぎない」と話す。

 「米国人はこれを根拠として、無線周波(RF)暴露には明らかな発がん効果があると結論付けた。ICNIRPの結論は異なる。大型のオスのラットの熱効果が、そうした心臓のがんのリスクを増大させる原因になった可能性が大きい」(ロンゲン氏)

第3回(Computer Weekly日本語版 7月17日号掲載予定)では、研究結果の解釈を巡る問題と、2019年に公表される、ICNIRPによる携帯電話放射線の新規制値に関するロンゲン議長のコメントを紹介する。

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