2020年版:IntelとArmのCPU市場ポジションと動向プロセッサの勢力図再検討【前編】

絶対王者の地位を死守してきたIntelだが、今後もそれは続くのか。市場の変化は新たな勝者を生み出すのか。IntelとArmの戦略とその有効性を概観する。

2020年02月26日 08時00分 公開
[Daniel RobinsonComputer Weekly]

 Intelは長年データセンターを支配してきた。同社のx86サーバチップは10年以上、市場の90%以上を占めている。だが企業のワークロードにビッグデータ分析や機械学習が組み込まれるようになるにつれ、データセンターに変化が起きている。コンテナやサーバレスコンピューティングなど、クラウドネイティブの導入モデルも増加している。

 「クラウドによってプラットフォーム全体に多くのものを詰め込めるようになる。そのため、新しいプロセッサにも機会が生じている」と話すのは、独立系アナリストのクライブ・ロングボトム氏だ。

 「これまでのプラットフォームには高い均一性が求められた(そのためx86が用いられた)。だが仮想化とコンテナ化により、均一性はそれほど問題にならなくなった。さらに、GPU、FPGA、ASICなどが受け入れられることにより、ワークロードは必要に応じてプラットフォームの定められた領域をターゲットにできるようになっている」

Intelの戦略

 Intelは、ワークロードの変化する性質を十分認識している。2019年前半、同社が「Cascade Lake」マイクロアーキテクチャの「Xeon」に組み込んだ機能の一部がそれを示している。その一例がVNNI(Vector Neural Network Instruction)だ。これは既存のAVX-512ベクトル処理命令の拡張で、ディープラーニングに必要な演算の速度向上を目的としている。

 Cascade Lakeには「Intel Optane DC Persistent Memory」のサポートも追加されている。このメモリはDIMMスロットに装着でき、高価なDRAMの代わりにサーバ全体のメモリ容量を拡張できる。これは、分析に用いるデータセットがかつてなく大量になるに伴い、インメモリデータベースの処理などに役立つことが示されている。

 Intelの次期ロードマップは「Cooper Lake」だ。Cooper Lakeは2019年リリース予定だったが、2020年にずれ込んだ。これに続き「Ice Lake」が予定されている。Ice LakeはIntel初の10ナノメートルプロセスで製造されるサーバチップファミリーとされている。Ice Lakeは設計が見直され、命令パイプラインの幅と深さを広げたコアを特徴とする。機械学習をターゲットとする命令も追加実装される予定だ。

 2021年には「Sapphire Rapids」と呼ばれる大きなオーバーホールが予定されている。Sapphire RapidsはIntelが開発しているエクサスケールのスーパーコンピュータ「Aurora A21」での使用が予定されている。これにはGPU「Xe」(コードネーム:Ponte Vecchio)も実装される予定だ。実際のところ、IntelによるとCPU、GPU、FPGA、その他のアクセラレーターを組み合わせるXPUフレームワークアプローチは将来のワークロードの鍵になるという。

Armの勝機

 Armは自社でチップを製造せず、ライセンスを許可したパートナーに製造を任せている。このArmエコシステムは、サーバ市場で何度も失敗している。Calxeda、Qualcomm、Broadcom、そしてAMDまでもがどういう訳かArmベースのサーバチップを出して、その後撤退している。

 現時点で有望なメーカーが数社ある。Caviumの買収により「ThunderX」製品ラインを引き継いだMarvell Technology Group、スーパーコンピュータの開発に利用される「A64FX」チップを提供する富士通、Intelの元社長レネイ・ジェームズ氏が設立し、「eMAG」シリーズプロセッサを提供するAmpere Computingなどだ。

 Arm自体は「Neoverse」プロジェクトの下、デーセンターを狙う将来のコア設計に関する野心的なロードマップを練っている。2019年2月に発表された「Ares」は、最大128コアまでスケールアップするように設計されている。2020年にはAresよりも30%高速な「Zeus」の公開を予定している。さらに「Poseidon」を5ナノメートル製造プロセス向けに最適化することも検討している。

 Armのライセンスを受けたメーカーがよく直面する問題は、Armベースのサーバシステムをサポートするエコシステムの成熟度が、x86サーバのエコシステムのそれよりもはるかに低い点だ。それも、「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)や「Ubuntu Server」などといった重要なソフトウェアスタックや大きなソフトウェアプロジェクトなど、Armのサポートがあるにもかかわらずだ。

 「Armはもっと適切なエコシステムにすべきだった。同社は消費電力の少ない優れたエッジチップや離散型ワークロードサーバを作成している。だが、パートナーと力を合わせて優れたエコシステムを運営しているとは思えない」とロングボトム氏は話す。

 現在のArmサーバチップ群は、スーパーコンピュータに搭載されるかハイパースケール環境に導入されているのが分かる。このような環境ではArmチップの電力消費の少なさが大きな利点になる。富士通のA64FXは日本のスーパーコンピュータ「富岳」の原動力になっている。また、Marvellの「ThunderX2」もスーパーコンピュータに搭載され、「Microsoft Azure」に(社内専用で)導入されている。AmpereのチップはベアメタルクラウドプロバイダーPacketが幾つかのサーバインスタンスをサポートするのに用いられている。

後編(Computer Weekly日本語版 3月4日号掲載予定)では、AMDとIBMの概要とCPUメーカーが影響を受けるサーバを巡る市場の変化を解説する。

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