人工呼吸器を大増産した医療機器メーカーは「Amazon SageMaker」をどう使ったか「AWS」が支えたコロナ禍の人工呼吸器生産【後編】

Vyaire Medicalは新型コロナウイルス感染症拡大を機に人工呼吸器の大幅増産を決めた。部品の安定調達や生産時の不良率低減といった課題を解決するために、同社が活用したのがAWSで構築したデータ分析システムだ。

2021年03月03日 05時00分 公開
[Eric AvidonTechTarget]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、人工呼吸器の需給が急速に逼迫(ひっぱく)した。人工呼吸器メーカーのVyaire Medicalがこの状況に対処するために最初にしなければならなかったことは、製造スペースの拡大と製造スタッフの増員だった。これは米国の航空機メーカーSpirit AeroSystemsとの協業によって達成した。

人工呼吸器の大増産に「Amazon SageMaker」をどう生かしたのか

 Vyaire Medicalは製造スペースと人員を確保した後に、従来1日当たり6台製造していた人工呼吸器を、1日当たり750台に増産するための作業に取り掛かった。ここで役に立ったのが、2019年から構築を進めていたデータ分析システムだ。同社はこのデータ分析システムを構築するために、データベースウェアハウス(DWH)サービスの「Amazon Redshift」、ビジネスインテリジェンス(BI)サービスの「Amazon QuickSight」、検索サービスの「Amazon Elasticsearch Service」といったAmazon Web Services(AWS)のクラウドサービスを利用している。

 前編「『AWS』導入の医療機器メーカー 人工呼吸器を1日6台から750台へ大増産できた訳」に引き続き、同社がAWSサービスで構築したデータ分析システムを活用して、人工呼吸器を増産した事例を説明する。

 自社で持ち合わせる人工呼吸器の原材料の把握や、1日に750台の人工呼吸器を製造するために必要な部品を安定供給できるベンダーの特定のために、Vyaire Medicalはまずサプライチェーンの調査に乗り出した。人工呼吸器のエンドユーザーである病院の所在地を確認して、人工呼吸器を配送する方法を把握する必要もあった。

 Vyaire Medicalが生産計画を策定するときに、データ分析は「重要な役割を果たしていた」と、同社で分析とエンタープライズデータプラットフォームのシニアディレクターを務めるゴパール・ラマムルティ氏は話す。ラマムルティ氏によると、同社のデータ分析システムはサプライチェーンのデータを15分ごとに更新する。

 同時にVyaire Medicalは、人工呼吸器を生産するときの不良品率を改善する機械学習モデルも構築した。同社は生産段階で人工呼吸器の検査を3回実施する。パンデミック以前は、約73%の人工呼吸器で生産中に問題が見つかっていた。問題のある人工呼吸器は、医療現場で確実に稼働することを保証するために作り直さなければならない。

 1日の生産台数が6台だったときは、約73%という8割近い不良率でも許容できた。1日に750台の人工呼吸器を完成させる必要がある場合、この不良率では修理に時間がかかりすぎる。Vyaire MedicalはAWSの機械学習モデル構築サービス「Amazon SageMaker」を使用して、人工呼吸器の不良を予測して不良品の発生を防ぐ機械学習モデルを作成した。その結果、不良率は大幅に低下した。

 「解決しなければならない課題は今でも残っている」とラマムルティ氏は話す。同氏が注目するのはビジネスプロセスだ。Vyaire Medicalは、より適切に需要と製品の在庫を予測するために、AWSのETL(データの抽出、変換、ロード)サービス「AWS Glue」も導入した。「以前、当社は無秩序な状態だった。現在は真のデータ駆動型の文化が構築されている」と、同氏はデータ分析システム構築の成果を語る。

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