英国南極観測局(BAS)は、南極調査船の初航行に向けて調査データ保存用のストレージシステムを構築した。過酷な環境で大量のデータを運用するために、採用した製品とは。
南極で科学研究調査を実施する英国南極観測局(BAS)は、同機関所有の砕氷調査船「RRS Sir David Attenborough」に、調査データの保存と保護のためのストレージシステムを搭載した。
英国自然環境研究会議(NERC)の一組織であるBASは、英国が関係する科学調査に加え、大学などの研究機関と協力して北極と南極における大気科学や宇宙科学、地質学、生物学の研究調査にも携わる。その任務を遂行するため、BASは南極に5カ所の調査基地と5台の航空機に加えて、RRS Sir David Attenboroughを所有している。
全長約130メートルのRRS Sir David Attenboroughは、30人の乗組員と60人の科学研究者を収容できる。南極調査基地での調査用にBASが特注したものだ。高解像度カメラをはじめとする最新のデータ収集デバイス、水深1万2000メートルまで計測可能な音響測深機、その音響測深機を装備する小型船、自律型のヘリコプターや水中ドローンなどを搭載する。
BASはRRS Sir David Attenboroughの2021年11月の初航海を計画しており、これに向けて同機構は新たにストレージシステムを構築した。
2019年にBASはストレージシステムとバックアップシステムのテスト運用をオフィスで実施し、2020年9月にこれらのシステムを調査船に搭載する作業に着手した。同機構でITエンジニアとして働くジェレミー・ロブスト氏は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でシステムの搭載作業に多少の遅れが生じたものの、調査船は英国と北極近辺で複数回の試運転を実施した」と説明する。
調査データの保存と保護はBASにとって極めて重要だ。南極や北極という過酷な航行環境で稼働するデータセンターには難しい要件が伴う。「最大の課題はネットワーク接続で、これは他の問題の程度とは比較にならない。外部のネットワークに接続できないため、クラウドストレージは利用できない」とロブスト氏は話す。
RRS Sir David Attenboroughが搭載するプライマリーストレージ(アクセス頻度の高いデータを格納するストレージシステム)の容量は400TBで、HDDとSSD(ソリッドステートドライブ)のハイブリッドストレージアレイ「Quantum QXS」を2台採用。セカンダリーストレージ(バックアップ用のストレージシステム)には、同じくQuantum製のテープライブラリ「Quantum Scalar i3」を2台採用した。Veeam Softwareのバックアップソフトウェアを使用して、夜間にプライマリーストレージからテープライブラリに調査データをバックアップする。
BASはテープライブラリのファイルシステムに、データをファイル単位で扱う「LTFS」(Linear Tape File System)を採用した。データの取り出しを容易にするためだ。SynologyのNAS(ネットワーク接続ストレージ)も採用し、このNASにはプライマリーストレージで保存する調査データ以外のデータを保存している。
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
SSDの大容量化や価格競争力の向上により、「SSDオンリー」という選択肢が現実味を帯びつつある。しかし、HDDが完全に不要になるとは断言できない。その理由は何か。
昨今は企業で扱うデータが増加傾向にある上、働き方の変化などにも対応する必要性から、オンプレミスのファイルサーバをクラウドに移行する企業が増えている。そこで、移行先を選ぶポイントやセキュリティ対策について、動画で解説する。
ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。
職員700人が利用する部門システムの刷新を決断した大阪回生病院では、運用のシンプル化に期待して、HCIの導入を検討する。同病院がHCIに求めた要件とは何か。そして、この大規模移行プロジェクトを成功裏に完了できた理由に迫る。
長年にわたり強力かつ安全な基盤であり続けてきたメインフレームシステム。しかし今では、クラウド戦略におけるボトルネックとなりつつある。ボトルネックの解消に向け、メインフレームを段階的にモダナイズするアプローチを解説する。
Hyper-Vは「次の仮想化基盤」になり得るのか 有識者の本音を聞く (2025/3/14)
「生成AI」の自社運用に“ちょうどよいサーバ”の賢い選び方 (2025/3/12)
大量データのクラウド化を阻む「検索課題」を解決した東急建設の秘策とは (2025/2/25)
AI時代のデータ活用を阻む「ストレージ」の壁 悩める運用担当者の救世主とは? (2025/1/21)
生成AI時代の「コスト、電力、スペース」問題 救世主となるストレージはこれだ (2025/1/20)
お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。
「AIエージェント」はデジタルマーケティングをどう高度化するのか
電通デジタルはAIを活用したマーケティングソリューションブランド「∞AI」の大型アップ...
「政府」「メディア」への信頼度は日本が最低 どうしてこうなった?
「信頼」に関する年次消費者意識調査の結果から、日本においても社会的な不満・憤りが大...
「Threads」が広告表示テスト開始 企業アカウント運用のポイントとは?
Metaのテキスト共有アプリ「Threads」で広告表示のテストが開始され、新たな顧客接点とし...