オンプレミスのインフラとクラウドサービスが混在し、企業のシステム運用は複雑になっている。この問題は簡単に解決しない。今後さらに複雑になる可能性もある。それはなぜなのか。
前編「『オンプレミス回帰』『脱クラウド』でクラウドサービスの顧客離れは進むのか」は、オンプレミスのインフラとクラウドサービスが混在し、運用管理が複雑になる問題に触れた。この問題はそう簡単に解決しそうにない。
まず運用管理に1つのツールのみを使用するのか、オンプレミスのツールとクラウドサービスのツールを別々に使用するのかという問題がある。「この点に関しては議論が続けられており、決着が近づいている様子もない」と、調査会社Forrester Researchでリサーチディレクターを務めるローレン・ネルソン氏は話す。
オンプレミスのインフラとクラウドサービスの管理タスクは大きく異なることもある。ベンダー各社は自社の製品やサービスの多様化を図っていることも問題を複雑にしている。ネルソン氏は「企業は1つのツールを使用するのか複数のツールを使用するのかという点に加え、1つのツールでオンプレミスのインフラとクラウドサービスを効果的に管理できるのかどうかという点にも悩んでいる」と指摘する。
クラウドベンダーはパブリッククラウドの機能をオンプレミスのインフラでも使えるようにするサービスを提供している。例えばAmazon Web Services(AWS)の「AWS Outposts」、Googleの「Anthos」、Microsoftの「Azure Stack」などだ。「これらのサービスは同じAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使ってオンプレミスのインフラとクラウドサービスのシステムを管理できるため、有効な解決策の一つになる」とネルソン氏は話す。
インフラの運用管理の方向性は企業ごとに異なると考えられるが、今後はある程度「ハイブリッドクラウド」(オンプレミスのインフラとクラウドサービスを組み合わせたインフラ)を前提にしておいた方がいい。これまで企業は基本的にはオンプレミスのインフラとクラウドサービスを別々に扱ってきた。統合的に扱うための選択肢もあまりなかったからだ。ただしネルソン氏は「システムのより高いポータビリティ(可搬性)や統一性が求められており、オンプレミスのインフラとクラウドサービスを統合的に扱うための選択肢は増えるだろう」と予測する。
ハイブリッドクラウドの運用管理を簡素化するには、データ統合やデータファブリック(異なる場所に点在するデータを統合的に扱うアーキテクチャ)も重要になる。企業のシステムがさまざまな場所にあり、各システムからデータを抽出する必要がある場合には特にその重要性は高まる。
「オンプレミスのインフラかクラウドサービスか」という議論に対する賛成論と反対論にはそれぞれ正当な根拠があり、結論付けるのは簡単ではない。一方、調査会社IDCでアナリストを務めるディーパック・モハン氏は、今後はエッジ(データが発生する場所)の重要性が高まり、それによってインフラの在り方が形作られると考えているという。「エッジのデバイスやデータにコンピューティングを近づける構成が台頭している」と同氏は述べる。
IDCはエッジの市場が拡大することに伴って、ハイブリッドクラウドの構成も多様化すると予測している。「クラウドサービスの利用が拡大すると同時にエッジ市場も成長し、新種のハイブリッドクラウドの構成が目立ってくるだろう」(モハン氏)。同氏がこう予測するのは、企業の利用例と、ベンダーの製品やサービスの両方でその兆候が見られるからだ。「特にクラウドサービスとエッジの接続を視野に入れたベンダーの取り組みが目立っている」と同氏は説明する。
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