「RAID」と「バックアップ」に勝敗を付けることはできない。RAIDもバックアップも、それぞれ優れている点がある。そもそも両者の違いは何か。
「RAID」と「バックアップ」は、データ保護の観点ではどちらも知っておかなければならない仕組みだ。混同されがちだが、両者の役割は異なる。RAIDとは「Redundant Arrays of Inexpensive Disks」の略称。バックアップの代わりにはならないが、バックアップと組み合わせてデータ保護に役立てることはできる。
RAIDには主に2つの目的がある。まずはHDDの障害に対する保護だ。RAIDの基本的な実装方式である「ミラーリング」は、データの書き込み操作を複数のHDDに自動的に転送して、2つ以上の同一のディスクコピーを生成する。これによってHDDに障害が発生した場合に、複製先のデータを使用できるようにしておく。
「パリティ」(誤り検出符号)を使ったRAIDの実装方式は、複数のHDDにデータを分散させて書き込み操作をする。ミラーリングと異なるのは、1つのHDDに障害が発生してもシステム稼働を継続できることだ。その他、複数のHDDに同時に障害が発生した場合でもシステム稼働を継続できるRAIDの実装方式もある。
RAIDのもう一つの主な目的は、IOPS(1秒当たりのデータの読み書き速度)の向上だ。ブロック単位(ディスク内の小さな単位)でデータを分割する「ストライピング」という実装方式を用いることで、高速なIOPSを実現する。データの読み書きが高速になるのは、複数のHDDに対して同時にデータ読み書きの操作をするためだ。
ミラーリングとストライピングの両方の長所を組み合わせたRAIDの実装方式もある。「RAID 10」(「RAID 1+0」とも呼ばれる)は、ストライピングによるブロック単位のデータをミラーリングする。ミラーリングによる冗長性と、ストライピングによる高速性を兼ね備える。
RAIDとバックアップの基本的な違いは、バックアップがデータ損失からの復旧に役立つのに対し、RAIDはデータ損失の発生を防止する点だ。
HDDの障害に起因するデータ損失の防止にRAIDは役立つ。ただしデータ損失を引き起こすのは物理的な障害だけではない。例えばユーザーが誤ってファイルを削除したり、上書きしたりすることがある。ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)への感染によってデータが失われることもある。
RAIDとバックアップを比較した場合、RAIDにはないがバックアップだけが備える特徴がある。その一つが、指定した時点におけるデータを復元する「PITR」(Point In Time Recovery)だ。例えばRAIDを組んでいるボリューム(ストレージの単位)にあるファイルを、ユーザーが誤って削除したとしよう。RAIDはHDDの物理的な障害に備える手段であり、ユーザーが削除したファイルの復元には役立たない。ユーザーがファイルを完全に削除した場合、元に戻す方法はバックアップデータからの復元だ。
バックアップとRAIDを併用すれば、バックアップ作業の効率性が向上するメリットがある。通常、バックアップ用のディスクアレイにはRAIDが組み込まれている。こうしたディスクアレイは、パフォーマンスとフォールトトレランス(障害が発生した場合でもシステム稼働を継続する特性)の両方を念頭に置いて設計されているのが通例だ。そのためハードウェアの障害によるデータ損失に備えてバックアップデータを取得しつつ、バックアップと復元のプロセスを高速化できる。
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