NVIDIAのArm買収で広がる波紋 「Armアーキテクチャ」制限の事態も?NVIDIAによる混迷の「Arm買収劇」【後編】

NVIDIAがArmを買収することに対して強い懸念が生じている一因は、世界のさまざまな企業がArmのライセンスを受けているからだ。仮に買収が成立した場合、どのような影響が出るのか。

2021年05月21日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

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 NVIDIAがArmを買収することで半導体市場はどう変わるのか。前編「NVIDIAのArm買収にGoogleもMicrosoftも反発 その理由は?」、中編「Arm買収に打って出たNVIDIA ライセンス事業のオープンさを維持できるのか?」に続き、この買収による影響を予測する。

広く浸透する「Armアーキテクチャ」

 業界からはこの買収に対して、公正な競争を阻害するのではないかと懸念を示す声が上がっている。ただしQualcommのような半導体ベンダーは、明確な立場を取るのが難しい状況に置かれている。理由の一つは「Armアーキテクチャ」(Armが設計するプロセッサのアーキテクチャ)が業界に広く普及していることにある。

 世界中のITベンダーが、自社のさまざまなデバイスにArmアーキテクチャを採用している。「そうしたITベンダーがすぐに設計を置き換えることはできない。それは不可能だ」。調査会社Deep Analysisの創業者でアナリストのアラン・ペルツシャープ氏はそう指摘する。

Armアーキテクチャのライセンス事業が問題になる可能性も

 ITベンダーがArmと縁を切ることを選ぶ可能性もある。だが、その決断は容易なことではない。「長期的な問題は、同等なものを独自に作り出せるか、あるいは代わりの選択肢を見つけられるかだ。答えはイエスであり、どちらも実現できる。だがそれが簡単なら、間違いなく彼らはとっくにそうしていたはずだ」とペルツシャープ氏は語る。

 「米国企業もこの買収の影響を懸念する中、中国ではこの買収へのはるかに大きな反発が起こる」。こう予想するのは、調査会社IDCのワールドワイドインフラプラクティス担当グループバイスプレジデント、アシシ・ナドカーニ氏だ。NVIDIAはこの買収によって、独自の半導体の製造だけでなく、設計も手掛ける半導体ベンダーになる。これに伴い、NVIDIAのライバル企業、特にHuawei Technologiesのような企業にArmアーキテクチャをライセンスすることが、NVIDIAにとっての問題になる可能性があるからだ。

 ナドカーニ氏によると、Huaweiは独自のGPU(グラフィックス処理ユニット)を開発しており、NVIDIAと競合している。一方でHuaweiとArmは、中国でArmの関連会社を通じて協業している。NVIDIAがArmを傘下に収めれば、ArmとHuaweiはライバル企業になる。中国企業であるHuaweiが、米国政府の規制により、Armとのビジネスを制限される可能性もある。

 「中国企業はArmを頼りにしていた」とナドカーニ氏は説明する。Armは米国企業ではなく英国企業であり、Armの資本が入った合弁会社を中国に持っている。「その合弁会社のおかげで、中国企業は米国政府による中国への制裁を逃れていた」と同氏は語る。米国企業であるNVIDIAがArmの親会社になれば、中国におけるArmの合弁会社は独立性を失う可能性がある。「それを避けるために中国側がNVIDIAに対してどんな主張をするかは分からないが、強硬なものになるのは確かだ」(同氏)

 ArmのIP(知的財産)ライセンスを受ける企業はHuaweiだけではない。「中国の新興半導体ベンダー数社も、NVIDIAによるArm買収の影響を受ける可能性がある」と、ITコンサルティング会社J.Gold Associatesのプレジデント兼プリンシパルアナリスト、ジャック・ゴールド氏は話す。

 欧州でも米国でもこの買収に対する反発の声が上がっているため、買収の承認に関する当局の判断は大きく遅れる可能性がある。「買収が成立するとしても、とんとん拍子とはいかず、時間のかかるプロセスになるだろう」(ゴールド氏)

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