NVIDIAがArmを買収することに対して強い懸念が生じている一因は、世界のさまざまな企業がArmのライセンスを受けているからだ。仮に買収が成立した場合、どのような影響が出るのか。
NVIDIAがArmを買収することで半導体市場はどう変わるのか。前編「NVIDIAのArm買収にGoogleもMicrosoftも反発 その理由は?」、中編「Arm買収に打って出たNVIDIA ライセンス事業のオープンさを維持できるのか?」に続き、この買収による影響を予測する。
業界からはこの買収に対して、公正な競争を阻害するのではないかと懸念を示す声が上がっている。ただしQualcommのような半導体ベンダーは、明確な立場を取るのが難しい状況に置かれている。理由の一つは「Armアーキテクチャ」(Armが設計するプロセッサのアーキテクチャ)が業界に広く普及していることにある。
世界中のITベンダーが、自社のさまざまなデバイスにArmアーキテクチャを採用している。「そうしたITベンダーがすぐに設計を置き換えることはできない。それは不可能だ」。調査会社Deep Analysisの創業者でアナリストのアラン・ペルツシャープ氏はそう指摘する。
ITベンダーがArmと縁を切ることを選ぶ可能性もある。だが、その決断は容易なことではない。「長期的な問題は、同等なものを独自に作り出せるか、あるいは代わりの選択肢を見つけられるかだ。答えはイエスであり、どちらも実現できる。だがそれが簡単なら、間違いなく彼らはとっくにそうしていたはずだ」とペルツシャープ氏は語る。
「米国企業もこの買収の影響を懸念する中、中国ではこの買収へのはるかに大きな反発が起こる」。こう予想するのは、調査会社IDCのワールドワイドインフラプラクティス担当グループバイスプレジデント、アシシ・ナドカーニ氏だ。NVIDIAはこの買収によって、独自の半導体の製造だけでなく、設計も手掛ける半導体ベンダーになる。これに伴い、NVIDIAのライバル企業、特にHuawei Technologiesのような企業にArmアーキテクチャをライセンスすることが、NVIDIAにとっての問題になる可能性があるからだ。
ナドカーニ氏によると、Huaweiは独自のGPU(グラフィックス処理ユニット)を開発しており、NVIDIAと競合している。一方でHuaweiとArmは、中国でArmの関連会社を通じて協業している。NVIDIAがArmを傘下に収めれば、ArmとHuaweiはライバル企業になる。中国企業であるHuaweiが、米国政府の規制により、Armとのビジネスを制限される可能性もある。
「中国企業はArmを頼りにしていた」とナドカーニ氏は説明する。Armは米国企業ではなく英国企業であり、Armの資本が入った合弁会社を中国に持っている。「その合弁会社のおかげで、中国企業は米国政府による中国への制裁を逃れていた」と同氏は語る。米国企業であるNVIDIAがArmの親会社になれば、中国におけるArmの合弁会社は独立性を失う可能性がある。「それを避けるために中国側がNVIDIAに対してどんな主張をするかは分からないが、強硬なものになるのは確かだ」(同氏)
ArmのIP(知的財産)ライセンスを受ける企業はHuaweiだけではない。「中国の新興半導体ベンダー数社も、NVIDIAによるArm買収の影響を受ける可能性がある」と、ITコンサルティング会社J.Gold Associatesのプレジデント兼プリンシパルアナリスト、ジャック・ゴールド氏は話す。
欧州でも米国でもこの買収に対する反発の声が上がっているため、買収の承認に関する当局の判断は大きく遅れる可能性がある。「買収が成立するとしても、とんとん拍子とはいかず、時間のかかるプロセスになるだろう」(ゴールド氏)
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
クラウド全盛期になぜ「テープ」が再注目? データ管理の最前線を探る (2025/4/24)
データの多様化と肥大化が加速 ファイルサーバ運用は限界? 見直しのポイント (2025/4/8)
Hyper-Vは「次の仮想化基盤」になり得るのか 有識者の本音を聞く (2025/3/14)
「生成AI」の自社運用に“ちょうどよいサーバ”の賢い選び方 (2025/3/12)
クラウドストレージは便利だけど検索性が課題? 東急建設の解決策は (2025/2/25)
いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。
「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。
「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。