オンライン教材「すらら」が“脱オンプレミス”からの「AWS」移行を選んだ理由EdTech企業のクラウド活用

EdTechベンダーのすららネットは、オンライン教材「すらら」のインフラに「AWS」を利用している。オンプレミスサーバからAWSへ移行した理由と、新型コロナウイルス感染症の拡大ですららに起きた変化を取り上げる。

2021年09月09日 05時00分 公開
[上田 奈々絵TechTargetジャパン]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、教育機関の間では自宅学習やオンライン授業に利用できるデジタル教材といった、教育に役立つITサービスを意味する「EdTech」サービスの活用が広がっている。すららネットが小中学校や高等学校、学習塾、一般家庭向けに提供するオンライン教材「すらら」「すららドリル」もその一つだ。

 すららネットの中核サービスであるすららは、個々の学習者の習熟度や能力に応じた学習「アダプティブラーニング」の実現を支援する。アニメーションや図解を用いた講義に、学習内容の理解度を確かめる問題を組み合わせた、対話型の学習教材であることが特徴だ。学習内容を定着させるためのドリル機能や、学習者の習熟度を測定するテスト機能も搭載する。

 教育機関や教育委員会がすららを導入する場合、利用者数が一度に万単位で増加することがある。すららネットは従来、オンプレミスのサーバを使用して同サービスを提供していたが、リソースの拡張性に欠け、利用者の増加に合わせたサーバの設計や増強に時間がかかることが課題となっていた。そこで同社は、事業を拡大させる上でインフラの拡張性を高めることが不可欠だと判断し、Amazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群へのシステム移行を決定した。

すららネットが「AWS」を選ぶ決め手となった“あの理由”

 すららネットはAWSの採用に当たり、サポート体制を高く評価した。公立学校へのすららの導入が決まると、同社は短期間で大規模なサーバの増設やシステムの改善が必要になることがある。そうした場合に「AWSからインフラの拡張に関する技術支援を受けることができます」と、同社で自社サービスのシステム開発を担当する田口貴子氏は話す。オンプレミスサーバからAWSへシステムを移行させたことで、当初の狙いであったインフラの増強にかかる時間を大きく短縮することができたという。「オンプレミスサーバであれば2週間ほどかかっていたサーバの拡張作業が、2、3日でできるようになりました」と田口氏は説明する。

サービスを無停止で提供するために細かい監視を実施

 AWSへの移行後、すららネットはオブジェクトストレージサービス「Amazon S3」(Amazon Simple Storage Service)のログ記録機能やアプリケーション監視サービス「Amazon CloudWatch」など、インフラ監視を目的としたAWSのサービスや機能を利用している。これにより、AWSへの移行前と比べてサーバの負荷状況をより詳細に監視したり、アラートをより積極的に活用したりすることが可能となった。

図版 図 すららのシステム構成図(出典:すらら資料)《クリックで拡大》

 すららのシステムが停止したら、同サービスを採用する教育機関における授業の進行が滞る恐れがある。そのため、すららネットは本番用のインフラから予備のインフラにレプリケーション(複製)するDR(災害対策)構成を取った(図)。

 安定したサービス運用のために、すららネットはスロークエリ(標準値よりも時間がかかっているデータベースへの問い合わせ)の監視やシステムの死活監視にも力を入れている。利用者のサービス利用中に一定時間を超える遅延が発生したらアラートを出す仕組みを採用した。アラートが出たときはすぐに委託先の協力会社に連絡し、問題の原因を特定して修正する体制を整えた。

 すららは定期的にサービス内容を見直し、関連するシステムのアップデートを実施している。アップデート時にはあらかじめサーバを一時的に増強する形で負荷対策も実施している。「利用者からは、すららについて『コロナ禍でも安定して利用できた』『サービスが止まることがないため、いつでも利用できる』との声をいただいています」と田口氏は話す。

自宅学習のニーズが高まり急増した利用者

 2020年3月から5月にかけて、すららネットは、すららを一時的に無料で提供するキャンペーンを実施した。経済産業省のCOVID-19による学校の休業対策プロジェクト「#学びを止めない未来の教室」の一環だ。この後に利用者の無料アカウントから有料アカウントへの移行が進んだことや、教育機関が自宅でのオンライン学習に重点を置くようになったことから利用者数が増加した。2020年3月末に約7万人だった利用者数は2020年6月末時点で約57%増の約11万人となったという。

 すららは、学習者が自ら学習目標を立て、目標達成に向けて学習することを支援する仕組みを搭載する。そのため教育機関は、長期休暇中に学習者に課する自習用教材としてもすららを利用できる。「この特徴を生かし、COVID-19による休校期間中にも広くご利用いただきました」と田口氏は説明する。インフラの拡張は、コストの増大につながるため判断が難しい。すららねっとはAWSのサポート担当者からサーバのスペックやリソース調達のタイミングについてアドバイスを受けることができたため、スムーズに拡張できたという。

 すららネットは今後、AWSのマネージドBI(ビジネスインテリジェンス)ツール「Amazon QuickSight」といったAWSのデータ分析サービスを活用し、すららの利用状況を分析するシステムの開発を進める意向だ。田口氏はクラウドサービスの大きなメリットとして、スモールスタートできる点を挙げる。「小さい単位で事業を始め、徐々に拡大できるようになりました」(同氏)。サービスが豊富なため、全てを自社開発する必要をなくせることもAWSのメリットだと評価する。現時点ではAWSを利用するときに課題やデメリットを感じておらず、引き続きAWSを利用して自社サービスのシステム開発を続ける意向だ。

 教育機関はCOVID-19の拡大防止のために学習者の登校を制限したり、臨時休校に踏み切ったりせざるを得ない状況にある。こうした中、学習者が自宅で学習できるEdTechサービスのニーズはより高まる可能性がある。インフラの拡張や縮小が可能で、機能が豊富なクラウドサービスを利用することは、EdTechベンダーにとって、教育機関のニーズに合わせてスムーズにサービスを提供するための有効な手段となり得る。

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