消費者に最もお得な支払い方法を提案するサービス「AIクレジット」を手掛けるAIクレジット社。同社は事業のインフラとしてAWSを利用している。同社CTO兼COOの足澤 憲氏に、AWSを使う理由や料金節約のこつを聞いた。
「AIクレジット」は全国の店舗とそこで使えるクレジットカードや電子マネーといった決済サービスの組み合わせから、最も割引率が高い支払い方法を提示するスマートフォン用アプリケーションだ。開発元のAIクレジット社は、同サービスのインフラにAmazon Web Services(AWS)のクラウドサービスを利用している。
AIクレジット社がインフラにAWSを選択した理由とは何か。AWSの利用料金を抑えるための工夫とは。前編「クレカ40枚所有の『セコロジスト』が語る、AWSで動くお得アプリ『AIクレジット』の中身とは?」に続き、同社の取締役兼CTO(最高技術責任者)兼COO(最高執行責任者)を務める足澤 憲氏に聞いた。足澤氏は40枚以上のクレジットカードを所有し、「お得」を徹底的に追求する「セコロジスト」を自称する。
―― AIクレジットのインフラにAWSを採用した理由を教えてください。
足澤氏 他のベンダーのクラウドサービスも含めて幾つか比較検討し、最終的には学習コストの削減を念頭に、自分の中で一番知見が多かったAWSを選びました。前職でAWSを使っており、サービスの使い方や運用に関するノウハウが既に身に付いていたことが背景にあります。
―― AWSを採用したことでどのようなメリットがありましたか。
足澤氏 AWSに限らずクラウドサービス全般の話になるのですが、広告やメディアへの露出でユーザー数を増やすサービス立ち上げ期の段階では、クラウドサービスの拡張性の高さは大きなメリットになると考えています。
AIクレジットに関しては、当社の取り組みがテレビ番組で取り上げられるタイミングでアクセスが急増する傾向にあります。そのようなタイミングで一時的にサーバを拡張しておくことで、サービスがつながりにくい状態になることを防いでいます。父の日のポスター(前編参照)が話題になった時からは、一時的なアクセス数の増加というよりも、積み重なるようにユーザー数が増えています。クラウドサービスであれば、ユーザー数の増加に合わせてインフラを拡張することが容易です。
受託開発事業では別のメリットを得ています。以前は、1社の依頼主が運用している複数のサービスをレンタルサーバの運用を含めて引き受けていました。借りているレンタルサーバが分散していることに加え、セキュリティレベルもばらばらで、管理が非常に煩雑でした。それらを全てAWSに置き換えたことで、インフラの管理が一括でできるようになったのです。インフラ全体のコスト管理はAWSのコスト計算ツール「AWS Cost Explorer」を使うことで容易になりました。
―― AWSのコストを抑えるために工夫をされていることはありますか。
足澤氏 「セコロジスト」的な使い方も模索しています。AWSのロードバランサーサービス「Elastic Load Balancing」は設定次第で、複数の証明書で共通のロードバランサーを使ったルーティングが可能になります。これによりサービスごとにロードバランサーを立てる必要がなくなるため、ロードバランサーの数を必要最小限に抑えることが可能です。
ロードバランサー1台当たりの利用料金は微々たるものですが、台数が増えればランニングコストが無視できない規模になります。ロードバランサーでWebアプリケーションファイアウォール(WAF)サービスの「AWS WAF」を使用する場合は、WAFの利用料金もロードバランサーの分だけ節約できるようになります。負荷分散の対象となるサーバの仕様や用途によってはこの手法を利用できないことがありますが、問題がないと分かっている場合は、この手法で運用しています。
―― こうしたコスト節約のためのノウハウを得るにはどうすればよいのでしょうか。
足澤氏 AWSはサービスや料金プランが非常に多く、ユーザーはどれを選ぶべきなのか迷ってしまうことがあるかもしれません。AWSのサポート担当者から有用な情報が得られますので、「この選び方で損しないですよね?」と積極的に聞いてみるのがいいと思います。
自社サービスに加えて受託開発を事業とする当社ならではの「お得」なポイントもあります。受託した案件で新しい仕組みやサービスが必要になったときには、まず受託先から開発費を得て導入します。その案件で社内に蓄積した新しい知見は、他の自社サービスにもそのまま横展開できるようになります。当社の場合は、AWSというインフラを専門的に扱っていることが、結果として会社全体での開発コスト抑制に寄与しているように思います。
―― AWSを選ぶことによるデメリットはありますか。
足澤氏 自社で提供する大規模なサービスのインフラとして採用するのであれば、デメリットになることはほとんどないと考えています。極めて小さい規模のサービスを運用する場合には、AWSは機能的にもコスト的にもリッチ過ぎて、サービスを維持するのが大変なのではないかと思います。途中で開発や運営を他の会社に引き継ぐことを考えている場合、移行先にも、AWSをきちんと使える会社を探さないといけないという点には注意が必要です。
―― オンプレミスインフラで運用していたシステムを早期にクラウドサービスへ移行させた企業では、一部に「脱クラウド」「オンプレミス回帰」といった揺り戻しの動きがあるようです。AIクレジット社は、今後何らかの形でオンプレミスインフラを利用する計画はありますか。
足澤氏 当社は創業時からAWSをサービスのインフラとして利用していましたし、AIクレジット事業と受託開発事業においてハードウェアを資産として持たないことの恩恵は大きいと思っています。そのため現時点では、オンプレミスインフラを利用する計画はありません。
オンプレミスインフラの採用を検討するとすれば、極めて高度なセキュリティが必要なサービスを始めた場合が考えられます。または現在のサービスが巨大サービスに育ち、日々発生するネットワークコストが、オンプレミスインフラでの想定コストをはるかに上回るようになった場合です。
―― AIクレジットの今後の展開をお聞かせください。
足澤氏 AIクレジットでポイントを獲得できるサービスが2021年7月にスタートしました。これ以外にも、AIクレジットユーザーの利便性を高めるために、スマートフォン用アプリケーションの機能を充実させるなどの取り組みを計画中です。具体的には、店舗情報の精度を今以上に高める取り組みに加え、チェーン店舗が独自に導入している決済システムを、AIクレジットのアプリケーション内から遷移せずに使えるようにする仕組み作りを進めています。
将来的にはAIクレジット社独自の決済サービスを作っていきたいという話も社内で出ています。これについては長い目で期待していただければと思います。
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