低消費電力で回路を再構成可能な新メモリデバイスの可能性人間の脳がヒント

シンガポール国立大学が脳をヒントにした分子メモリスタを発表した。この技術を応用したメモリデバイスは消費電力が少なく、瞬時に回路を再構成してさまざまな計算タスクをこなすという。

2021年10月22日 08時00分 公開
[Aaron TanComputer Weekly]

 シンガポール国立大学(NUS)の研究者チームが、斬新な分子メモリスタを開発した。さまざまな計算タスクに合わせて構成できるこの分子メモリスタは、次世代チップへの道を開く。

 電子機器の多くは、事前に定義した論理機能を実行するように配線されたスイッチベースの半導体論理回路に依存する。

 人間の脳の柔軟性と適応力にヒントを得た分子メモリスタは、印加電圧の変化によって再構成できる。こう語るのはこのアイデアを思い付いたスリートシュ・ゴスワミ氏(NUS物理学部研究員)だ。

 「神経が記憶を保存するように、情報を保持することも可能だ」

 この研究を率いるNUS物理学部准教授のアリアンド氏によると、分子メモリスタは低消費電力コンピューティングの重要な突破口であり、論理回路の設計方法を根本的に考え直すことになったという。

会員登録(無料)が必要です
iStock.com/Igor Kutyaev

 Indian Association for the Cultivation of Science、HPE、アイルランドのリムリック大学、米オクラホマ大学、米テキサスA&M大学と共同で行われたこの研究は、2021年9月1日発行の英Nature誌で発表された。

 NUSは、脳の仕組みにヒントを得たこの技術を次のように説明している。分子メモリスタの構成可能性は、リガンドという有機分子に結合する中央金属原子を持つフェニルアゾピリジンの化学族に属する分子系によって実現した。

 「これらの分子は電子スポンジのようなものだ。6つの電子伝達を提供でき、結果として5つの異なる分子状態を持つ。この5つの状態の相互接続性が再構成の可能性を支える鍵になる」(ゴスワミ氏)

エネルギー効率の高いデバイス

 研究チームは、この分子メモリスタを使ってさまざまな計算タスク用のプログラムを実行した。概念実証として、この技術によって複雑な計算を単一ステップで実行でき、次の瞬間には別のタスクを実行するように再プログラムできることを実証した。

 各分子メモリデバイスは数千個のトランジスタと同じ計算を実行できる。そのため、この技術は強力かつエネルギー効率の高いメモリオプションになる。

 「この技術は、携帯電話やセンサーのようなハンドヘルド機器や電力が制限される用途でまず利用される可能性がある」(アリアンド氏)

 チームは、このイノベーションを組み込む新しい電子機器を構築して既存技術に関連するシミュレーションとベンチマークを行っている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 プリサイスリー・ソフトウェア株式会社

データソート性能向上でここまで変わる、メインフレームのシステム効率アップ術

メインフレームにおけるデータソート処理は、システム効率に大きく影響する。そこで、z/OSシステムおよびIBM Zメインフレーム上で稼働する、高パフォーマンスのソート/コピー/結合ソリューションを紹介する。

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

従来ストレージの約8倍の容量を確保、エルテックスが採用したストレージとは

ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

空冷だけではなぜ不十分? データセンターの熱負荷対策をどうする

CPUやGPUの性能向上に伴い、データセンターでは今、発熱量の増加にどう対応するかが課題となっている。特に高密度なサーバ環境では、従来のファンやヒートシンクに頼るだけでは熱管理が難しい。こうした中、企業が採用すべき手段とは?

比較資料 アイティメディア広告企画

ユーザーレビューで徹底比較、オンラインストレージ選定ガイド【2025年冬版】

オンラインストレージは幅広い用途で利用されるだけに、市場に提供される製品も多数に上る。最適なサービスを選定するための基礎知識を解説するとともに、ユーザーレビューから分かったサービスの違いを明らかにする。

製品資料 Dropbox Japan株式会社

ファイルサーバをアウトソーシング、「クラウドストレージサービス」の実力

中堅・中小企業の中には、IT担当者が社内に1~3人しかいないという企業も少なくない。そのような状況でも幅広い業務に対応しなければならないIT担当者の負担を減らす上では、ファイルサーバをアウトソーシングすることも有効だ。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。